155話 私とネロにとってのコスモス
私は、気球の上でぐったりである。
真面目な話って、神経が擦り減るというか、疲れるよね。
気球で話をする内容ではなかった。
もし険悪ムードになっても、空に浮いた気球の上じゃ逃げ場ないし。
それなのに、この場で責められようとするシン王子…
凄すぎだろ。
新たな一面って、その都度更新されていくよね。
シン王子が配慮の鬼だというのは、少し関わっただけでも分かったけど、私が思うよりも頑固で、想いや信念がとても強い人だった。
そして、自分の想いを持ったうえで、相手の想いに気を配り、しっかり立ててくれる人だ。
意見がぶつかたら、絶対に折れないだろうけどね。
「……」
「どうかしましたか?」
「いや…、自分の考えを丸め込まれたのは、久しぶりだと思っただけだ。」
言い方…
丸め込んだって、私が悪いみたいじゃん。
…というか、シン王子だいぶリラックスモードに入られている?
それにこの言い方、アルビナ令嬢やラックさんと話している時と似ている。
もしかして、言い合いをしたから気が抜けたということ。
気が抜けたから、口調が崩れたの?
また、新たな一面だよ…
「なぁ、コスモスはどんな所だ?」
「うーん…ネロ、コスモスってどんな所?」
「俺かよ」
コスモスか…
語れるほどコスモスを知ってるわけじゃないし。
「チヒロは、どうなんだ?」
「私は、コスモス初心者なので。」
「どういう…」
……
この話題ダメじゃなかったっけ…とメルの時も思ったような…
コスモスの技術に触れなければ大丈夫か。
「私もコスモスに転移して来たんです。そこでコスモスの観光部でお世話になっているんです。」
「元々、転移者なのか。で、どんな所なんだ?」
え…だから。
「俺がプティテーラを想うように、チヒロとネロもコスモスを想っているんだろ?どう思っているかくらいは言えるだろ。」
どう思っているか…
だとしたら答えは一つだな。
「私にとってコスモスは、温かい居場所です。」
「…いいんじゃないか?」
「はい!」
ネロにとっては、どんな所なんだろう。
私は、そっとネロを伺う。
「俺にとってコスモスは…恩人だな」
「恩人?」
「何度も助けられているという意味だ。」
……
ネロが答えたことにもびっくりだけど。
恩人かぁ。
恩人なんだ。
コスモスというよりも、誰か人に当てた言葉なのかな。
私も、コスモスというよりは、観光部。
観光部が私の居場所だって思っているから。
あ、でも最近はコスモス内でも知り合い増えたなぁ。
やっぱり、コスモスが私にとっては、大事かな。
私が最近知り合った人たちのことを思い出していると、シン王子が口を開く。
「言い忘れたことがある。」
言い忘れていたこと?
なんだろう。
「異世界移動装置の件だ。」
あぁ、忘れてた。
あまりの白熱具合に。
そういえば、そんなことも聞いていたな。
「あれは、アルスの技術だ。詳しいシステムは、俺は知らない。母は知っているかもしれないが。もし聞くのであれば、母に聞いてくれ。」
いや…聞いて分かるかなぁ。
緊張でそれどころじゃなくなりそう。
「それから…」
まだあるの?
「観光は、続行していいのか?」
へ?
もしかして、シン王子がさっきのこと気にしているの?
「もちろんです。シン王子、案内してくれるって言いましたよね。最後までぜひお願いします。それに、質問も答えてもらいますからね。」
「…質問、まだあるのか?」
「当たり前です。月の約束の話も聞いてないですし、おいしいプティテーラのご飯も聞けてません。」
「当たり前ではないだろ。それに、おいしいご飯ってなんだ…」
「うまいご飯は、大切だ。プティテーラのおすすめ食をまだ食べていない」
うんうん。
まだまだ、答えてもらわなきゃ困る。
「二人そろって、案外図々しいな…」
「なんですか?」
「…分かった。観光続行…それを確認できてよかった。もうすぐ、次の目的地に着く。質問は、次の場所の後に答えてやるよ。」
シン王子は、呆れた顔で私とネロを見る。
私は、次の目的地に胸を膨らませ、気球から顔を出した。
もちろん、ネロの足という命綱付だけど。
…子供じゃないんだから。
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