154話 落としどころは、お互い様ということで
要は、コスモスもアルスもプティテーラにとって、都合が良かったということだ。
「ふ、ふふふ」
思わず笑ってしまう。
ネロも私を見て、ニヤリと笑った。
「なんだ?おかしくなったか?」
「いや…シン王子はお優しいなと」
私は、シン王子を見て、微笑みながら言う。
さっきまで余裕そうだったシン王子の顔から笑みが消え、さらに表情が消えた。
「…今の話の流れでどうしてそういう結論になる?馬鹿にしているのか?」
「まさか。そんなことしませんよ。」
「じゃあ、なんだ。アルスがコスモスと対立関係にあるかもしれないと気付きながら、同じタイミングでゲートを開き、鉢合わせにさせたことが不服なのでは?」
「えぇ、不服です。」
「じゃあ、なんで文句を言わない?」
「言う必要がないからです。あなたはプティテーラの利益のために、二つのゲートを開いた。王族として正しい行動だったのでしょう。なら、私たちはそれに文句を言うことはありません。」
シン王子の顔が険しくなる。
感情が見えなかったさっきより、断然こっちのほうがいい。
「なぜなら、そこに文句を言ったところで意味がないからです。そして、プティテーラはコスモスとアルスの対立に関係がないからです。」
「それは…」
シン王子…
先ほど自分が言った言葉を私に言い返されたからと言って、そこまで動揺しなくても。
「それと俺が優しいというのは、どういう繋がりがあるんだ。動揺を誘うためか?」
この人…
カウンター弱いのかな。
わざわざ言わなくても、大丈夫かなと思ったんだけど…
「えっと…私が不服を訴えたうえで、私の感情の行き場を用意してくれなくて、結構ですと言っているんですよ。」
「な…」
「まだあって間もないというのに、お人好しですか?わざわざ、私を怒らせてやろうとなんてしないでください。」
「見ていて分かることだが、情に深いんだな。」
「ね。」
ネロと二人でシン王子について盛り上がる。
その様子をぽかんと眺めていたシン王子だったが、だんだん再び眉間にしわが寄ってくる。
「俺が、いつ、お前らを思いやったんだ。勘違いをするな。事実を述べたまでだ。たまたま都合よく…」
「それです。」
私は、シン王子の言葉を途中で遮る。
普段こんなことをしたら、絶対に不敬罪。
「シン王子は、周りをよく見ていて配慮も行き届いている。そして、言い方は少し偉そうとはいえ、丁寧で相手に気を配っている。なのにどうして、急に私の怒りに触れそうな言葉を選んだのでしょう。都合がいいと。」
「……。」
私の言葉をシン王子は黙って聞いている。
私をまっすぐ見つめて。
「それにもっと言うと、この話自体、私に伝えなくてもシン王子はうまく立ち回れたと思います。それなのに、私の不安に思う気持ちを怒りに変え、シン王子にぶつけさせようとした。」
「……。俺は、お前たちが大切に想うコスモスを馬鹿にしたが?」
「転がり込んできた…でしたっけ?実際、その通りなのでは?疑問に思っていたんです。プティテーラが外交を開くのが初めてなのに、妙に慣れている部分があったことに。それに、虹の街アルカンシェル。売りが宿泊事業って…視野に入れてないとできないですって。コスモスの交渉もアルスの交渉もタイミングが抜群に良かったってことでしょ?」
おかしいなと思っていたこと。
この話を聞いて、だいぶスッキリしたし。
「コスモスやアルスが来なかったとしたら、プティテーラは自力でゲートを開いたんじゃないか?その準備もしていたんだろ。本当は。」
え?そーなの?
ネロの言葉に、私は驚きなんですけど。
「あぁ、異様な技術力の高さ。その先を見据えていたと思えば、理解できる。プティテーラは刻印を応用し、ゲートを造ろうとしたんだろう。」
ゼロから作ろうとする行動力。
プティテーラ…
凄まじいな。
「…お前らな。」
「なんです?」
シン王子の周りの空気が一気に緩む。
私は、思わずにやけてしまう。
してやったり。
「はぁ…。もういい。」
「なんでわざわざ、こんなことを?」
私が問いかけると、シン王子は少しバツの悪そうな顔をしたのち、真剣な表情で私を見た。
「パーティをやめるという選択は、プティテーラにはなかったが、それでもあのパーティは、君たちに失礼なものだったと思う。なのに、君たち二人は、誠意を示し、我々を立てた。ただの一般の職員と思っていたが、まるで違った。だからなのか…どこか心残りだったんだ。」
あれ…
もしかして、今日の案内役を買って出てくれたのって…
「アルビナの件もあったが、様子を見に来たんだ。昨日のパーティのことを聞かれたら、しっかり責められようと思っていた。」
「責めるも何も、完全にコスモスの情報不足でしたよ、あれは。アルスについて知ったのも、パーティの時だったし。」
「だな。むしろ失礼をしたのは、俺たちだろう。パーティに参加したのが、ただの職員だから。コスモスの都合をプティテーラ側が被る必要はない。」
「だが…」
私とネロの言葉に、まだ納得がいっていない様子のシン王子。
「では、お互い様ということで…どうでしょう。だって、気持ちの在り方は、どうしようもない。お互い自分が正しいと思ったことをやった。ただそれだけです。」
「……」
が、頑固…
「もしそれでも納得していただけないのなら、アルビナ令嬢とうまくやってください。」
「は?」
「だって、私は成り行きとはいえ、お二人の恋愛相談に乗ったので。」
シン王子は、キョトンとした顔をした後、優しく微笑んでくれた。
「わかった。感謝する。」
温かい言葉を添えて。
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