157話 赤く燃える滝
「少し歩くか。」
シン王子の提案により、アクアルテの道を歩くことにした。
本当にさっき見てきた、滝と同じ世界にあるものなのかと思うほど、雰囲気が違う。
鳥が空を飛び、エメラルドグリーンに輝く水の中には、水草や魚。
湖には、鳥が浮き、魚が跳ねる。
おとぎの国?
クマやオオカミが出ると言っていたけど、どちらも月のイメージあるかも。
クマは、ツキノワグマっていたよね、確か。
オオカミは、月に向かって吠えているイラストとかよく見かけたなぁ。
それに、狼男は満月を見ると変身してしまうという話も、地球にはあった。
偶然でも面白いし、妄想が膨らみますねぇ。
「道は、舗装されているが、それ以外の湖や滝は、すべて自然にできたものだ。」
いくつも湖や滝があるけれど、決して同じ形はない。
湖の大きさ、形、水の色。
滝の高さ、滝から流れる水の量。
これらすべてが自然にできた物だと考えると、感動すら覚える。
「一旦、気球に戻ろう。」
「もう戻るんですか?」
「アクアルテで最も美しい滝へ行くぞ。」
最も美しい滝?
いままでも十分美しかったけど…
どんなところなんだろう。
私とネロは、シン王子に促され、気球に乗り込み、気球は一気に浮上する
「歩いていくには、少し遠いんだ。だから、気球で行く。気球ならすぐだ。」
「最も美しいって、どんな滝なんですか?」
「それは、見てからのお楽しみだろ。」
シン王子は、ニヤリと笑い、結局教えてくれなかった。
そうやって、後に引っ張るとハードル上がるんだけど。
今まで見てきたものが十分美しかっただけに、生半可なものだと驚かない気がするんだよね。
綺麗なものに慣れてしまうというか。
だって、私の今の美しい物の基準って、アクアルテのエメラルドグリーンだよ?
それ以上があるってこと?
「ほら、見てみろ。」
しばらく気球に乗り続け、シン王子は指をさし、微笑んだ。
右手側には、カナリスとナトゥラを仕切る壁があり、気球乗り場から正反対のところに来たことが分かる。
これで、世界を半周したということかな?
気球がなかったら、もっと時間がかかっていただろう。
どれどれ。
私とネロは、気球からシン王子が指をさした方向を見る。
え?
なにあれ…
溶岩?
「あれは、滝ですか?」
「あぁ、炎の滝。バンシャラール。」
上から流れ落ちる水は、まるでマグマの様で。
「流れ落ちているものは、水なんですか?マグマではなく。」
「水だな。光の反射で水がマグマのように燃えた赤色に見えるらしい。」
「でも、他の滝はそんなことないですよね。」
「そうだ。だから、これもプティテーラの謎の一つだな。」
でた。
プティテーラの謎。
底のない滝、消えない虹。
そして、マグマのように燃えた炎の滝。
「どうだ、美しいだろ?」
勝ち誇ったようなシン王子に完敗宣言だ。
私の目は、まだまだ美しいものを見慣れていなかった。
水のカーテンならぬ、マグマのカーテン。
見たことないって、そんなもの。
「あとは、この壁伝いに行くと、ナトゥラの水が全て集まる湖と、小さな海があるくらいだな。」
ん?
ちょっと待ってよ。
くらいじゃないって。
世界を包む滝から流れ落ちて、エンゲルストラートやアルトゥン、アクアルテのように別れた水が再び集まる湖ってことだよね?
どんな規模の湖なの?
それに、小さな海って何?
私の知識では、海は小さくない。
海は大きいし、広いんだよなぁ。
異世界では、海は狭いの?
いやでも、コスモスの海は、広かったし。
一体どういうことなんだ?
「なんだ?」
「いや、そんなさらっと説明しないでください。気になるじゃないですか。」
私は、シン王子に抗議の声を上げると、シン王子は困ったような顔をする。
「そうなんだが、気球の飛行限界時間なんだよな。」
あたりを見ると、もう夕方。
「プティテーラでは、気球を飛ばしていい時間は、日の入り前までなんだ。夜になると危ないから、もし飛ばすとなると、夜飛行用の申請が必要となる。ナトゥラを一日で周ろうとするのは、やはり無理だったな。」
えぇ…タイムアップって言うこと??
そんなぁ。
湖と小さい海。
見たかったし、他にももっと周りたかったのに。
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