179話 クラト公子との契約成立
「その話は、どうでもいいだろう。それに俺は、必要なら政略結婚もするさ。そういうものでしょ?」
軽い男は、意外と一途だったと…。
そして、一族のために生きる男なんだと。
生暖かい目で、私とネロはクラト公子を見ると、クラト公子は、大きく咳払いをして話を切り替えた。
「とにかく、今回のシンとアルビナ嬢の婚約破棄からの俺の婚約の一連の流れについては、静観するというのが、火の一族トップ、アリファン家の総意だ。だから、シンとアルビナ嬢には、なんとしてもうまくいってもらわないと困る。今回は、誰がどう見ても俺が入る必要が全くないだろう。」
「そうですね、クラト公子は、完全に巻き込まれた立場と言ってもいいでしょうね。」
「だいたい、シュルーク家の当主も恋愛結婚をしているんだから、少しは待ってあげればいいものを、あの人は頭が固すぎる。」
シュルーク家の当主?
「アルビナ令嬢のお父さんは、頭が固いんですか?」
「頭が固いというか、真面目なんだよな。アルビナ嬢は、公爵似だね。」
それ、アルビナ嬢が頭固いと言っているのと同じでは?
あの人は、頭が固いというよりは、自分を持っているが故の頑固という方がしっくりくるけどね。
「さて、俺の話はしたけど、俺の話は受けてもらえるかな?」
「最初に話した通り、シン王子との約束で、そのことは調査しますけど…」
「俺が婚約破棄したまま、何もしなければ、俺としても一族としても体裁が悪いでしょ。」
「初めからそう言ってくれれば、ここまで話が広がることもなかったのでは?」
私としては、プティテーラの話を聞けて良かったけど。
「ここまで粘られると思わなかったんだよ。」
「じゃあ、私の粘り勝ちということですね。」
「勝負なんてしてないんじゃなかった…?」
ネロは何かあるだろうか。
「いいんじゃないか。頼んでも。その方が楽だしな。」
ネロ…
お偉いさんを便利に使うことに慣れ始めてない?
今後、危ないよ。
まぁ、楽なのは、その通りなんだけどね。
この際だし…ついでに聞いておこうかな。
「もう一つ聞きたいことがあるんですけど。」
「な、なにかな?」
そんなに身構えなくても、もう身ぐるみ剝がしてやろうの勢いて質問攻めしないですって。
「月の約束について聞きたくて。」
「月の約束?」
「はい。シン王子から、月の約束の話は、子供のころに家庭でよく語られる物語だと聞きました。クラト公子は、どのように聞いたのか聞きたくて。」
「月の約束の話なんて、どこも一緒じゃない?」
首を傾げながら、クラト公子は、月の約束の話をしてくれた。
クラト公子が話し終える。
私とネロは、顔を見合わせた。
クラト公子が話してくれた月の約束は、口語体が多少違いはしたが、話の流れはアルビナ令嬢が話してくれたものと一緒であり、口伝による言葉の足し引きは行われていなかった。
しかも、シン王子が最後に語ってくれた、導きの虹は…の件は一文字も入っていない。
まだ、サンプルが足りないとはいえ、シン王子が知っている月の約束は、やっぱり特別なんじゃないか?
「な、なんだ?大丈夫?」
「え、あぁ、すみません。大丈夫です。」
「大丈夫ならいいんだけど。」
もう少し、他の人にも聞いてみたいかも。
サンプリング集めは、データ作成の基本だし。
「教えていただいてありがとうございます。」
「それで?俺の頼みは聞いてくれる?」
「あの、本当に案内してもらっていいんですか?」
「俺がいいと言っているだろ?」
クラト公子にここまで言ってもらっているし、お願いしようかな。
「今回は試してませんよね。」
「試してないって。一回、失敗した計画をズルズルとやるほど、馬鹿じゃないから。」
「ほんとかな」
「俺ってそこまで信用ないかな?」
嘘ではないことは、なんとなく分かって入るんだけど、焦ったクラト公子を見て思わず笑ってしまう。
「俺、もしかしてからかわれてる?」
「冗談です。クラト公子、カナリスの案内、お願いしてもいいでしょうか?」
「最初からそうやって素直でいてくれよ。」
「素直ですけど?」
「どこがかな?」
クラト公子は、私とネロを見て優しい微笑みを浮かべた。
「任せて。それから、ありがとう。」
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