137話 庭で癒されていたら、修羅場に遭遇したんだけど
これはいったいどういうことだろう?
大広間で踊って、見つめ合って、笑い合っていたシン王子とアルビナ令嬢。
その様子は、誰が見てもお似合いで、将来が安泰と言われるほどの二人。
今、植え込みから見えるものは、顔を突き合わせ、凶悪な顔でメンチを切り合うシン王子とアルビナ令嬢。
アルビナ令嬢の方がシン王子に比べ、少し背が低いため下から上に睨みを利かせ、シン王子はアルビナ令嬢を上から睨みつける。
だ、誰?
こわっ…というか、ガラ悪っ!
さっきまで、そんな感じじゃなかったよね。
ダンスが終わった後に、いったい何があったの?
「あなただってと言ったな。そういうことを言うということは、自分はやったと自覚があったからだろ。」
「いいえ。言いがかりも甚だしいわ。それに、そういうことはあなたに言われたくない。」
「俺がいつ、お前が言うようなことをやったって?」
「いつもよ、いつも。」
二人の会話がヒートアップしていく。
さすがに手が出ることはないと思うけど、手が出そうな勢いがある。
そもそも、なんの言い合いをしているのだろう。
いつもって言っているけど、お互い仲悪いのかな。
たまたま、虫の居所が悪かっただけ?
「いつもって言うが、それはいつだ?」
「いつもと言ったら、いつもよ。」
「答えられないじゃないか。」
「答える必要がないくらい、いつもなのよ。」
なんというか、小学生の喧嘩みたいな会話をしてるけど、大丈夫かな。
話が全く先に進んでいない気が…
第一印象があまりにも美しい存在だっただけに、頭の処理があまり追い付いていないんだけど。
「お前はいつも言いがかりをつけてくるな。」
「言いがかりですって?それは、こちらのセリフです。」
だからこれは、何の喧嘩?
大丈夫かな…
これ、大丈夫なやつかな。
お互い顔をより凶悪にして、こぶしに力が入る。
え…ちょっと…
私が止めに入ろうと体を動かす寸前に、二人はドスを聞かせて言った。
「周りに愛想ばかり振りまきやがって」
「周りにデレデレしちゃって。」
え?
どういうこと?
「あなたは、女の人に見られているといつもデレデレして。」
「俺がいつ、そんなことをしたんだよ。それを言うなら、人にもてはやされて喜んでいるのはお前の方だろ。」
「だから、それはいつのことよ。」
「いつもだ。」
「いつもって、いつよ。」
「答える必要がないくらい、いつもだ。」
すごーい。
もしかして、会話一周した?
そして、話も全く進んでいない。
まだ言い合いしているし。
えっと。
もしかして、これって痴話喧嘩ってこと?
止めに入らなくてよかったぁー。
そうだよね。
そういうことだよね。
シン王子は、アルビナ令嬢が周りに愛想を振りまくのが嫌だし、アルビナ令嬢は、シン王子が周りにデレデレするのが嫌だってことだよね。
そして、その話をずっとしているってこと?
「はぁ…だったら、もう好きにしていい。」
全く話が進まなかったのに、シン王子が面倒くさそうに言い放つ。
その言葉に、アルビナ令嬢は大きく目を見開き俯く。
シン王子…その言い方突き放したみたいで良くないんじゃ…
「……。あぁ、そう。」
アルビナ令嬢は、そう一言発し、シン王子を睨みつけた。
目に若干の涙をためながら。
「アルビ…」
「あなたがそういうなら、もういいわ。」
シン王子が名前を呼ぶのを遮り、アルビナ令嬢は言い放ち、庭から姿を消した。
えっと…
痴話喧嘩かと思ったら、修羅場だったんだけど…
さて、長居をするのもどうかと思うし、私たちも大広間に帰ろう。
ネロと頷き合い、そっと音を立てずに、そっと。
ガサ
「誰だ」
あー…
「お前なぁ」
「ごめーん」
ネロはすごい小声で文句を言ってきたので、私も小声で謝罪をした。
といっても、状況は待ってくれないわけで…
「そこにいるのは誰だと聞いている。」
威圧感半端ないよ、この人。
しっかり女王の血だよ…
シン王子は、間違いなくこちらを向いているし、少しでも動こうものなら、また音が鳴ってしまうし。
いつまでもこの場にいるわけにもいかない。
「すみません…」
私は、諦めて名乗り出ることにした。
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