17話 便利な物には、裏がある可能性がある
アッシュグレーの髪にグレーの瞳。髪型は、サイドをかき上げ、襟足はうなじが見えるくらい。
身長も高く、スラっとしているが、細すぎるわけではなく、しっかり筋肉である。
まさに、イケてるおじさん!!
「課長、帰ってきてたんですね」
フェリシアさんが、イケおじに伝家の宝刀、圧のある笑みを発動した。
ん?課長!?
まさか、この人が企画宣伝課の課長ってこと!?
「まぁねぇ」
「それで?手ぶらで帰ってきてたんだとしたら、縛り上げますけど」
「まさか!だから、さっき、それには及ばないと言っただろう」
イケおじ…課長が手に持っている書類を机の上に広げだした。
なんか、文字がいっぱい書かれてるけど、私には読めない
ちゃんと話は通じるのに、文化として文字は違うんだ。
魔法とか転移装置とか文化の違いを感じるところがあったが、不都合を感じたことは、なかった。
ただ、文字が読めないのは不便すぎる。
読めない文字をじっと見つめながら、考えていると課長からの説明が始まる。
「まず、今回のことは、イブが影響を及ぼしたで間違いない。」
…イブ?
「イブっていうのはね。思考自立型の機械のことです。イブは知識や経験を蓄積していく機械なんですよ。コスモスのシステムは、イブを中心にしているので、コスモス中のシステムをイブが管理していると言っても過言じゃないんですよね。」
フェリシアさんが、そっと耳打ちしてくれて、やっと理解した。
簡単に言うと、スーパーコンピューターみたいなものかな。
思考自立型ってことは、AIと同じってことだ
なるほど。
「なぜ、イブが誤作動したかというと、アーカイブの不正侵入により、マナ供給されていたシステムが落ち、イブが急遽、自分主体に切り替えたんだ。」
アーカイブ…?
「アーカイブというのは、コスモスのすべての情報を管理している記憶装置。
全部で第1~4管理まであるんだけど、それぞれで閲覧できる人が変わってくるの。」
フェリシアさん曰く、
第1管理が、だれでも閲覧可能。
第2管理が、コスモス職員。職員Passが閲覧のカギになってるらしい。
第3管理が、課長職以上、もしくは、許可を得て閲覧可能キーを持っている人。
第4管理が、特秘で、基本閲覧できない
権限がないところを閲覧しようとすると、魔力の供給が止まり、システムが落ちる仕組みになっている、とのこと。
分かりやすい。
ということは、その記憶装置に誰か入ってしまい、魔力供給がストップ。
異常を発見したスパコンのイブにより、復旧ってことか。
「そして、イブに発見されてない異世界との通信履歴が残っていた。これは、たぶん彼女の通信だ。イブは、狭間にさまよう残留や彼女の強い思念により、彼女の場所までたどりついたんだろう。」
じゃあ、入力を確認しましたの声は、イブさん!
確か、通信をつなぐくらいなら、場所分からなくても平気って言ってたもんなぁ。
強い思念っていうと、たぶん…
私のことを誰も知らない土地へ行きたい
そんなに強く願ったか?
行きたいなぁ、人に会いたくないなぁの、ゆるいテンションだったと思うんだけど。
でも、その思いを読み取られていたわけで
じゃあ、全くかかわりのないコスモスの広告が出てきた理由は、イブが私のスマホにたどり着き、自動で広告を作ったってことだよね。
賢いな!
というか、イブさん頑張ったな
その結果、私は地球に帰れなくなったのだけれども
「で、その原因がどこにあるか辿っていくと民間部・住民課っぽいんだよね」
「は?」
課長がジェフティさんのほうを向いて微笑む。
「昨日、住民課で何かなかったかい?」
「何かって言われましても…あっ…」
あっ?
ジェフティさんは、何もなかったかのように、手のひらを口元に持って行った。
…ジェフティさん?
あっ…ってちゃんと聞こえてましたよ?
「あれ?ジェフティ、もしかして思い当たる節があるのかい?」
「いえ、」
「ジェフティ??」
「…はぁ」
ジェフティさんは、じっと見つめてくるアスガルさんに根負け気して口を開いた。
「何がというわけではありませんが、昨日、数人の部下が慌てて何かをしているのを見ました。仕事だと言っていたので、気にも留めませんでしたが、まさか不正アクセスの可能性があったとは。」
「ジェフティ、そのことについては、あとでちゃんと事実確認をして報告書を上げるように」
「わかりました」
アスガルさんのさっきまでの飄々とした姿が嘘のような鋭い声。
確かに、不正アクセスとなるときになるよね。
しかも、機密文書の。
そういう機密文書とか、ハッキングとか、中二心を擽られるんだけどね。
「事実確認は後にするとしても、データ上、コスモス側の問題に、タイミングよく巻き込まれた彼女は、完全に被害者なわけよ、しかも元の世界に帰れないときた。このまま、彼女を放り出すかい?アスガル」
「はぁ…。アルバート、お前、相変わらず、いやらしい性格してるね」
「それほどでも」
アスガルさんが綺麗な顔をゆがめて、舌打ちするとジェフティさんへと告げる。
舌打ち!?
「ジェフティ、彼女の件は、コスモスに責任がある。彼女は、コスモスで保護する」
「わかりました」
あれ?もしかして…
「やりましたね、チヒロちゃん」
「よかったな」
フェリシアさん、ネロ!!
ありがとう!ほんとにありがとう!
ほんとに、私は何もしてなかったけど、二人と課長さんのおかげで犯罪者ではなくなる。
グッバイ牢屋生活!
「じゃあ、この件はひとまず終わりってことかな?」
「僕はこれで失礼するよ」
「俺も、この後、渡航課の方に顔出すから。またな、チヒロ!」
「じゃあ、俺も…」
「課長は、企画宣伝課のオフィスで待っていてくださいね」
話し合いが終わり、空気が軽くなる。
人が減ったっていうのもあるかな。
ジェフティさんは、帰らずに手持ちの鞄をごそごそして機械を取り出した。
「それでは、チヒロさん。パーソナルカード作ってしまいましょう。このデバイスに入力してもらってもいいですか。」
「あの、読めないです。すみません」
渡されたのは、見た目がタブレットの機械。
機能もスクロールやタップ、入力、と使い方は一緒みたい。
タブレットを見ると、文字が書いてあるであろう書類。
よ、読めない。
さっきも思ったけど、文字読めなくなってる。
企画宣伝課の契約書類は読めたのに、なぜ急に読めなくなるのか
……。
ほんとに、なんて書いてあるか分からない。
「そうでしたか、こんなことになるとは思わず、気遣いが足りず、すみません」
「私が手伝いますよ。読み上げていくので、チヒロちゃんは入力してください。」
「ありがとうございます」
二人は、なんてことのない様に言うが、私的には大変申し訳ない。
言語にもレベルってあるのかな?
「いきますよ。まずは…」
名前は有間千紘でいいよね。
出身は、地球?って、ことでいいのかな。
種族、種族!?種族ってなんぞ?
「あの、種族っていうのは?」
「異世界は、人以外にも生物はいるので。人の姿をしていても、種族は魔物で人族じゃなかったり、人の姿をしてなくても、ただ擬態しているだけで、本来は人の姿をしていたりしますから。」
へぇ、そうなんだ。
みんな、人の姿だから気にならなかったけど、もしかしたら、種族は人じゃない可能性もあるのか。
「チヒロちゃんは、人族で大丈夫ですよ」
「わかりました」
種族は人族と入力。
魔力の有無、無し。
どんどんの質問事項に入力していく。
ちなみに、入力もフェリシアさんに、手取り足取り教わっている。
「終わりました」
入力を終え、デバイスをジェフティさんに渡す。
すごく疲れた。
入力するにも、フェリシアさん訳してもらい、私が答え、フェリシアさんに入力を教わる。
これの繰り返し。
言語が通じないってこんなにつらいと思わなかった。
コスモス語??勉強しよう
そんなことを考えていたら、ジェフティさんがデバイスに触れる。
おぉ、なにか茶色のオーラみたいなものがタブレットを包んでいる。
そうすると、デバイスからカードのようなものが出てきた。
「こちらが、パーソナルカードです」
「ありがとうございます」
ジェフティさんからカードを受け取る
まぁ、読めないんだけど。
「確認していただきたいのですが、読めないんですよね。」
そういって、ジェフティさんは眼鏡をとり、手渡してきた。
もちろん、眼鏡をとっても、ちゃんとイケメン出したよ。
インテリイケメンから儚げイケメンにジョブチェンジだよ、まったく。
「眼鏡ですか?」
「かけてみてください、ちょっと、きついかもしれませんが」
促されるように眼鏡をかけてみると…
どぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!!!
さまざまな文字が頭に流れ込んできて、頭が割れそうになる
ちょっとじゃないよ!!
「カードの方見てもらってもいいですか?」
「うううう、はい…」
先ほどのカードを見ると、パーソナルカードと書かれていた。
あれ?読める??
「オープンと言ってみてください」
「お、おーぷん」
告げると、先ほど入力した項目がずらっと出てきた。
しかも、ちゃんと読める。
なるほど、この眼鏡は便利グッズなのか…代償はあまりにもでかいが。
「どうですか?確認して間違っている所があれば、今、直しまいますが」
「大丈夫です。あと眼鏡ありがとうございました。こんな物をつけていたんですね。」
「これは、念のためです。基本は自分の知識で何とかしますよ。」
「さすがです」
カードを作るだけのはずだったのに、ぐったりである。
私も、知識つけよう、生きていくために。
あの頭の痛さは、死ぬかと思うレベルだった。
「観光者ライセンスについては、上司から説明があると思いますので、そちらからお願いします。」
「わかりました、ほんとにありがとうございました!」
「いえ、こちらの事情に巻き込んでしまったみたいで、すみません。辿れば私の監督不行き届きなので。」
「まだそうと決まったわけじゃないですし、気にしないでください。結果的に、ここに置いて貰えることになったので、私からするとラッキーです。」
「そうですか、ありがとうございます。」
こんなわけで、遂に私は、コスモスにいることを認めてもらえたのである。
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