146話 悪魔と契約した気分です
「昨日、二人には、アルビナの様子を見に行ってもらっただろ?」
「はい。その後、アルビナ令嬢からシン王子に話をしに行くと言っていたので、そのまま帰らせていただいたのですが…」
「それはいい。二人を行かせた後に、アルビナが戻ってきたんだ。機嫌よく。」
そうだったんだ。
だとしても、シン王子あまり嬉しそうじゃないけど。
まさかね。
「そして、二人で話をした。」
「何かわかりましたか?」
「言い合いになった。」
やっぱり…
というか、なんで?
昨日も思ったんだけど、私に話すときはあんなに惚気ているくせに、なんで?
本人を前にすると、二人ともどうしてそうなってしまうの?
そこまで行くと、照れ屋では済まないと思うけど。
「シン王子。まさかと思いますが、その報告に来てくれたのですか…?」
「アドバイスをもらった身としては、同じ人間に教えを仰ぐべきだろ?」
そういうところ、律儀だなぁ。
ただ、今はそういうのは求めていないなぁ。
「ちゃんと、アルビナ令嬢と話をしたんですか?」
「あぁ。」
「私が言ったこと、アルビナ令嬢に伝えましたか?」
「伝えた。そうしたら、アルビナが怒りだしたんだ。」
…なんて言ったのよ。
素直に伝えれば、アルビナ令嬢が怒りだすことなんて、ないはずなのに。
「ちなみに、なんてお伝えしたんでしょうか。」
恐る恐る問いかけると、シン王子はその時のことを思い出したのか、顔をひきつらせた。
「お前は、笑わなくていい。安心していい。」
なぜだ。
そこじゃないって言ってるでしょ。
そうじゃないの。
笑わなくていいって言われた後に、何を安心するというのだ。
無理でしょ。
「違いますって。なんで笑わなくていいのか言わないと。」
「だから、笑ってほしくないからだろ?」
なんでだよ。
だから、その笑ってほしくない理由を言ってほしいと言っているのに。
アルビナ令嬢の笑顔を他に見られたくないから、笑ってほしくないんでしょ。
それでいいじゃん。
ここまで言い合いしたんだから、それでよくない?
そうしたら、円満解決できるんじゃないの?
どうして、ここまでこじれてしまうの。
シン王子の返答に思わず絶句である。
ネロは、ベッドをベシベシ叩いて、笑いを堪えているし。
だから、堪えられてないって。
シン王子に少女漫画とか貸してあげたいな…
ぜひ参考書にしてくださいと言って渡してあげたい。
いや、そうすると今度は斜めにとらえてしまい、別のことをしてしまうかもしれないな。
「シン王子…それでは、アルビナ令嬢には伝わっていないと思います。」
「そうか…」
だから、そんなに落ち込まないで。
困るから。
「どうすればいいと思う?」
既にお手上げ状態なのですが…
それに、シン王子が来てくれたとはいえ、私たちも仕事というものがある。
ちらりとプティテーラの地図に目線を送った。
今日はもしかして無理かもな。
「今日、何か予定があるのか?」
「え…あー…そう、ですね。」
「なんの予定だ?」
地図の方に目線を送ったのは失敗した。
ここは正直に言おう。
シン王子は、普通に問いかけているのかもしれないが、疑問の言葉はどうしてこんなにも圧があるように感じるのか…。
「ナトゥラの方に観光へ行こうかと思っていたんです。それから、プティテーラの伝説について調べてみようかと。」
「ナトゥラ…そうか。」
私の言葉に何かを考えだすシン王子。
な、なんだろう。
「プティテーラの伝説というのは、月の約束についてか?」
「そうです。」
「なるほどな。わかった。」
何が分かったんだろうか。
もしかして、今日は一旦お帰りいただけるのだろうか。
「俺がプティテーラを案内しよう。そして、二人は俺の話を聞く。どうだ?」
どうだ、じゃない。
いやいや。
シン王子に案内なんて恐れ多いし、ぜひとも断りたい。
「プティテーラについても、教えることが出来るが?」
いやいや。
流されません。
「案内人がいた方が、より楽しめるんじゃないか?ナトゥラは広いぞ。」
……
「それに、月の約束についても話せることは、ある。なんせ、俺は月を冠している一族だからな。」
くそぉ…
「わ、わかりました。…教えてもらってもいいですか?」
「契約成立だな。」
私は、悪魔と契約をした気分になりながら、悪魔と一緒にプティテーラ観光をすることになったのだった。
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