171話 凛とした瞳の見つめるもの
「大丈夫か?」
ゼーゼー
ネロに背中をさすられながら、呼吸を整える。
……
爆速号は、その名にふさわしい爆速ぶりでした…。
ラックさんの操縦テクニックはすさまじく、減速を全くしないままセレーネギアまで運んでもらったんだけど…
カーブは死ぬかと思ったし、直線でも死ぬかと思った。
あまりのスピードに、体が痛かったし、首が取れるかと思った。
ラックさんは、運転すると性格が変わるタイプかもしれない。
絶対、ハンドル持たせちゃダメなタイプだよ。
普段は、兄貴肌の頼れる男性なのに、ハンドル持たすと走り屋のごとく…
うぇ…
酔った。
目が回りそう。
「セレーネギア、着いたぞ。」
ラックさんと爆速号のおかげで、普通だったら、もっとかかっていただろう時間を短時間で着くことが出来たから、文句は言えないけども。
「シン王子を探さないといけませんね。」
「ううん、広間から見える庭園にいると思う。」
「そうなんですか?」
「アルビナ嬢は、セレーネギアでの手伝いを終えると、よくその庭に行くことがあるんだ。こんな話が出たにも拘らず、アルビナ嬢は、今日もセレーネギアに来てくれていたから、今日も庭に寄ってから帰る可能性が高いよ。やみくもに探しても、仕方ないから、まずはそこに行ってみよう。」
「俺は、ここまでだ。シンとアルビナ嬢をよろしく頼んだ。」
ラックさんは、私の背中をポンと叩く。
「ラックさんは、行かないんですか?」
「本来、セレーネギアは、そうそう入れるもんじゃないんだよ。」
「ラックは気を使い過ぎだよ。俺は別にいいと言っているのに。」
「それに、そんなに多く人がいたら、大変だろ?」
「そうかもしれないけど…」
これ、私たちも待っていた方がいいのでは…?
「分かった。チヒロ、ネロ、行こう。」
「でも…」
「大丈夫。君たちは、俺が招待した。それで大丈夫。」
真剣な表情で、私とネロを見てきたナンナル王子。
どうしてそこまでしてくれるのか分からないけど、私がとやかく言うことなんかない。
…アルビナ令嬢。
…シン王子。
また、セレーネギアに来ることになるとは思わなかったけど…
ナンナル王子に促され、私は、セレーネギアに足を踏み入れた。
広間から見える庭…
ここって。
「この庭のことだったのか。」
「うん。」
その庭は、シン王子とアルビナ令嬢が大喧嘩をしていた庭だった。
そして、私とネロがシン王子と始めて、しっかりとお話しした場所ともいえる。
シン王子もアルビナ令嬢もどこにいるんだろう…
そもそも、シン王子がアルビナ令嬢のところに向かったことは、確定情報ではない。
外していたら、シン王子の後を追うのが、難しくなってしまう。
居てくれるといいけど…
「アルビナ、どういうことだ?」
庭の奥の方から、怒りに耐えた低い声。
この状況、見覚えあるなぁ。
私とネロ、ナンナル王子は、お互いに頷き、茂みに隠れ様子を見ることにした。
「なにがかしら?」
「アルビナ、一体どういうことだと聞いているんだ。」
「なんのこと?」
キョトンとしたアルビナ令嬢に、さらにシン王子が怒りを募らせている。
「とぼけるのか?」
「だから、なんのことよ。」
シン王子は、冷静さを取り戻そうしてか、深く深呼吸をする。
「俺とは婚約を破棄し、別の奴と婚約を果たす…」
「え、それ、どこから?」
アルビナ令嬢は、目を見開き、シン王子の方を見る。
「本当なんだな。」
「え?」
「その反応は、本当のことなんだな。」
「違う。それに、その話を信じたの?」
「ここに来るまでに、いろんな奴らから聞いた。」
「違うと言っているでしょ。私は…!」
「俺との約束は、もういいということか…」
シン王子の一言に、時間が止まったような静けさ。
シン王子の目には、怒りとともに落胆と諦めの色が見えた。
「…もういいって何?」
アルビナ令嬢のつぶやくような、絞り出したような声。
「そういうことだろ?」
「そういうことって何?」
そういうと、アルビナ令嬢は、顔を上げた。
凛とした瞳でしっかりとシン王子を見つめて。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!