235話 ラーメンを食すお作法
「こんなに慌ただしく起こされると思わなかった…」
ラーメンを啜りながら、シン王子はボソッとつぶやく。
誠に申し訳ありませんでした。
正直言うと、私も、もう少しゆっくりとした、気持ちのいい寝起きをプレゼントできる予定だった。
カップラーメンによって、そうならなかっただけで。
ラーメンが伸びてしまう前に、シン王子を起こさないといけないと思ったのだ。
「チヒロがアホのようなことを言い出すから。」
バカの次はあほだと?
「いやいや、時間の有効活用でしょ。」
「有効活用できてなかったから、こんなに慌ただしくなったんだろ?」
ズルズルと麺を啜りながら言うネロ。
…その通りですけど?
「いや、ラーメンを作っておいてくれたのは、助かったさ。ラーメンの麺がのびなくてよかった…」
「もう、すみませんでした!」
そんなに言わなくてもいいじゃん。
拗ねてやるんだから。
ズルズルと麺を啜りながら、ぶーたれていると、ネロとシン王子の方からクスクスと笑い声が聞こえる。
チラリと二人の方を見ると、ラーメンを食べる手を止めて、笑いを噛みしめるように下を向いていた。
いやいや…笑い声が普通に出てたよ?
噛みしめきれてないんですけど?
「悪かった。そんな顔をしないでくれ。フフ…」
そんな顔?
首を少し傾げると、ネロの方から吹き出す音。
「その顔、だいぶ面白いことになってるぞ…フフ…」
この人たち、人の顔見て笑っているんですけど?
しかも、乙女がラーメンを啜る顔を見て笑っている。
信じられないんですけど?
乙女が男性の前で食べるにはハードルの高いラーメン。
食べている姿を見て、爆笑…
この男どもは!
「違う、ラーメンを食べているところを見て笑ったんじゃない。」
「じゃあ、なんですか?」
「いや…ラーメンを啜りながら、口を膨らませて拗ねるのが…あまりにも…器用…だと思って…だな。」
笑い過ぎですけど?
「そんな顔をしないでくれ」
「どんな顔をしているか分かりませんが、させているのはお二人なのでは?」
もうラーメン食べられない…
恥ずかしすぎる…
「俺らのことは気にせず食べてくれ。」
…無理だろ。
でも食べないと進まず、最終的に二人から見られて食べなくてはならない。
それは、それで嫌だ。
私は、後ろにクルっと回って、二人に背中を向けて食べることにした。
これなら気にならないしね。
そして、急いでラーメンの麺を啜り、いち早く食べ終えることに成功した。
ラーメンの汁はその辺に捨てるわけにもいかないので、空になったポットの中にいれて、カナリスに帰ってから捨てよう。
「二人とも、早く食べてください。食べ終えたら出発しますので。」
今度は、私が二人のラーメンを啜る様子を見てやろう。
食べている時に、じっと見られるのって思ったよりも緊張するんだからなと子供っぽいことをしてみる。
そして、しなきゃよかったなと思うのだが…
二人は何も気にせずラーメンを啜っている。
そして、ツッコミ所が全くないほど、二人のラーメンの食べ方は綺麗だった。
以前も一緒に食べたけど、そんなにきれいな食べ方でしたっけ?
いや…私は、ラーメンを食べるのに夢中で気が付いていなかっただけかもしれない。
ラーメンの食べ方に綺麗なんてあるの?
ネロは綺麗というよりもかわいいと言った感じだけど、モキュモキュと一生懸命に麺を啜る姿はたまらないな…
そして、シン王子。
シン王子はラーメンを啜っているにもかかわらず、上品なのだ。
どうしてなの?
普通にデートに行って、シン王子の様にきれいな食べ方をされたら、人として打ちのめされそう。
負けたと完敗宣言である。
そして、改めて思うことは、食べ方がきれいな人って、見ていて気持ちがいいなと思わず笑みがこぼれてしまう。
「お前も人が食べているところを見て笑っているじゃないか。」
「これは、好感の笑みなのでいいんです。」
「理不尽じゃないか?」
ネロに指摘されたが、自分のことは棚上げをして、二人が食べ終わるのを待った。
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