21話 死ぬ気になれば、成せる、かもしれない
火おこしをするべく、材料を調達しに森の中へ。
確か、真っすぐな木と、板がいるんだよね。
キョロキョロと使えそうな材料を探す。
それにしても、火を手に入れるって、なんかロマンあるんだよね。
だって、人類が発展するために生み出された、文化といっても過言じゃないと思う。
歴史の授業でも、火がなかったら人類は、ここまで来れなかっただろう、って言ってたような、言って無かったような。
普通に生活してたら、火起こしをしよう、なんてまず思わないだろうし。
まぁ、火おこしなんて、一回もしたことない、ずぶの素人が見るロマンだけどね。
「お前、それなにやってるんだ?」
「これは、迷子にならないように、通った証拠を残してるの。」
そう、私が拠点から森に入って、やったこと。
通ってきた道に生えていた草の先端に結び目を作ってきたのだ。
せっかく拠点作ったのに、迷子になって帰れないなんて絶対嫌だし。
かの有名なお菓子の家に行った兄妹も、石を目印に帰ってきたり、パンくず落として帰ってこようとしていたし。
結局、パンくず作戦は失敗して、お菓子の家にたどり着き、死にかけるんだけどね。
死因が迷子なんて、絶対嫌。
おっ、この枝、火を起こすのによさそう。
この細めの木、削れば板になるでしょ。
やっぱり森には資源が豊富だ。
薪になりそうな木材も、一緒に持って帰ろう。
最初に使う材料は集まったし、いったん拠点に帰る。
目印のおかげで、迷わず拠点に向かって歩いて行ける。
「そういえば、ネロもサバイバル研修したの?」
「した。ここじゃなかったけどな」
「へぇ、研修場所って、ここだけじゃないんだ」
「俺のときは、島の中央に、天まで届きそうな大きい木が立っている、島だった。島の住民たちが昆虫の魔物に脅かされて、そいつらに腹がったって、一掃したら、強制終了食らってそのまま合格だった。滞在時間は半日だ。」
半日で、強制終了って、どれほど倒したらそうなるのさ。
生き残れっていうのは、ブレてないけど、そういうもあるのかぁ。
戦闘スキル系の試験。
帰るために必要なのは、生き延びることっていうけど、それって終わりがない。
ということは、明確な研修終了は生き延びることではないんだろう。
戦闘系の試験は、目に見えて結果が出てくるからいいな。
まぁ、私にはそんなスキルも、結果が出せる方法もないから、羨ましがっても仕方ないけど。
魔法で火を起こしたり、拠点作ったりできる人たちに、ここの島は確かに簡単すぎるかも。
二人で、そんな話をしていると、拠点がちょうど見えてくる。
「火を起こすための道具作りをします」
取り出したのは、ナイフ。
まず、さっき取ってきた、細めの木をナイフで削り、板状にしていく。
削り終えたら、今度は、木の棒が入るか入らないかくらいの穴を掘る。
そうして、一番原始的な火起こし道具が完成する。
さて、ここからが勝負なのだか、これって初心者でも着くのかな。
まぁ、摩擦はこすれば起きるし、大丈夫でしょう!
そう思いながら、木の棒を板の窪みのところに置く。
よし!!やるぞ!!
数時間後、それは舐めた考え方だと知った。
「うぉぉおぉぉおぉぉぉ」
木の棒をくるくるとひたすら回し続ける。
火種ができたら、煙が出ると思うんだけど。
「はぁ、はぁ、ネロ!!!煙出てる?ついてる?」
「け、煙は出てるけど、ついてはいない」
もぉぉぉぉぉ!!!!なんでつかないの!
道具作り簡単だからとか言って、楽するんじゃなかった。
「ネロまだ?」
「ついてない」
「ネロ黒い粉出てきてるでしょ?」
「出てきてるけど、煙出てないぞ」
「あぁぁ、もう!!!」
息が荒れて呼吸も苦しいし、手も疲れた。
あぁ、やだやだ、しんどい
地面に寝転がって、一休みする。
「お前、俺に火をつけろって、言わないのか?」
「なんで?」
「なんでって、こんなにやって、お前は火を手に入れられてない。俺は、魔力で簡単に付けられる。そういうのに頼りたくならないのか?」
まじめな顔をしているネロに、確かにって思った。
火を手に入れるためなら、ネロに頼むでもいいのか…
でも…
「頼りたくないかな」
私は、にっこり笑ってネロに言う。
「なぜ?」
「あなたがいないと、生きていけないって思わされるから。」
「は?」
怪訝そうなネロに、私ははっきり告げる。
「誰かがいないと駄目な子って思いたくない。私の人生なのに、誰かに頼らないと生きていけないなんて嫌だから。」
思い出すのは、サークルのこと。
異世界に飛ぶとか、いろいろなことがありすぎて、はるか昔のことのように思ってしまうけど、実際はそんなに経ってないよなぁ。
私は、確かに先輩Aのこと好きだったと思う。
でもそれは、好意から来るものだったのだろうか。
その時は、先輩がすべてだった。
傍にいてくれればよかったし、先輩Aの望みは、叶えてあげたかった。
それは、執着というドロドロした感情に染まっていたのではないだろうか。
好きになればなるほど、周りのことが見えなくなっちゃう。
だから、私が浮気相手だと知ったとき、心の底では絶望したんだ。
死にたくなるくらいに。
でも、そもそもそれが間違いなのだ。
なんで自分の人生のすべてが、他人なのか。
人に勝手にゆだねて、絶望して。
そんな人生もう嫌で、私には私の成せることがあるって信じてる。
それに!
「まだ死にかけてない。だからこの状況で手助けして貰ったら、不正でしょ?
みんなに堂々とライセンス取ったって言いたいのに、そんなことして貰ったら堂々と自慢できないじゃん」
こんな大変な思いをしてるのだ。
企画宣伝課の人たちに、ひけらかすくらい許されると思う。
だから、ネロ?
宙に浮いているネロを捕まえて、胸の中に抱き込む。
ネロは少し暴れたが、私の方を見て大人しくなった。
「だから、ネロ。助けたいって思ってないのに、そういうこと言わなくていいの。
ネロが、助けたいって思ってくれたら、助けてくれればいいの。ネロがしたいようにすればいいの!ネロの人生は、ネロが決めるの。ね、ネロ。そのほうがきっと楽しいよ。」
ネロは、黙りこくっていたが、私の顔を睨みつけ腕から脱出する。
「別に、そういうつもりで聞いたわけじゃない。もしお前が助けてって言ったら、ちゃんと報告するつもりだったしな。」
「えぇ?そうなの?」
ニコニコ笑いながら、ネロの方を覗き込むとまた顔をそらされた。
「うるさい!サッサと火を起こせ!火が起こせなかったら詰むんだろ?」
「はーい」
さっきまで、さんざんやって気付いたことがある。
私も意地になっていて、少し冷静じゃなかったな。
ネロにあんなこと言わせちゃったし。
木を回すことに意識があったけど、摩擦を起こすなら、よりしっかりと下の板に押し付けて、接地させないと駄目だ。
動かすことに一生懸命になりすぎて、目的の擦る作業をないがしろにしていた。
今度は下に向かって力を入れて、板に棒をひたすら擦りつける。
「ネロ…どう?」
私の言葉に、ネロは接地面を所を見る。
「粉の方に煙が出ている…」
「ほんと!じゃあ、もうちょっとだ」
ひたすらに擦って、擦って、擦って。
そして、さきいかのように削った木の屑に包んで息を吹きかける。
燃え上がる炎を消さないように、火起こしする前に組んであった木の中に火種を入れた。
大事に、大事に。
火種が別の木に燃えうつる。
「ついた…のか?」
「はぁぁぁぁぁ、ついたぁ」
めちゃくちゃ時間かかった。
でも、できた。
わたしにもちゃんとできたんだ。
自分で決めて、行動して、結果を出せた。
「やろうと思えば、できるね」
火をじっと見つめ続けるネロに、私は微笑んだ。
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