152話 虹のトンネルの向こう側
「そろそろ、次の滝が見えてくる。質問はここまでだ。」
残念。
まだまだ聞きたいことがあったのに。
「また後でな。まだまだ、聞き足りなさそうという顔だ。」
その配慮…
ホントに素晴らしいな。
尽くしたい精神があると聞いたときは、驚いたけどその通りだと思う。
本当によく見ている。
見た目は、俺について来いよ、みたいな人なのにね。
人は見かけによらないわ。
「ここは下に降りるのは危険だから、気球から見てくれ。ただし今回は、サービスで気球を限りなく下まで降ろしてやるよ。」
危険…?
私は、気球から下を眺めるように乗り出す。
うわぁ…
ここもでっかい。
迫力…
「ここは、アルトゥン。世界の滝から水が流れ落ち、そこからまた一段、二段と階段のようになっている二段の滝。一段目と二段目の間に虹の橋が架かり続けるのが特徴だ。ここにかかっている虹は、消えないんだ。これも、プティテーラの謎の一つだな。」
ほんとだ。
虹が色濃くかかっている。
底のない滝の次は、消えない虹がかかる滝…
どういう原理なの?
私は、どちらかというと理論を詰めたい派なんだけど。
「また、アルトゥンの端と端では、水の落差が違う。エンゲルストラート側の方が落差があり、逆側は落差が少ない。アルトゥンの最大落差は、一段目が約200メートル。二段目が約500メートル。ちなみにエンゲルストラートの水の落ち始めから地上まで900メートルだ。」
200メートル…
500メートル…
900メートル…
実際に見たから分かるけど、数字が大きすぎて分からない…
理論もダメかもしれない。
「あれ?二段の滝の反対側にも滝がありますよね」
「そうだ。その反対側の滝との間にも、もちろん虹がかかる。」
シン王子が気球をどんどんと下降させていく。
「滝の道ですね。」
二段の滝とその反対側の滝の間。
谷間のようなところまで気球を下げてくれた。
そして、虹の下を通り、滝と滝の間の道を進む。
両側に滝があり、まるで水のカーテンの間を進んでいるような気分だ。
滝と滝の間は、気球が四つは通れそうなほど広いが、水の落ちる高さが高いせいか、水の跳ね返りが凄い。
さらに水の流れ落ちる音が、ゴーゴーと轟音を立てている。
そして、気球がぎりぎりまで下降しているおかげで、二段目の滝と反対側の滝の間を通っているわけだけど、頭の上の方から水が流れ落ちる様子は、圧巻である。
なんだか、水に飲みこまれそう。
また、滝の間の道は虹のアーチがいくつも繋がりトンネルのようになっている。
虹のトンネル…
こんな景色見たことない。
「ここまで虹が出ているのは、珍しいな。」
「そうなんですか?」
「あぁ、虹の消えない滝とは言ったが、自然の流れで出来、消えるものもある。虹がここまでかかった景色は稀だな。」
シン王子も、虹のトンネルを興味深そうに眺めていた。
「珍しいって。見れてよかったね。」
「そうだな。」
「虹のトンネルの先には、何かあるのかな。」
私は、通って来た虹のトンネルを見て、ふと思う。
「急になんだ?」
「虹の向こうには、何かありそうじゃない?」
「ロマンチストだな」
「ロマンがあった方が生きてて楽しいでしょ。」
私がそう言うと、ネロは前足を顔の付近に持っていき、考えるポーズ。
「じゃあ、虹の向こうには、夢があるんじゃないか?」
「ネロもロマンチストじゃん。それに、夢があるのは、虹のトンネルの過程じゃない?だって、その先に何があるのか想像して、ワクワクするでしょ?それが夢じゃない?」
「なら、虹の先は案外、普通の日常かもな」
日常かぁ。
「虹を見て、そこまで想像を膨らませるとはな。プティテーラでは、虹の先は天に繋がると言われているな。」
天?
「じゃあ、エンゲルストラートを登って、アルトゥンの虹を通り、天使は天からプティテーラに来たのかもね。」
「滝は落ちるものでは?」
「いや、私の知り合いは、滝を落っこちて来るよりは、滝を逆走して天を脱走するくらいはしそうなので…」
「なんの話だ?」
シン王子は首を傾げているが、ネロはフフと笑いを漏らす。
だって、ショタ天使のくせして、二人ともパワー系のゴリラなんだもん。
素直に滝を降りてくるなんて、想像できない。
私は、今はここにいない私の癒しを想像して、首を振った。
虹のトンネルを抜け、気球はまた上昇する。
上から見て、やっと全貌が見えるって、相当大きい滝だよね。
エンゲルストラートといい、アルトゥンといい。
この気球という方法は、ナトゥラを観光する上で最適なんだろうな。
上昇、下降が自由だから、近くからでも遠くからでも、景色を見ることが出来る。
「世界って広いですね。」
「だろ?たった一つのプティテーラという世界もこんなに広いんだ。」
「ですね。」
プティテーラは、これから異世界交流が本格的に始まる。
もっと…もっと。
世界は広がっていくんだろうな。
世界は広い。
そして、異世界はもっと広い。
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