230話 地獄を突っ切る一本の道
周囲を確認するため、ゆっくり目を開ける。
「まぶし…明るいよ。」
あまりの眩しさに目を細めながら、確認することにした。
まず一番初めに目に入ってきたものは、赤い泉。
ぼこぼこと音を立て、ドロッとしたように見えるものはマグマのように見えた。
近づいてみると、炎の滝同様にちゃんと液体であり炎ではないと分かるのだが、その赤い湖は炎が燃え滾っているように見えて、眩しかった。
「あそこに道があるな。」
シン王子の言う通り、赤い泉の真ん中を突っ切るように一本の道があり、その道は続く。
「まるで、地獄の入り口だな。」
そう。
プティテーラの人が例えるなら、地獄なのだろう。
マグマの穴で、底は見えない。
シン王子が言っていた地獄の特徴によく似ていた。
「刻印もここでは必要なさそうだな。」
そう言って、シン王子は刻印に魔力を流すのをやめ、カバンにしまった。
赤い泉のあまりの明るさに、目が眩むほどだ。
赤い泉が、明かりの代わりを果たしている。
私もネロの刻印を預かり、自分の物と一緒にカバンにしまう。
落としたら、二度と手元に戻ってくることはないだろう。
ここで落としたらシャレにならない。
さっきまで、刻印がないと全く見えないと言ってもいい感じだったのに。
「この赤い泉も、水面がぼこぼこといっていますね。」
「本物の炎ではないにしろ、相当熱いだろうな。」
「熱気が歩いていても、足元に伝わってきますし。」
まさに、マグマの穴と言ったところだろう。
足元の方は、焼けそうな熱さだ。
なんていうか、痛い…
日焼けとは違うが、ピリピリとした熱さを足元に感じていた。
我慢できない痛さではないけど、正直歩きたくない痛さである。
ただ、マグマのような赤い泉を突っ切るこの道しかなく、ここを歩いていくしかない。
「まだ、奥に道が続いているみたいだな。」
「行ってみましょう。」
マグマの穴の道の上を通って、奥に進んでいく。
こんなリアルにマグマに見える物の上を歩くのはドキドキする。
落ちたらどうなってしまうんだろうと。
「落ちるなよ。」
「うん。気を付ける。」
ネロに声をかけてもらい、私はより気を引き締めた。
絶対に落ちたくない。
落ちたら火傷じゃすまないんだろうなとちゃんと理解している。
慎重に、道から外れない様にゆっくりと進んでいく。
今までと明らかに雰囲気が違った場所に出たことで、緊張感が増した。
ここまで歩いてきた中で、こんなに危険な道はあっただろうか?
危なそうだなと思えば、回避できるレベルの危険度だった気がする。
直接的に体に影響がありそう場所なんて、あったんだなぁ。
足元の岩の道が、歩いた衝撃でパラパラと少し崩れ、砂や砂利が地獄の穴へと吸い込まれていく。
大き目の塊が落ちた時、ジュッと音を立てて、大きい塊の砂利は沈んでいった。
こっわ…
「今のやばっ…」
足元に熱気を感じていても、慎重に歩けば、十分通れる道の幅はある。
それでも、ドキドキと心臓は音を立てて、少しの恐怖が足をすくませた。
「大丈夫か?」
「え?」
急に、ネロから、声を掛けられて驚いた。
「顔がやばいぞ。」
ネロの手が私の眉間に添えられた。
意識がそこに行くと、ネロが急に私の眉間をぐりぐりと押してきた。
慌てて、ネロの手を取り、自分の両手で眉間を抑え、ネロを見る。
「なに?なに?」
「しわが寄っている。取れなくなるぞ。」
「それは、困る。」
そんなに力が入っていたのかな…?
見えもしない自分のおでこを上目づかいで見て、自分の手でマッサージをしてほぐす。
「緊張しすぎ。力が入りすぎだ。そんなことをしてたら、余計に視野が狭くなって、怪我をするぞ。」
ネロは、私にそう言うと、またフワフワと私の隣を飛び始めた。
うわぁ…
そんなに緊張してたんだなぁ。
確かに嫌な緊張の仕方をしていたとは思ったけど、そこまでだったとは…
毎回、こんな事ばっかりだなぁ。
ネロってホントに人のことを見ているというか。
気遣いがあまりにもさりげないんだけど、そのさりげなさの中には、あり得ないくらいの気持ちがこもっている気がした。
そんなことを考えていると、少しだけ足取りが軽くなった気がする。
私って思ったよりも単純だったのかもしれないな。
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