187話 シン王子からの朝のお土産
気持ちいい朝だ。
もちろん予想通り、隣にはネロがいない。
シン王子が来たんだろうな。
と言うか、本当にシン王子、わざわざこの宿泊施設に来たんだ…
取り合えず、ネロが帰ってくるまでに、朝の支度を済ませてしまおう。
着替えを済ませ、顔を洗う。
全て終わらせ、部屋の中にある椅子へ腰を下ろすと、部屋のドアがガチャリと開いた。
「ただいま…」
「ネロ、おかえり。そして、いらっしゃいませ、シン王子。」
ゲッソリとしたネロと一緒に入ってきたのは、やっぱりシン王子。
「なんだ?分かっていたか?」
「はい。昨日の夜、シン王子は、明日にでも来るのではとネロと話していましたから。」
「もっと、驚いてくれると思ったが。」
驚かないよ。
もう、新鮮味がないから。
「部屋の扉を開けたネロも、またかという顔をしていたしな。」
「当たり前だ。毎回、来る時間が早いんだよ。」
あぁ…ネロのお口が悪くなっている…
それだけ、シン王子とネロが仲良くなったと思えばいいのか…
いつのまにという感じだけど。
「それで、今日は何を買ってきてくれたんですか?」
「……」
「なんです?」
「チヒロも案外図々しいと見た。」
「前回も、来てくれた時に朝ごはん買ってきてくれたので、今回もあるかと思ったんですけど…」
ないのかな?
勘違いだった?
それは、確かに図々しいな。
「ある。買ってきた。」
ほら。
「今日は、ウォーターフルーツだ。」
プティテーラの名物。
「どこの街で買ったんですか?」
「なんだ?その聞き方。」
「前に、プティテーラの名物を聞いたときに、魔水魚、水団子、ウォーターフルーツ、フレーブと教えてもらったことがあったんですが、私とネロは、魔水魚しか見つけられなかったんです。それで、他の物は、幻なのではと思っていた時に、シン王子が水団子を買ってきてくれた。それが、アルカンシェルで買ったというので、それぞれの名物は、それぞれの街の名物なのでは、と思ったわけです。」
どや顔で話してなんだけど、気が付いたのは昨日。
それを知ってるからか、ネロは呆れた様に、私を見てきた。
「ほぉ…正解だな。ウォーターフルーツは太陽の街シャムスの名物だ。シャムスは、とにかく働く街。だからか、食べるものも片手間で食べられるものが多くてな。その中でもウォーターフルーツは、栄養価も高くおいしい。そして、なによりも摂取するのが楽ということで、シャムスでは大人気なんだ。」
シン王子は、そう言いながら、手持ちの袋から容器を出した。
飲み物?
見た目は、透明のプラスチックの容器にストローが刺さっている。
「飲んでみろ。」
シン王子から、プラスチック容器を受け取り、ストローに口をつける。
……。
出てこないんですけど。
というか、これ、凍っていて飲めなくない?
「飲めないんですけど…」
ジトっとした目でシン王子を見ると、シン王子とついでにネロが口元を抑えて笑っていた。
うわ…騙された。
「すまん、すまん。ストローが刺さっているだろ?それを回しながら引き抜くんだ。」
凍っているから、ストローは回せないし、引き抜けないでしょ。
騙されないから。
「いいから、やってみろって。」
もう一度、ネロが促してくるから仕方なく騙されてやることにした。
刺さったストローを持って、持っているところを支点にして、容器の中をグルっとかき回してみる。
あれ…?
回せる…というか、ストローが刺さっている部分、凍っているものの中心付近はドロッとした感覚で、凍っていない。
しばらく回していると、ストローがスムーズに回せるようになった。
「なんで…?」
「容器の中は凍らせているんだが、凍っているものの中央には、熱いドロドロとしたフルーツジャムが入っているんだよ。そのジャムをかき回していくと、そのジャムが凍っているフルーツ水を温め、溶かしていく。面白いだろ?」
面白いし、楽しめる。
これは、旅行名物になりそう。
だけどさ…
「これ、全然楽じゃないですよね?」
かき回すのに時間がかかるし、凍ったものを溶かすのって結構手間じゃない?
私の問いに、シン王子はニヤリと笑った。
手提げから、ウォータフルーツの容器をもう一つとりだす。
「見てろよ。」
シン王子は、ストローをグルっと大きく回し、ストローを引き抜いた。
すると一瞬にして、凍っていたものが、ドロッと溶けていく。
な、なんで?
「底を見てみろ。」
シン王子が持っている容器の底を見てみると、紋章が浮かび上がっている。
これって…
「刻印だな。」
でたぁ…
プティテーラ御用達の刻印。
「これは、衝撃を加えると変化する刻印だ。だから実際は、容器の角をどこかにあてれば、中の凍っているものは一気に溶け出す様になっている。」
シン王子は、机に容器をこつんと優しくあてた。
技術が凄い…
衝撃で溶ける氷って面白い。
「飲んでみろよ。」
促され飲んでみると、みずみずしいフルーツを食べているみたい。
あれ?
私、飲み物を飲んでいるんだよね?と間違えるほど。
しかも、ヘルシー。
熱々のジャムは、周りの氷に冷やされ、逆に周りの氷はジャムに熱され温まる。
氷にもフルーツの味が付いていて、味が薄まっている印象はない。
むしろ、凝縮された濃い味のフルーツを楽しむことが出来る。
これは、確かに時短食として抜群だし、名物と名を張るだけのことはあるなと、ウォーターフルーツを啜りながら思うのだった。
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