148話 空飛ぶ舟
「ラックはいるか?」
先ほどの建物の中に容赦なく入っていくシン王子。
「よぉ、いらっしゃい。そちらの二人は、初めましてかな?」
建物の中は、なんだかお店みたい。
奥から、人のよさそうな男性が出てきた。
オレンジの色の短髪でスポーツをしてそうな体格のいい男性。
「ラック。乗り物を貸してくれ。」
「シン、急に来て、強引だな。後ろの二人を紹介してくれよ。」
「……」
「そんな顔をするな。」
面倒くさそうにジト目を男性に向けるシン王子に、あきれ顔の男性。
「急いでいるんだけどな…仕方ない。」
急いでいたんだ…
それは知らなかった。
徒歩四時間をしようと思っていた人だと思えない。
「コスモスから来たチヒロとネロだ。そして、この男はラック・ピュール。ナトゥラの観光案内人」
ナトゥラの案内人がいるの?
「雑な紹介どうも。ナトゥラの案内人というより、ナトゥラの入り口で受付をする人という感じかな。」
「ここに来れば、ナトゥラのこと教えてもらえたんですね。」
「そうだよ。なのに、シンは。」
「うるさい。それに、ちゃんと交換条件だっただろ。」
いやいや。
確かにそうだけど。
もっと、考えればよかった気がする。
やっぱり騙された気分…
「余計なことを言うなよ。ラック、早く乗り物を出してくれ。」
「分かったよ。先に外に出ていてくれるか?」
外?
「ほら、行くぞ。」
シン王子に促され、再び建物の外に出る。
建物の裏は、広場のようになっていて、大きい空間が出来ていた。
そして、ラックさんは何かを担いで広場に戻ってきた。
乗り物…には見えないけど。
ラックさんが担いできたものは、折りたたまれた布。
ラックさんは、それをドスっと置くと、またどこかに行き、今度は大きなものをガラガラと引きずりながら戻ってきた。
下にキャスターみたいなものが付いているのだろう。
ちょっとだけ浮いている。
大きなカゴと大きな布。
え?
もしかして…
ラックさんは、それらを組み立て始めた。
カゴの上に、布をつける。
これって…
「よっしゃ、出来たぞ。」
ラックさんは、爽やかににっこりと笑い、私たちの方を見た。
「さすが、仕事は早いな。」
「余計なお世話だ。」
シン王子とラックさんは、再び言い合いを始めるが私はそれどころではない。
だって、ラックさんが作っていたのって…
「気球…」
「お、知ってるのか?」
「プティテーラには、気球があるんですか?」
「あぁ、カナリスを陸の舟で渡るのなら、ナトゥラは空の舟だろ。」
空の舟…
飛行機やヘリコプター。
空を飛ぶものは、地球にもあった。
気球に乗れる機会があるなんて。
「これで、広いナトゥラを上から見ることが出来るんだよ。どうだ?」
「すごい。気球に乗るのなんて、初めてです。」
私の言葉にシン王子は、ニヤリと笑う。
「初体験か。いいな、それ。」
「そこまで喜んでくれると、用意した甲斐があるな。」
「じゃあ、さっそく膨らませるか。」
膨らむところも見られるの?
でも、私が知っているのは、気球のバルーンの下あたりに大きいバーナーみたいなものがあるんだけど…
それがない。
これどうやって膨らむんだろう。
そして、どうやって飛ぶんだろう。
「これはな、魔力で飛ぶんだよ。」
ラックさんが見せてくれたのは、手のひらサイズくらいの大きい石。
「刻印だな。」
「ネロ、正解。」
「カナリスの小舟も刻印で動いていた。」
「動力源は、この刻印。上昇したり、下降したり、運転に関してもこの刻印が役に立つ。」
やっぱり、刻印の技術がプティテーラでは、だいぶ進んでいる。
「これは、もともとプティテーラの技術なのか?」
「あぁ、この刻印は、プティテーラの発明品だ。この刻印が出来てから、プティテーラの技術が進んだと言ってもいい。」
外部技術ではないとすると、すごい発明家がいる可能性があるって、ネロは言っていた。
プティテーラの謎を残しつつ、私たちは気球に乗り込み刻印をはめ込む。
気球のバルーンは、徐々に膨らんでいく。
私のワクワクもバルーンと一緒に膨らむ。
プティテーラの自然に触れに行くぞ。
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