134話 王族との挨拶が済んだので、壁になりたい
「まぁ、頑張った方じゃないか」
「もっと褒めてくれていいよ。」
挨拶は終わった。
帰りたい。
私は、きついお辞儀の体勢から体を戻し、もう一度、壁の花になろうと人気の薄い、壁側まで向かおうとする。
「こんにちは。」
はぁ、声をかけられてしまった。
振り返るとそこにいたのは…お、王配と王子たち?
なんで?
あ、もしかして挨拶が必要だった?
そりゃそうか…
女王様との挨拶に精神をすべて持っていかれた気分だったから。
この人たちも、プティテーラの王族だもんね。
挨拶しないと…
「お初にお目にかかります。中央都市国家コスモスから来ました、チヒロです。」
「ネロです。」
再びあのキツイお辞儀をして、王族の方たちに挨拶をする。
「楽にして大丈夫ですよ。周囲の視線は、トリウェアがすべて持って行ってくれています。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
私は女王様の方に視線をやると、確かに周りの視線や関心を独り占めしている。
さっきは、緊張していて、全然姿が頭に入らず、漠然とした感想しか出てこなかったが、女王様を改めて冷静に見ると、ほんとに美しいな。
銀色のウェーブがかった長い髪に金色の美しいつり目。
頭の上には、金色の冠。
そして、王配の言葉に私は、お辞儀の姿勢から元の体勢に戻る。
「せっかくだから、コスモスの方とも友好を結びたいだろう。息子たちも紹介しようと思ってね。」
何が、せっかくなのか分からないけど、挨拶させてもらえるのはありがたい。
王配に言う言葉ではないと思うけど、フォロー上手というか…
なんか、優しいし親しみやすい。
あまり王族といった雰囲気がないかも。
「はじめまして。私は、クヴェレ。クヴェレ・フォルモントです。」
さっきのこそこそした人たちいわく、この人がトリウェア女王の旦那さん…。
暗めの青い髪に、青色の目。
その目は、タレ目とは言わないけど、優しそうな目元をしている。
「そして息子たちと婚約者の子だ。」
これもこそこそさん達が言っていたな。
「シン・フォルモントだ。そして、こちらが婚約者のアルビナ・シュルーク。」
「はじめまして。シュルーク公爵家長女のアルビナ・シュルークと言います。」
シン王子が手を指すと、アルビナ令嬢はお辞儀をした。
「ナンナル・フォルモントです。」
第一王子に婚約者と言っていたから、シン王子が第一王子で、ナンナル王子が第二王子だな。
シン王子は、銀色の髪。
トリウェア女王と同じ髪の色。
少し吊り上がった目元も女王に似ているな。
色も金色だし。
一言でいえば、かっこいいです、はい。
ナンナル王子は、銀色の髪に青色の瞳。
銀の髪の毛は、マッシュっぽく、ふんわりとした髪型で、見た目は完全にかわいい系かな。
まぁ、私の独断と偏見だけど。
そして、シン王子の婚約者アルビナ令嬢。
公爵家と言っていたけど、プティテーラには貴族階級があるんだな。
それにしても、プティテーラの女性って、みんな凛々しいよね。
かっこいいというか。
アルビナ令嬢は、金色の髪を後ろに束ね、大きいお団子にしている。
吊り目の瞳は、燃えるようなオレンジ色。
令嬢としても美しいけど、女騎士と言われても納得できそう。
シン王子とアルビナ令嬢、美男美女でとてもお似合い。
こそこそさんの話だと、シン王子は優秀。
アルビナ令嬢も、公爵という肩書を背負っているだけあって、風格が違う。
この二人を見れば、プティテーラの未来が安泰だというのも頷ける。
「本来なら、私たちの方から、ご挨拶に伺わなくてはいけなかったのに、申し訳ありませんでした。ご丁寧に、ありがとうございます。」
申し訳ないことをしたし、だいぶ無礼だったな。
「いえ、そのことはもう気にしないでください。先ほどのトリウェアへの挨拶を見て、吹き飛びましたから」
「あぁ…、いや、あれはだいぶグレーかなと…」
思い出しただけで鳥肌立ちそう。
死ななくてよかった、ほんとに。
「それでは、プティテーラの宴を楽しんでくださいね。」
王族の人たちとの会話は、なんでこんなに神経を使うのだろうか…
ゲッソリである。
「着実に交友関係を広げているな…」
「挨拶したぐらいで、王族との交友関係が広がるなら、そんな楽なものないよ。」
「そうか?」
ネロは、ニヤニヤ笑っている。
あぁ、帰りたい。
帰るタイミングはいつだろう。
もう何もやらかしたくない。
私は、飲み物の入ったグラスを受け取り、そそくさと壁に寄る。
そして、また壁の花として私はチビチビと炭酸のきいたジュースを飲むのだった。
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