173話 不敬罪?婚約破棄?
あはははは…
あぁーあ…
やらかした…やらかしたよね。
いまだに黙ったまま、下を向いているシン王子を見て、完全にやらかしていることを悟る。
どうして、口から流れ出るように出てしまったのだろうか…
…
だって、目の前であんなやり取りが行われてたんだよ。
見ていて、こっちまで心臓がギュッなったというか…感情が逆立ったというか。
空気に引っ張られてしまったというか…
心の中でつらつら言い訳を重ねてみるが、状況は変わらない。
「ふ…」
ふ?
シン王子を見ると、肩を震わしている。
不敬罪ですか?
「まさか不敬罪…」
「お前、不敬罪って言いたいだけだろ。」
ネロ。
私は真剣におびえているんだ。
こういう、王族物の王道は、不敬罪=死刑か国外追放と決まっているんだよ。
「どこの世界だよ、それ。」
「異世界だけど?」
「あぁ、そう。」
でもこの場合、国外追放ならコスモスに帰れるんじゃないか?
それとも、もしかして時空の狭間に放り出されたりする?
「あはははははは。」
私が焦っているのをよそに、シン王子は下に向けていた顔を上げて、大爆笑。
「アルビナにさんざん言われた後に、別の奴にそこまで言われると思わなかった。」
「あ…すみま…」
「いっそ、すがすがしいな。」
私の方を見て、シン王子は意地悪く笑う。
うわぁ…
はいはい、イケメン、イケメン。
「兄さんが、あそこまで言われているのを、初めて見たかも。面白いもの見せてもらったな。」
「確かに。俺、普段、人に文句を言われるようなことないんだよな。」
「兄さん、そういうのうまいからね。」
「面白い経験をした。」
すごく文句を言ったのに、面白い経験って…
やっぱり変わっているんだよなぁ。
でも、私としては、さっきの失態がこのまま流れてくれるのであれば、全然オッケーである。
それにしても、王族。
器が大きい。
自分がしでかしたことを、めいいっぱい棚の上に押し上げ、なかったことにする。
「じゃあ…お咎めなしですか?」
「あ?そんなわけないだろ?」
え?
いい雰囲気だったじゃん。
お許しが出る雰囲気だったじゃん。
「不敬罪だろ。」
「不敬罪じゃない?」
そういって、にっこりと笑うシン王子とナンナル王子。
はい。
私の器が大きい発言を返してください。
私の心を返してください。
「自業自得だろ。」
どうして、この猫ちゃんは、いつもいつもとどめを刺しに来るのかな?
命仕留めたい系猫ちゃんですか?
そんな物騒な猫ちゃんに育てた覚えはありません。
「育てられた覚えなんてないが?」
「心を読むな。」
「口に出てたぞ。」
そう言うのは聞かなかったふりをするんだよ。
心の中で、セルフツッコミを繰り広げているなんて、恥ずかしすぎるでしょ。
「ネロ、私、殺されます?」
「さぁ。」
薄情者―!
「なんだ?殺されるのが希望なのか?」
「いえ…」
「すまない。ちょっと、頭の中が愉快なだけだ。」
ネロさん。
それフォロー?
頭の中が愉快って何?
もう一度言うけど、それフォローかな?
「そうか。俺も本意じゃない。」
殺されはしないみたいだけど…
「じゃあ、どうする?」
「そうだな…。」
なんだろう…
この判決を待つ気分は。
「ちょっと口を滑らしただけなのに…」
「安心しろ。だいぶ口を滑らしていた。」
ぼそっとつぶやいた言葉をネロは、聞き逃さなかったらしい。
だから、それ何のフォロー?
安心できない。
「あれだけ言うということは、相当、俺とアルビナのことを思ってくれていたみたいだな。」
いえ…そんなことは…
「それに、俺とアルビナの恋愛相談にも乗った。だから、成就させろと。」
それは、調子に乗っていったかもしれないなぁ。
でも、シン王子が引かないから、苦肉の策という奴で…
「お互いを目の前にするとポンコツらしいしな。」
…すみません。
「だから俺は思うんだよ。チヒロ、最後まで責任もって、付き合ってもらおうか。」
あー…
「喜んで…」
私は、このシン王子とアルビナ令嬢の婚約騒動に正式に足を突っ込むことになりました。
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