142話 月の約束に誓って
「シンとはね、小さいときから婚約者に決まっていたんだけどね…」
それさっき聞いたなぁ。
この人も酔っているのでしょうか。
いかにシン王子がかっこいいかを熱弁した後に、シン王子の文句が毎回ついてくるの、何とかなりませんか?
文句という名の惚気を聞かされている気分になります。
「シンとはね…小さいとき…」
おぉ…もしかして同じ話のスパンが短くなってきてる?
「シンとはね、小さいときに結婚しようねって約束したの。月の約束と言って。」
「え?決められた婚約じゃないんですか?」
「だから、違うって言ってるじゃない。」
言ってない気が…
決められたから、婚約しているわけではないとは言っていたけど。
今の言い方だと、シン王子とアルビナ令嬢が小さいころにお互いに約束をして、その約束が婚約という形になっているということだよね。
昔にプロポーズして、現在も形にしているということでしょ?
幼稚園の頃にした、子供同士の約束をちゃんと実現しているということだよね。
なぜ、そこまですれ違ってしまうの。
それに…
「あの、月の約束って?」
「そういう言い伝えがあるの。太陽と月の言い伝え。」
「言い伝え…」
「プティテーラでは、誰もが憧れる恋の話。」
へぇ、そんなものがあるのか。
アルビナ令嬢は、私の顔を見てクスリと笑うと、言い伝えを話し始めた。
昔、アイネという美しいお姫さまがいました。
アイネは、太陽に愛された子で、とてもとても周りに人気がありました。
アイネには、マニという恋人がいました。
しかし、マニとアイネには身分の差があったのです。
アイネは国の姫、マニは平民。
出会いは、アイネが城をこっそり抜け出したとき。
二人は出会い、そして一目見てお互いに惹かれ合った。
しかし、アイネに婚約話が持ち上がる。
何人もの候補者がアイネの前に現れました。
アイネは、絶望しました。
でも、マニは諦めなかった。
マニは、アイネに言いました。
「貴方は、我がままに、欲しいのもの述べてください。
私は、貴方に最高のプレゼントを用意しましょう。」
アイネは、分かったと告げます。
そして、それを婚約の条件にするのです。
アイネが出した条件はこうでした。
「私が一番欲しいものを持って来て下さった方と結婚します。身分などは関係ありません。その条件を満たした者の妻となることを約束します。」
そうして、アイネの婚約者を決める盛大なイベントが行われたのです。
一人の男性は、財宝を。
一人の男性は、美しい白布を。
一人の男性は、珍しい獣の皮を。
それでも、アイネは納得しなかったのです。
そして、最後にやってきたのがマニ。
マニは、ボロボロになりながらアイネに告げました。
「月の約束を果たしにきました。月の光に導かれ、その扉の向こう側に行ってまいりました。これは、貴方のために用意したものでございます。どうぞお納めください。」
財宝よりも輝き、美しい白布よりも美しく、珍しい獣の皮よりも珍しい。
そして、太陽が誰よりも似合うと言われたアイネにぴったりの物。
マニは、周囲の批判を黙らせました。
そして、アイネとマニは無事、結婚を果たしました。
「その後は、太陽のアイネと月のマニと言われ、このプティテーラに言い伝えとして残っているの。月の約束とは、マニの言ったプロポーズ。今では月の約束と言えば、月に誓いますという意味合いが出来て、月に誓ってあなたを愛し、添い遂げるという意味があるのよ。」
ロマンチックじゃん。
いいなぁ。
心がキュンキュンしちゃうよ。
「小さいころ、シンが私に言ったの。月の約束を果たすって。覚えているか知らないけど。」
「覚えてますよ。シン王子は。」
だって、アルビナ令嬢の話をするときに、あんな優しそうな顔をするのだから。
「そういえば、一つ気になったことがあるんですけど。」
「なに?」
「マニさんがアイネさんに渡した物って、何か分かっているんですか?」
「あぁ、それについては、分かっていないわ。そういう物語に興味がある人が、詳しく調べたみたいだけど、結局分からず仕舞い。物語ということで、そういう創られた部分もあるんじゃないかってことになっているわ。」
そっか…
財宝や白布、獣よりも、輝き美しく珍しい物。
そして、身分の差など関係がなくなるほど周りを黙らせる代物。
見て見たかったけどなぁ。
残念。
ふと思い出したのは、嘘かホント分からない物語を語ってくれる男の子。
滞在中になにか分かったら、良いなぁ。
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