133話 女王様の存在感
私とネロは、再び取り巻きの傍に行く。
壁が厚いなぁ。
どうやって近づこうか…
そう悩んでいると、なぜか後ろから結構な力で背中を押された。
え、ちょ…転ぶ…
私は盛大に転び、床に手を付いた。
痛いな。
私は、背中を押された方をキッと睨み上げるが、そこには誰もいない。
なんだったの。
「大丈夫か?」
私の背後からきれいな声が聞こえる。
え…
この声は…
もしかして、もしかしますか…。
ネロと目が合うと、ネロはあきれた顔で私の方を見ている。
「大丈夫かと聞いているんだが?」
私は、ゆっくりと声のする方へ、顔を向けた。
すると、そこにいたのはプティテーラの女王様。
ですよね…
やらかしたあぁぁ。
「立てないのか?」
「いえ…」
威圧感が凄い…
別にこの人から圧をかけられているわけではないんだけど、この人の存在感で押しつぶされそうというか。
私は、プティテーラの女王様から目が離せないでいると、そばにネロが寄ってきて、誰にも見えない様に私の背中をつまみ上げた。
いたぁぁぁい。
女王様や周りの人が見ているため、顔には出せないので心の中で盛大に悲鳴を上げた。
「しっかりしろ」
そういうことを言うのなら、もっと優しくしてほしかった。
肉が削がれると思ったんだけど。
背中を押され、女王の前で転んだとはいえ、あの分厚い群がりの壁は突破することが出来た。
女王の前で転んだけど…
下から、女王様を見上げる。
女王様は余裕な表情を浮かべ、私を見下ろしていた。
まぁ、転んでやらかしたことだし、肩の力も少しは抜けたでしょう。
アウェイスタートには変わりはないし、これ以上落ちることもない。
なんせ、女王の前でなぜか転んだから。
なぜかね?
誰だよ、ほんとに。
私は、女王を見てにっこりと微笑んだ。
すると、女王が目を瞬かせる。
私は立ち上がると、右足を引き、左足を曲げて、背筋を伸ばし笑みを深くする。
「ほう…」
女王様の優しい声色が聞こえる。
確かこんな感じだった気がする、ドレス姿のお辞儀の仕方。
膝を曲げて、背筋を伸ばす。
相手を敬う挨拶。
さっきから見ていたけど、お辞儀をしている人は殆どいなかった。
そういう文化なのかとも思ったけど、そんなことはないはずだ。
だって、お辞儀をしている人は、ちゃんとしていたからね。
ただ、顔に出さないように必死だけど、この態勢は結構きつい。
足痛い…腰つりそう…
「きつそうだな」
「いえ、そんなことはございません。」
「そうか」
いや、すみません。
キツイっす。
許してぇ…
女王と目が合うと余裕の笑みを浮かべた。
あぁ、そう…
私は、小さく深呼吸をして、その態勢のまま女王様を見つめる。
「プティテーラの新たな開きのパーティにお招きいただきまして、ありがとうございます。お初にお目にかかります。中央都市国家コスモスからやってまいりました、チヒロと申します。彼は、ネロです。」
「ほぉ、コスモスの人間だったか。」
「ご挨拶が遅れたこと、謝罪申し上げます。」
私はその態勢のまま頭を下げる。
「顔をあげろ。コスモスの人間がどのような者を送ってくるかと思ったが、ずいぶんと大胆な者が来たな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
その返答に、周りがざわついた。
横からも小さくネロのため息が聞こえてくる。
まぁ、褒めてないだろうな。
褒められることしてないし。
無礼だって怒られるかなぁ。
でもなぁ…招待されたとはいえ、コスモスがあまりにも舐められる状況は良くない。
それなら、少しだけ道化を演じるのもありかもしれないし…
ネロ…死んだらごめん。
「ふ、そう、緊張しなくてもよい。」
うわぁ、笑って受け流すんかい…
「しかし、その強気な態度とは裏腹に、相手を敬おうとするその姿勢はいいんじゃないか?途中で、その姿勢を崩すのかと思ったが、案外、負けず嫌いと見える。」
ん?
「プティテーラの王を務めている、トリウェア・フォルモントだ。コスモスにも面白い人物がいるものだな。プティテーラの滞在、存分に楽しんでくれ。チヒロ殿、ネロ殿。」
うわぁ…笑うのか。
存在感がえぐいと思っていたが、ただでさえ視線を放さないのに、こう微笑まれてしまうと見惚れてしまう。
「あ…、ありがとうございます」
結局、私は女王様の空気に充てられてしまったのだった。
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