136話 ホームシックにはモフモフが必要
ふわぁ…スッキリした。
お手洗いを出ると、ジロリと目を吊り上がらせたネロがいた。
「あの空間から抜け出すための言葉かと思いきや、ほんとに行くとはな。それに、俺を道案内に連れてきやがって。」
そうなのだ。
あの場を抜け出したかったのは、本当だったんだけど、その理由はお手洗いに行きたかったのだ。
どうしても。
だって、仕方なくない?
壁に張り付いて、飲み物をずっと飲んでいたから。
そこから、私は早歩きを微笑みながら行い、ネロは死んだ目をしながら道案内をしてくれたのだ。
そして、入口にネロを放し、駆け込んだと…
確かに、ネロをトイレ入り口に放置したのは悪かった気がする。
「ごめん、ごめん。」
「……」
ご機嫌斜めなのは変わらないけど、ムスッとしながら私の方を見てくれたので…
このまま、あの空間に戻るのもなぁ。
また、壁に張り付いて終わるのを待つだけだし、ここで待ってもいいんじゃないか?
「このまま戻る?」
「あー…」
ネロもあんまり乗り気じゃないみたいだし。
廊下から庭に行く道があるみたい。
あまりウロウロするのは良くないと思うけど、庭を覗くくらいなら大丈夫だよね。
「うわぁ」
「……」
庭に出ると、植え込みや、花が丁寧に手入れされている。
白の花が月に照らされて、銀色に光って見える。
「すごく綺麗。」
「だな。」
ネロと目が合い、二人で笑い合う。
さっきまで、気を張っていたからかな。
こういう景色を見ると、自然と気が抜けるというか。
「この庭、結構広いね。」
しかも向こう側には、花のアーチがあったり、庭の雰囲気がとてもオシャレ。
行き届いてるって感じ。
石段があったので、そこに腰をおろして、大きく息を吸い込む。
気持ちいい。
風に花の香りが乗って、良い匂い。
「明日、どこ行こうか。」
「自然地区に行ってみるのは、ありなんじゃないか?」
「そうだよね。どんな所なんだろう。」
まだパーティも終わっていないのに、二人で明日の予定を立てだす。
水の都市カナリスと自然地区ナトゥラ。
地図を見る限り、ナトゥラの方が広いんだよね。
かといって、カナリスが狭いというわけではないけど。
「カナリスの散策もまだまだだし。」
「しばらくは、プティテーラへ滞在になりそうだな」
「そっかぁ。フェリシアさん達、元気かな。」
「元気も何も、最後にあいつらに会ったの、昨日だぞ。」
「それだけ密度が濃い一日だったの。」
あぁ、フェリシアさんのお茶が飲みたい。
アンジュ君とアンヘル君に癒されたい。
アルバートさんに魔法のことを聞きたいし。
カイン君やリリスさんと、もっと話がしたい。
「ホームシックか?」
「そうかも」
なんだか感傷に浸ってしまったではないか。
疲れたのかな。
そうだ、疲れているんだ。
宿泊先に帰ったら、ゆっくりお風呂に入って、ゆっくり寝て、明日に備えよう。
あ、ネロをモフモフとしたら、もしかしたら癒されるかな。
私はネロをじっと見つめて、手をそわそわとする。
「な、なんだ。怖いぞ。」
「いや、ネロをモフれば、癒されるかもと思って」
「はぁ?」
小さくため息をつき、ネロをじっと見る。
良い触り具合だと思うんだよね。
モフモフで、温かくて。
「あー…」
私の視線にネロはうなり出し、眉間にしわを寄せる。
そして、大きくため息をつくと、不機嫌な顔をして手を広げた。
ん?
なに?
「ん。」
ん?
「やんないのか。」
え?
モフモフしていいの?
ネロから歩み寄ってくれるとは思わなかった。
「まぁ、今日のチヒロの功績を鑑みてだな。来ないのか?」
「行く!」
私は、勢いよくネロの方に飛び込んだ。
「うわっ」
「ネロ、モフモフだよ。」
「そうかよ。」
私は、ネロをモフモフしながら、銀色の庭を眺めた。
ネロは、黙って私の手をポンポンと叩いた。
ネロなりの励ましなのかも。
静かな夜
「なんでそんなこと言うの?」
…につんざく声。
え?
なに?
私はネロを抱きしめるのをやめ、ネロと顔を見合わせ、声のする方を伺う。
「なにかあったのかな?」
「さあ…」
「あなただって、そうだったでしょう」
「俺はしていないだろ。」
「私だってしていないわよ。」
声がだんだん近づいてきた。
私とネロは、とっさに植え込みの陰に隠れる。
そこからそっと声の方を覗くと、シン王子とアルビナ令嬢が険悪そうに睨み合っていた。
えっと、これはいったいどういうことなんだろう…?
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