181話 クラト公子が私の役に立ちました…
アーチ状の門をくぐり建物の中へ入る。
すると、広い空間があり、天井も高い。
他にも人がいるようで、ちょっとだけ様子をうかがう。
受付のような場所があり、カードのようなものをスキャンして受付を通過していた。
「ここに入るには、ちょっと手続きがいるんだよね。身分証明書は持っているかい?」
「観光者ライセンスでもいいですか。」
「そうか、それで大丈夫。」
クラト公子についていき、受付の方へ行く。
「シャムス図書館は、初めてのご利用ですか?」
「この二人を案内してあげたいんだけど。」
クラト公子が、カードのようなものをスッと出す。
受付のお姉さんは、カードを見ると目を見開き、クラト公子の顔を見た。
「アリファン侯爵家のご子息の方ですか。」
「今日は、後ろの二人の案内人なんだ。ゲストとして、通してあげたいんだけどいいかな?」
受付のお姉さんは、クラト公子をじっと見つめ、カードを返却する。
「身分が分かるものを確認することが出来ましたら、アリファン侯爵家様、ご招待という形でお通しすることが可能です。」
「それでいいよ。」
「かしこまりました。それでは、後ろのお二方の身分を証明できるものを確認させていただきます。」
…カードみたいなものは、クラト公子の身分を証明するものかな?
それを確認したとたんに、受付のお姉さんの対応が変わったというか…
「観光者ライセンスを出してもらってもいい?」
「わかりました。」
私とネロは、観光者ライセンスを受付のお姉さんに渡すと、またもや受付のお姉さんは、目を見開いた。
「コスモスの観光部の方でしたか…。」
「そうです。何か問題がありますか?」
「いえ、大丈夫ですよ。」
そういって、受付のお姉さんは、受付から繋がる部屋の中へ入っていく。
お姉さんの様子に、私が首を傾げると、クラト公子が耳打ちしてくれた。
「観光者ライセンスって、プティテーラにとっては、まだ見ぬ幻の物だったんだろうね。」
「どういうことですか?」
「プティテーラって、ゲートが開いたばかりだろう?だから、初めて見たんじゃないかな。観光者ライセンスというものを。」
あぁ、なるほど。
「それにしても、クラト公子。案内がスムーズでしたね。」
「それは、五大一族トップの特権という奴さ。」
特権?
「それぞれの街は、各五大一族が管理しているだろう?それぞれ、一族が管理してきた重要拠点というものがあるんだけど、そういった拠点に対して、ある程度融通が利くという特権。」
「五大一族ならだれでも?」
「いや、各一族のトップ、そして直系のみだな。」
「じゃあ、他の人は入れないということでしょうか?」
「いいや。手続きに時間がかかる。身分証明からだからね。図書館の場合は、一度入館証を作ってしまえば大丈夫だけど、入るたびに、身分を聞かれる場所もあるし。各一族が管理している重要拠点に入るには、意外と面倒なんだ。」
入るたびに身分を聞かれる場所…
「そうだな。例えばセレーネギアとか。招待状がなければ、基本は入れないし、入る場合は、ものすごい時間がかかる。」
納得。
あれ?
今回は奇跡的に、スムーズに図書館に入ることが出来たけど、これクラト公子がいなかったら、割と詰んでいたのでは?
「もしかして、クラト公子がいなければ、図書館に入ることが出来ませんでした?」
「入れないことはないと思うよ。それに、身分もしっかりとしているし。多少の時間はかかっただろうけどね。」
クラト公子を案内人にしていてよかったぁ。
「俺は、役に立ったかい?」
「それはもちろん。」
あ…
私の失言に、ネロは空かさず、ツッコんできた。
「さすがだな。」
「今のは、罠だよ。」
「罠じゃないだろう。」
完全に気を抜いていた。
すみません、クラト公子。
私とネロの会話を聞き、クラト公子は、小さく笑いをこぼす。
「フフッ。そうやって、シンにも口を滑らしたのかな?」
「その通りだ。」
私の返答に、クラト公子は笑いを堪えている。
そして、ぐうの音も出ない私に代わり、なぜかネロが答えた。
クラト公子は、受付の机を音が出ない様に、パシパシと叩いている。
図書館だからという配慮は完璧ですが、失礼をして恥ずかしい思いをしている私にも少しだけ配慮をしてくれると嬉しいな…
失礼をした私が完全に悪いのだが、そのことは棚の上に押し上げる。
クラト公子の笑いは、受付のお姉さんが部屋の中から出てくるまで続いた。
怒られなくてよかったが、別に笑いを提供するためでもないんだけどなぁ。
クラト公子を眺めながら、私はそう思ったのだった。
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