189話 月には太陽が必要
「なるほどな。いままで俺が、月の約束の謎にたどり着けなかったわけは、その時が満ちるという部分が、すべての謎を解いた後に起こることだと思っていたからか。」
「それに、プティテーラの人は、夜にナトゥラに行こうと思わないみたいなので。」
小さい頃に教わったことって、体に染みついて無意識に出てしまうと思う。
まったく、習慣というものは怖いものである。
「そして、月の約束の条件が揃うのが、満月の日ということだな。」
「月の約束の物語と、シン王子がクヴェレ殿下から聞いた月の約束を合わせるとそうなのではないかと思います。ですが!」
これだけは言っておかないといけないんだけど。
「あくまで、仮説です。前回ナトゥラに行ったときも夜の探索はできていません。情報は不十分と言ってもいいでしょう。それに、次の満月は二日後。時間もあまりありません。」
「何が言いたいんだ?」
私の言いたいことは、分かっている雰囲気なのにあくまで言わせるのかぁ…
シン王子は、私を余裕の笑みで見ている。
「私とネロにとって、二日後と言うのは、タイミングがいいのですが、シン王子…王族の方が行くには、情報、準備、時間、すべてが足りていないと思います。なにより、危険ですから。」
いまだに黙って私の方を見ているシン王子にため息をつく。
うーん。
はっきり言った方がいいのだろうか…
そもそも、この話をシン王子に言わない方が良かったのだろうか。
…いや、それはないな。
「アルビナとクラトの婚約発表が三日後に決まった。」
えぇ?
嘘でしょ。
だから、クラト公子はあんなに慌てて帰ったのか。
「どうしてそんなことに?」
「知るか。ただ、今回はシュルーク家も本気と言うことだろうな。ここまで、長引かせてくれているのは、クラトのおかげだろうが、さすがに侯爵家を止めておくのは難しかったのだろう。」
三日後って。
じゃあ、今回が最後のチャンスかもしれないってこと?
「あの、ここまできたら、やっぱりアルビナ令嬢に謝った方が…」
「お前、アルビナの性格を見ただろ?何もなく、のこのことアルビナのところに行って、アルビナが取り合うと思っているのか?」
……思いません。
思わないけどさぁ。
「お前らは、二日後にナトゥラに行くんだろ?」
「それはもちろん。そのために調査してきましたから。」
「なら、一人増えたところでいいじゃないか。」
この人、本気か?
本気で一緒に行くつもりなのだろうか?
「あの…危険だって言ってるんですけど…」
「聞いたな。」
「あなた、次期王ですよね?」
「そうだな。」
そんなあっけらかんと言われても…
「あなたの周りは許さないと思いますけど。」
「そうかもしれないな。」
「次期王の命を背負いながら、不確かな場所に行くのは、荷が重いです。」
「なら、別々で行くか。」
勘弁してください…
「どうするんですか…」
「遺言でも残すか。」
遺言だと?
誰に?
「ナンナルに。俺が帰ってこなかった場合は、ナンナルが継げと。」
「ナンナル王子は、腰を抜かすでしょうね。」
「仕方ないだろ。これは、俺の意地だよ。月の約束は、俺の意地だ。」
ジッと私を見るシン王子の瞳は、強く、でもどこか穏やかだった。
意地と言いながら、とても冷静な言葉。
確固たる譲らない心がシン王子の瞳から見て取れた。
「俺は、今回ナトゥラに行かなかったら一生後悔するだろう。アルビナが許したとしても、俺が俺を許せないだろう。なぜなら、俺は愛した女との約束も守れない男になるのだから。」
ここまで来ると、これは純愛なのだろうか…
それこそ意地なのかもしれない。
自分が自分であるための意地。
きっとアルビナ令嬢にはシン王子が必要だ。
だけど、シン王子にはアルビナ令嬢が絶対に必要なのかもしれない。
月に太陽が必要な様に。
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