164話 私の知っている海とは違いました
コテージを出ると、昨日は暗くて見ることが出来なかった大きな湖が目の前に広がる。
湖は、太陽の光を浴びて、水面はキラキラと輝いている。
私は、体を伸ばし外の空気を一気に吸い込む。
うん。
いい天気。
そして、今日も旅行日和だ。
せっかくだし、気球で上に上がってしまう前に、近くから湖を見ておこうかな。
私は、湖の方に寄り、水面を覗き込む。
あ、魚がいる。
魚の口がパクパクしていて、なんだか癖になる。
魚が私を見ながら、ぷくりと膨らむ。
私も負けじと、じっと魚を見つめ返す。
「なにやっているんだ?」
魚とにらめっこをしていると、後ろからネロの声。
「魚を見てた。」
「何か面白いのか?」
私が見ていた魚を、ネロも湖を覗き込み見る。
「食べれるのかなって。」
「焼いたらうまそうだよな。」
塩焼きかなぁ。
そんなことを考えていると、気球の準備を終えたシン王子から声がかかる。
「チヒロ、気球に乗ってくれ。」
「ありがとうございます。」
「何を見ていたんだ?」
「湖に魚がいたので、それを。」
私は気球に乗り込み、シン王子は空に上がる準備をする。
「この湖の魚は、カナリスで提供されているものだ。」
へぇ…
こんな浅瀬にまで魚がいたのだから、湖の中心辺りには、もっと大きい魚がいるに違いない。
「準備が出来た。気球を上げるぞ。」
シン王子の合図とともに、気球が浮上する。
昨日に引き続き気球に乗ったけど、気球が浮上する瞬間って、ワクワクするよね。
徐々にさっきまで見ていた風景が遠ざかっていき、湖全体が見えるようになってきた。
エンゲルストラート、アルトゥン、アクアルテ、すべての水がこの湖に集まる。
「この湖は、モアーナ。ナトゥラの終着点だな。」
ある程度浮上し、湖の上を気球が浮かぶ。
水面を眺めていると、おかしなものを発見する。
「シン王子。あれは何ですか?」
湖の水面にへこみがある。
いや…へこみというか、水が流れ落ちている?
「モアーナの中央には、滝があり、その流れ落ちたところに海がある。」
えっ?
とういことは、あの中央が海ということ?
「あれが海なんですか?」
「あぁ、小さな海。」
あれは、海というよりも滝つぼみたいだ。
「少し近くで見てみたいです。」
「わかった。」
モアーナの中央の穴に向かって気球が降下する。
流れ落ちる水は、ゴーゴーとなり、近くに来るとより迫力を感じることが出来る。
湖がきれいに丸く陥没しており、下に流れ落ちる水は滝の様。
何か変わったことがあるかと思ったけど、特になさそう?
それにしても、あの下にある滝つぼみたいなものが、海というのが違和感なんだよね。
なんで、海なんだろう。
「海は、水の流れつく先にあるものではないのか?」
「私の世界では、海はとても広く、そして海の終わりはありませんでした。」
「そうなのか。チヒロから見ると、プティテーラの海は、小さいんだな。」
小さいというか。
別の物に見えるというか。
そういえば、海は限りがなく永遠に続いているよね。
プティテーラでは、海は限りがあるものに分類されるのだろうか。
月の約束をプティテーラの人が作ったのであれば、海は限りがあると判断されているのではないか…
まぁ、そもそも、海が流れ落ちるのではなく、水が流れ落ちるわけだからあんまり関係ないかもしれないけど。
「プティテーラでは、小さな海は有名なのですか?」
「いいや。モアーナがあるし、それから滝を降りるのは危険だから、入りたがる奴はいないな。」
何かあるのであれば、聞いてみたかったけど。
確かに。
穴の半分以上は、水が流れ落ちているため、人が入る場所などほとんどない。
小さな海は、あくまでモアーナの先にあるものということかな。
本来なら小さな海が終着点のはずだけど、シン王子も、モアーナがナトゥラの終着点と言っていたし。
うーん…
海ねぇ。
私は、流れ落ちる水をじっと見つめる。
なんだろう…
何か違和感があるような気がするんだけど。
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