160話 語り継がれた月の約束
美味しくカップ麺を三人で食べ、食後に寛ぐことにした。
ネロはソファーに丸まっており、私も机の上に突っ伏している。
シン王子の前でだいぶ行儀が悪いけど…
そういえば…
「シン王子って、お城を抜け出して来たんですよね。」
「あぁ、まぁな。」
シン王子もリラックスモードかな?
欠伸を噛みしめながら、机に頬杖をついている。
「心配されませんか?王子が行方不明だって…」
「いつものことだから平気だ。」
いつも?
「俺はよく城を抜け出すんだが…」
そんな自信満々に言われても…
王族の人ってやっぱり城を抜け出さないとダメなんだなぁ。
「その時は、ナトゥラに遊びに来る。このコテージもあまりにも城を抜け出し、ナトゥラで野宿をする俺を見かねて、出来たものだからな。」
「野宿ですか?」
「あぁ、このコテージが出来る前までは、野宿だった。」
嘘でしょ。
さっきまで寛いでいたネロも、今の言葉に驚き顔を上げてしまっている。
それもそうだ。
私もネロも野宿を経験したことがある。
私の入社試験というか研修というか…
無人島に放り込まれて、野宿。
いい思い出だけど、ホントに大変だったなぁ…
研修を思い出して体がブルっと震えた。
「そこまでして、何を?」
「月の約束。」
え?
「月の約束については、アルビナから聞いたんだろう?」
「はい…」
「俺は、月の約束はおとぎ話なんかではなく、本当の話だと思っている。それに約束をしているしな。約束を果たすと。月の約束が嘘でも、アルビナとの約束は果たさなくてはいけない。」
アルビナ令嬢との約束。
しっかり覚えているんじゃん…
「そして、月の約束があるとしたら、このナトゥラだからだ。」
「何か理由が?」
「月の約束の中で言われているだろ?導きの橋は消えず、流れ落ちる水は永遠って。」
「え?」
ちょっと待って。
アルビナ令嬢は、そんなこと言ってなかった気がする。
「それは、誰から聞いた話ですか?」
「俺か?俺は、父だった気がする。月の約束は、子供によく聞かせる話なんだ。両親から聞いていることが多い。」
シン王子のお父さん…
あの優しそうな王配か。
ということは、王族にのみ伝わっている話なのかな。
でも、シン王子のお父さんは、元々王族ではなく、現女王のトリウェア女王に婿入りしてきたんじゃなかった?
じゃあ、家庭によって、少しずつ話が違うのかな。
よくある話だ。
口伝は、人が語り伝える話。
途中で尾ひれが付くこともあるだろう。
結果、月の約束そのものがプロポーズの象徴であることには変わりはない。
そして、また逆もしかり。
口伝の段階で、話が途中でごっそり消えてしまう場合がある。
人の伝え忘れとかで。
でも、だとしたら、ナトゥラにはもっと人がいてもいいと思うんだよな。
調査という名目で、アイネを喜ばせ た物を探すんじゃないだろうか。
だって、財宝、美しい白布、珍しい獣の皮を超えるものだよね。
絶対に見たいじゃん。
それとも、探し飽きたとか?
「これは言い伝えだ。」
「え…」
「子供のころに話された月の約束は、小さいながら興味を持つ。だから、決まって最後にこういうんだ。これは、言い伝えだと。」
「それだと、あくまでそれは本当ではないと言っているように聞こえますけど。」
「事実、そう言っているんだよ。」
なんで、わざわざ?
「小さい子どもに探しに行かれたら、困るだろう?」
「それはそうだけど。大人になってから探しに来る人は、いてもいいのでは?」
「それは、俺も思う。そして、興味がある者たちは、なぜか月の宮殿に来るんだよ。」
セレーネギアに?
「月の宮殿に何かあると思っているんじゃないか?」
「月の光に導かれ、その扉の向こう側に行った。確かに、マニさんの言葉をそのまま受け取るのであれば、月を冠している、セレーネギアに行くのは納得ですね。」
それにしても、シン王子が言った月の約束。
言い伝えが本当で、シン王子が言ったことも本当なら、確かにマニさんが渡した物は、ナトゥラにある。
ネロの方を見ると、ニヤリと笑っている。
ネロも分かっているんだ。
拝みたくなってきたな…アイネさんを射止めた物を。
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