170話 想い出の爆速号
あ…じゃない。
あの状態のシン王子を一人でどこかに行かせてしまうのが、失敗だったのでは?
それなのによりによって、アルビナ令嬢のところに行った可能性があるなんて…
大丈夫だろうか。
まぁ、私が心配することでもないんだけど、ナトゥラでアルビナ令嬢とうまくやってと言ったり、二人の恋愛相談に乗った手前、なんだかなぁ。
「どうしよう…」
「シン王子を追いかけます?」
「そ、そうだね。この時間、アルビナ嬢はセレーネギアにいることが多い。兄さんもそれを知っていると思うから、セレーネギアに向かおう。」
シン王子…しっかりアルビナ令嬢の予定は把握しているのね…
本当に、アルビナ令嬢に対してこじらせているというか。
「私たちも行っていいですか?」
「当たり前。行くよ。」
行ってもいいのか…
そのことに少し安心するとともに、ふと頭をよぎる。
当たり前…
当然の様に問題ごとに当たっていくなぁ。
どうして、行く先々で、こんなに問題が発生するのだろうか。
私は何かやってしまったか?
「ラック、爆速号を出してくれ」
爆速号?
「なんですか、それは?」
「シンとナンナルが名付けた、舟の名前だよ。」
あぁ…お二人が…
「カナリスの水路は、いろんな人が通るから、交通上スピードが一定まで達するとそれ以上スピードがあがらない様になっているんだけど、爆速号はスピード規制を外した船でね。」
「それって、危ないんじゃ…」
何のためのスピード規制?
「別の水路を作ったから、気にしなくていいんだよ。」
そう思ったとき、ナンナル王子が何でもないことの様に言った。
別の水路…?
「町の人たちが使う水路とは別に、誰も使わなそうなところに水路を一本、作ったんだよ。世界の入り口から、セレーネギアまで直通の水路を。」
「街の水路を使うと、ここからじゃ、セレーネギアまでどうしても時間がかかるからね。」
「だから安全だし、ルールも犯していない。」
ナンナル王子の自信満々な顔。
確かに、今は世界の入り口に近いところにいるから、セレーネギアは反対側にあるということだ。
私たちの宿泊施設がある、虹の街アルカンシェルもセレーネギア側にあるけど、世界の入り口からだと、確かに遠かった。
セレーネギアは、アルカンシェルよりもさらに奥にあるから、もっと遠いということだ。
シン王子に追いつくためには、スピードは必要かもしれない。
「これが、爆速号。シンが持って行ってしまったかと思ったが、思ったよりもシンは冷静じゃなかったみたいだな。」
ラックさんは、舟を運転しながら戻ってきた。
これが爆速号…
「爆速号…」
「名前、面白いだろ?」
「あぁ?」
ラックさんがコソッと私に耳打ちをするがナンナル王子には聞こえてしまったらしい。
可愛い顔して、あぁ?とか言わないでください。
驚くんで。
女王様、シン王子に引き続き、ナンナル王子もしっかりガラが悪かった。
これは、血なんだと思うことにしよう。
可愛いだけじゃ、王族はやっていけないのかもしれない。
「だって、もっといい名前あったろ?」
「いいの。あの当時は、爆速号が良かったんだ。」
「はいはい。分かったよ。」
都市の名前や場所の名前が横文字なだけに、爆速号という名前はインパクトがあるね。
「さて、乗り込んだか?」
「はい。」
「ラック、最速で行ってね。」
「最速も何も、この水路は一本道だ。」
ラックさんは、呆れた様に言う。
「チヒロ、ネロ。しっかり、どこかにつかまっていてくれ。」
「え?」
「振り落とされないようにな。」
…振り落とされるレベルでスピードが出るんですか?
この小舟が?
「爆速号、久しぶりの運転なんだよなぁ。血が滾るな。」
指や首をコキコキと鳴らし、ニヤリと笑うラックさんに不安を覚える。
滾っちゃダメでしょ。
安全運転をしてくれ。
頼むから…
ラックさんが、刻印を起動させると、エンジン音のような音が聞こえる。
前に乗った船は、こんな感じじゃなかった。
もっと、穏やかで…落ち着いた…
ラックさんが何かを操作すると、うるさい音が消える。
「よっしゃ。じゃあ、行くぞ。」
爆速号が走り出したとき、私は死というものを感じました。
あまりにも怖すぎて。
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