161話 限りのある永遠の先には
導きの橋は消えず、流れ落ちる水は永遠ねぇ…
導きの橋は、アルトゥンの消えない虹。
流れ落ちる水は永遠は、エンゲルストラートの底のない滝だろうな。
「シン王子…」
「なんだ?」
「シン王子は、クヴェレ殿下からどのように月の約束の話を聞いたのか、お聞きしたいです。」
「他の奴らと変わらないと思うが?」
うーん。
教えてもらえないか。
「…私がアルビナ令嬢から聞いた話には、導きの橋は消えず、流れ落ちる水は永遠という言葉はありませんでした。」
「なんだって?」
「だから、それは口伝の段階で途中で消滅したか、もしくは途中で付け加えられたものということになります。アルビナ令嬢が、あそこまで話して、そのことを隠していたとは思えませんでした。」
シン王子は、少し考えると私たちの顔をじっと見る。
「導きの橋は消えず、流れ落ちる水は永遠。しかし、永遠には限りがある。その先は深く重く長い。進むは地獄。扉は開かん。時が満ちるその日まで。」
さっきの続き…。
永遠に限りがあるって、すでに矛盾が生じているけど…
ただ、永遠に落ち続ける水にも限りがあるということ。
なら、エンゲルストラートを下ってみればいいわけか。
「エンゲルストラートには、限りはないぞ。」
「え?確かめたんですか?」
「実際、降りたことがある。だが、生きて帰ることのできる距離には、滝の底はなかった。」
生きて帰るって…
それに、そんなに危ないことしていたのかい…
この王子様は。
そういえば、途中までロープで降りたことがある人がいると言っていたな。
まさかのご本人だったとは。
「一度目は、準備不足。そして、二度目は少しでも長く滝にとどまっていられるように、食料や防寒具を持って行った。ぎりぎりまで耐えたが、一カ月が限界だったな。」
「一カ月…?」
「あぁ、一カ月降り続けて、一カ月かけて登ってきた。」
よく死ななかったな、この王子様。
二か月間不安定なところで寝泊まりして、食べる量も加減しないと、二カ月の滞在は無理なのでは?
「もう一度やれと言われたら無理だな。死にかけた。」
でしょうね。
「それに、マニは一人で月の宝にたどり着いているのだろう?荷物と言っても一人で持てる量には限りがある。」
そうだ。
しかも、マニさんは王子と違って、平民出身。
二カ月分の食料と二カ月間体重を支え続けるロープなんて用意できないだろうな。
金銭的に。
そもそも二カ月分の食料ってなんだ…
人間一人で持てる量なのか?
「持って行った食料は、二週間だ。水はまぁ滝の水がある。そもそも、俺もエンゲルストラートには、底がありマニも降りたと思っていたから、そんなに長い間滞在するつもりがなかったんだよ。一回目の時は、日帰りだったしな。」
二週間の食料で、二カ月耐えたんだ…
この人ホントに良く生きていたな。
「俺は、流れ落ちる水は永遠。この言葉で止まっているんだ。長年探し求めていてもな。だが、そろそろ見つけないとまずいんだよ。」
「なんでですか?」
「俺もアルビナも、いい歳だからだ。」
いい年?
いい歳?
いい歳って、婚期ってこと?
「あの…失礼を承知で聞くのですが…おいくつですか…?」
「俺が21、アルビナが22だな」
いい歳なんだ…
「だから、約束も果たせず結婚という形になる可能性がある。一度、月に誓った以上それは避けたい。」
だからそれをアルビナ令嬢に…
って、言えないか。
だって、シン王子、裏ではこんなにバタついているのに、アルビナ令嬢の前では、素直になれないカッコつけだからなぁ。
シン王子が、ここまでやっているのを知っているだけに、歯がゆい。
そして、シン王子って頑固だしなぁ…。
達成するまで結婚しないとか言い出しそうで怖い。
いや…まさかねぇ。
一瞬浮かんだ考えを頭の端に追いやる。
顔が引きつったのは許してほしい。
さて、シン王子の言葉を手掛かりにするしかないと思うんだけど。
流れ落ちる水は永遠、何のことだろう。
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