172話 令嬢の想い 王子の想い
アルビナ令嬢の凛とした瞳に、シン王子の目は戸惑いの色が浮かべた。
そして、夜の静けさの中、アルビナ令嬢の意思のある言葉がしっかりと聞こえた。
「私は貴方との約束を忘れたことなんかない。今回のことも、シュルーク家が勝手に言い出したことで、私は納得なんてしていない。私は了承をしていない。」
「アルビナ…」
「どんなに文句があっても、どんなに気に入らないことがあっても、お互いしっかりと話せば、何とかなってきたと私は思っている。だって、私とあなたの間には、約束があったから。その約束は、私とあなたの間で絶対だったから。」
アルビナ令嬢は、大切な思い出を一つずつ取り出すかのように、可愛い表情で話している。
「それなのに…それなのに!」
アルビナ令嬢は、シン王子をしっかり捉え睨みつける。
さきほどまでの愛しい感情とは裏腹に、憎しみをたっぷりと込めた目で。
「私が、貴方との約束をもういいと思っているですって。」
「アルビナ…」
「私のことを馬鹿にしているの?」
アルビナ令嬢は、怒りを鎮めようと深い呼吸をして、再びシン王子の方を見据えた。
「私のことを勝手に決めて、勝手に約束を諦めたのはあなたでしょう?」
「……」
「はぁ…あなたがそう思うのであれば、もう好きにしていいわよ。」
「アルビナ、俺は。」
「今日は、もう帰るわ。それじゃあ。」
アルビナ令嬢が庭を去り、シン王子が一人残される。
近くにあった椅子に座り込み、大きくため息を吐く。
「そこにいるんだろう?出て来いよ。」
シン王子は、うつむきながら声を上げた。
え?
ばれてたの?
「早く来い。ナンナル。チヒロ、ネロ。」
しっかりバレていた…
しかも誰がいるかも正確に当てられている…
マジか、この王子。
「兄さん、気づいていたんだ…」
「いや、アルビナが去ってから、少し冷静になったら気配を感じただけだ。俺は、思った以上に頭に血が上っていたらしい。周りが見えなくなるくらいには…」
「俺…兄さんに。」
ナンナル王子はシン王子に言いよどむ。
「ナンナルのせいではない。俺とアルビナの問題だ。それに、いずれこういうことになっていただろうな。」
「兄さ…」
「アルビナは、俺との約束を覚えていて、俺はそれを信じ切れず、一瞬でもアルビナを疑った。それだけだ。」
シン王子は、先ほどの出来事を思い出してか、自嘲気味に笑う。
「それにしても…」
「シン王子?」
「あの状況で、好きにしていいという言葉は、思ったよりも堪えた。俺が言った時、アルビナはこんな気持ちを持ったのだろうか?良かれと思って言った言葉だったが、これはなかなか堪えるものがあるな」
アルビナ令嬢は、その言葉に大泣きしていました…とは言えないなぁ。
「今まで、アルビナのことを考えていたつもりだったが、そうでもなかったみたいだな。」
今までのことを振り返るかのように話し始めるシン王子。
「それに、アルビナに最後泣かれて去られることはあっても、強い瞳で見られて去られたことはなかったな。あぁ、最悪の気分だ。くそ。」
髪の毛をガシガシと搔きながら、椅子の上で体勢を崩していく。
そこには、王子という優雅さはなかった。
「チヒロ。悪いな。」
「へ?」
「お前は、うまくやれと、背中を押してくれただろ?約束守れそうにないからな。」
え?
ちょっと…
「ちょっと待ってください。諦めるつもりですか?アルビナ令嬢のこと。」
「まさか。」
「え?」
「うまくやろうとして失敗しただけだ。」
どういうこと?
「まさか、カッコよく決めようとか思っていたわけじゃないですよね?」
私の言葉に、シン王子は顔を逸らす。
嘘でしょ。
「そういうつもりで、言ったわけではないんですが。」
「じゃあ、どういう。」
「うまくというのは、アルビナ令嬢とシン王子がちゃんとくっ付いて、恋愛成就させてくださいねという意味で言ったんです。アルビナ令嬢をカッコよく落としてくださいね、なんて言っていないです。そもそも、シン王子が、カッコよく決めながら、アルビナ令嬢を扱えるわけがないでしょう。ただでさえ、お互いを目の前だとポンコツなのに、他に気を使っている余裕なんてある訳ないですよね。分かります?」
言いたいことを言ってスッキリしたぁ。
「お前…いいのか?」
「へ?」
「一応、シンは王子だぞ。」
「あ…」
私のこの感じに慣れているネロは、あきれ顔だったが、シン王子は俯き、ナンナル王子は、ぽかんとした顔で私を見ていた。
……
もしかして私は、盛大にやらかしてしまったでしょうか?
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