147話 案内人は王子様?
目の前に歩いているシン王子を見て、なんでこんなことになったのかと思う。
「王族に世界を案内してもらうのは、二度目だな。」
そういえば、そうだ。
一回目は、ミシュティで。
でも、ミシュティの時はメルが王族だとは知らなかったし、それに道案内と言ってもお手伝いの一環だった。
ただ今回は、完全に王子を案内人としているわけで。
「これ、コスモスに帰ったら怒られるやつかな。」
「いや、コスモスの奴らは、そんなことでは怒らないだろうな。」
「そう?じゃあ、少し安心して…」
「またいいように使われるだけだな。」
安心させてよ。
「早くしろ、置いていくぞ。」
シン王子は、私たちの方を振り返り、急かす。
「シン王子…これどこまで行くんですか…」
歩いてしばらく経つと思うんだけど。
「世界の入り口まで行く。そっちに用があるんだよ。」
「世界の入り口?」
「コスモスの異世界転送装置の方だ。」
嘘でしょ?
それを歩くの?
何キロぐらいあるんだろ…
「舟や水馬車を使わないのか?」
「舟も水馬車も足が付くだろ?」
……
「もしかして、抜け出して来たんですか?」
「そうとも言う」
そうとしか言わない。
足が付くって、何か物でも盗んだの?
もっと言い方あるでしょ。
そして、王族の人たちは、城を抜け出すのが好きだね。
グラースさんもそうだったし。
「大丈夫だ。俺の騎士には、行き先を伝えてきている。何かあれば、そいつが伝えに来るはずだ。」
「ちなみに、どこにですか?」
「君たちの宿泊場所」
やっぱり。
問題が何も起きませんように。
シン王子が来たことも驚きなのに、これ以上来られると、せっかくの憩いの場所が、全く気の休まらない場所になってしまう。
「あと、どのくらいで着くのでしょうか。」
「あと、四時間くらいか」
…舟で行こう。
「俺にこんなことしていいと思っているのか?」
シン王子の頭に私が着ていた長袖のカーディガンをかぶせ、隠す。
その間に、ネロが舟を借りに行った。
シン王子を船に乗せる時は、ヒヤリとしたが、なにも言われなかった。
舟に横たえて、舟を出発させる。
その間、シン王子は大人しくしてくれていた。
……
誘拐犯にでもなった気分だな。
頭のカーディガンを取るとムスッとしたシン王子の顔が出てきた。
こんな扱いされたことなかったよね。
申し訳ない。
でも、いまから四時間も歩くなんて嫌だ。
せっかく早起きしたのにすべてを無駄にする時間ではないか。
「アルカンシェルから異世界ゲートまで、四時間かかるんですよね。歩くなんて絶対に嫌です。」
「今の運び方、完全に誘拐犯だぞ。ばれたら大変だな。」
この王子…
脅し方が腹立つ。
「攫ったのではなく、一緒に観光していたと、ぜひとも言ってもらいたいですね。」
私の言葉に、ネロは呆れた様に言葉を発した。
「お前、王族が怖いと言う割に、王族に言いたい放題やりたい放題だよな。」
「え?そんなつもりは…」
「いや、結構容赦ないと思うぞ。」
「じゃあ、心の声が漏れているだけ…」
「心では思っているってことだろ?」
……
なぜ二人から問い詰められないといけないのだ。
そして、この二人は誘導はうまい気がする。
このままだと口が滑ってしまう。
「安心しろ。すでに口を滑らせているから。」
ネロは私の肩をポンと叩いた。
だから、猫ちゃん。
心を読まないでください。
「チヒロとネロは仲がいいんだな。」
そうかな?
だとしたら、嬉しいかも。
絆が深まっているってことだもんね。
「ほら、着いたぞ。」
シン王子が指し示す方をワクワクしながら見ると、そこには建物が一軒建っているだけで目の前は壁。
ここからどうやって行くのだろうか。
まさか、よじ登ってナトゥラの方に入るというのだろうか。
「この壁を登るんですか?」
「まさか。まずはあそこに入るぞ。」
シン王子は、建物の中に姿を消した。
私とネロは、目を合わせお互い頷き合い、シン王子が入っていった建物の中に続いて入った。
シン王子は、突拍子もないことを言い出すから、怖いんだよなぁ。
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