165話 一泊二日の自然地区
空から眺めたモアーナは、大きすぎて。
小さい海は、小さすぎるし。
「他にどこか見たいところはあるか?」
そうだな。
一通り見たいところは見られた気がする。
ネロの方を見ると、ネロもこくりと頷いた。
「いえ。大丈夫です。ただ、帰り道にアルトゥンとエンゲルストラートを通って貰ってもいいですか?」
「大丈夫だが、何かあるのか?」
「月の約束の追加部分を聞いたので、それを踏まえてもう一度見ておきたいと思いまして。」
導きの橋は虹。
永遠に流れ降りる水は、底なし滝。
考えてみたけど、やっぱりそれで、あっていると思う。
見落としがないか、もう一度見たい。
時は満ちていないかもしれないけどね。
「わかった。帰りにアルトゥンやエンゲルストラートを通ることは、大した手間ではない。」
よし。
シン王子は、気球の行き先を変え、アルトゥンの方向へ。
「じっと見て、なんだ?」
「気球…よくできてますよね。」
私は、シン王子の手元付近にある刻印をじっと見つめた。
「そういえば、気球の話をしてやると言っていたな。刻印を外すことはできないから、眺めるだけだが、好きなだけ見てくれ。」
「ナトゥラと気球。相性がいいんでしょうね。」
これだけ広大な土地を移動する手段に、気球を選ぶあたりセンスが光っているよね。
プティテーラの人たち。
「舟だとどうしても、滝の影響を受けて危なかったんだ。だから、滝の影響を受けない…なら上から見ればいいだろうとなったみたいだな。」
地面を走る車とかじゃないんだなぁ。
プティテーラって、カナリスは水上移動のできる船だし、車ってないよね。
そもそも必要がないのか…
「シン王子が気球の運転に慣れているのって、よく来ているからですか?」
「あぁ。約束をしてから、ナトゥラに毎日通っていた時もある。さすがに怒られたが。」
そりゃそうだよ。
しかも、命がけのことをしているんだもん。
それは、怒られると思う。
「初めのころは、護衛や案内人が操縦してくれていたが、自分で運転が出来た方が、都合が良くてな。」
それは、お城を抜け出して、こっそり来るには都合いいだろうけど…。
「アルビナ令嬢って、シン王子がナトゥラに来ていること知っているんですか?」
「さあな。知らないんじゃないか?」
…知らないのかぁ。
ん?
「ということは、シン王子がナトゥラに来ている時、アルビナ令嬢にはなんと伝わっているんです?」
「視察だな。」
「視察…」
ちょっと待って…
…そんな頻度に視察することある?
あるのかな。
分からないけど。
でも、もしかしてさ…
アルビナ令嬢…誤解してるとかないよね?
…ないよね?
「シン王子が、ナトゥラに来ていることを知っている人って…」
「俺の家族や、護衛。」
「…そのうち、内容まで知っている人って」
「ナンナルだな。」
アルビナ令嬢…誤解してないよね…
全然家に帰ってこない旦那さんが、仕事と言って、行き先がよく分からない出張を繰り返していたら、やっぱり疑われない?
…浮気。
分からないけどさ。
分からないけどね。
「アルトゥンに着いたぞ。」
気づかなくていい可能性に気が付いてしまい、頭がパンクしそうだ。
私は、今考えたことをできるだけ頭の隅に追いやり、気球の上からアルトゥンを眺める。
消えない虹、消えない虹、消えない虹…
ん?
なんだろう。
流れ落ちる水を見て、何か引っかかったんだけど…
うーん。
違和感は一瞬だったし、分からなくなった。
昨日あった、虹のトンネルはなくなっていたが、シン王子が教えてくれた、一段目から二段目にかけて、二段目と反対側の滝の間には、しっかりと虹がかかっている。
そもそも、虹が橋のイメージがあるだけで、消えないからと言って導きの橋というわけではないんだよね。
冷静になれば、決めつけによって、他の選択肢を捨ててしまうのは良くなかったな。
新鮮な気持ちで、この謎を考えることが出来るのだから、もっと柔軟になった方がいい。
「ありがとうございます。」
「では、次に行くか。」
アルトゥンでは、昨日得られた以上の情報は得られなかったわけで。
次に向かった、エンゲルストラートでも似たような感じで終わってしまった。
「このまま帰ってしまって、大丈夫か?」
「はい、一旦、宿泊施設に帰って考えてみます。」
「わかった。」
一泊二日のナトゥラ観光は、謎が残り終了。
心残りがないとは言えないけれど、カナリスの方もみたいし、やることはまだまだある。
「絶対に解いてやる。」
ひとまず、ナトゥラ観光は休憩だ。
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