128話 ドレスとメイクは女性の鎧
ドレスを着たはいいけど、これでいいのか?
「ネロ、着れた。どう。」
私は、ドレスを着て、ネロの前に出る。
するとネロは、無言のままじっと見つめてきた。
「ネロ?」
「馬子にも衣裳だな」
「素直にほめてください」
私は、ムスッとしてネロの方を見ると、ネロは目を大きく開けて再びこっちを見ている。
「ちょっと待て。」
「なに?」
「なんで、後ろのリボンをやって出てこないんだよ」
うなじのあたりから垂れている二本のリボンを見て、ネロはあり得ない顔をしていた。
そうなのだ。
このドレスは後ろに留め具があり、さらにリボンがある。
留め具までは何とかやった。
リボンを結ぼうと思っても、どうしても縦になったり、左右のバランスが悪かったりしたので、ネロにやって貰おうと思ったのを正直忘れるところだった。
「その格好で、なんでどう?なんだ。なんでそれでいいと思った。」
「ネロにリボンを結んでもらおうと思って。」
私が何気なく言うと、ネロは押し黙る。
ん?
なんで?
「そういうのは、自分で…」
「やったんだけど、うまくいかなかったんだよね。」
「前、背面にリボンが付いている服着ていただろ…」
「いつもだったら、前と後ろを逆に着て、リボンを結んだあとにクルっとしたりするんだけど。このドレスだとできなくて。」
「うっ…」
どんなにやっても、左右のバランスが悪いため、諦めて出てきたんだけど。
別に私が不器用な訳ではないと思う。
言い訳をさせてもらうと、鏡がない。
どう頑張っても、後ろだけはどうにもならないのだ。
「え?やってくれないの?」
「…わかった。」
ネロは、しぶしぶ納得し、私のうなじのリボンに手を伸ばす。
なんで、そんなに嫌がる?
……
そうか、ネロは雄だったっけ?
え?
なんか申し訳ないことをしたかもしれない。
「髪はどうするんだ?」
「ん?」
「だから、髪。」
このまま…ダメか。
えー、鏡ないのが悔やまれる。
せっかく、衣装が可愛いのに…。
「はぁ、俺がやる」
ん?
ちょっと待って。
ネロがやるの?
「できるの?」
「じゃあ、いらないか?」
「いる」
やってくれるなら、やって貰いたい。
メイクは…
そういえば、ここに小さい鏡あったな。
私がメイクポーチから、鏡を出すとネロは再びため息をついた。
「鏡あんじゃないか…」
「衣装のリボンを結ぶのには、役不足です。」
そこからは、無言で私を作り上げていく。
メイクは女性の鎧とはよく言ったもんだよね。
さっきまで、衣装に着られている感が凄かったのが、今だと衣装に寄り添っているくらいまでには近づけたんじゃないか?
それにしても…
ネロは器用だね。
服を着替えるのには役不足な鏡でも、顔を見るくらいならちょうどいい鏡で、ネロの作業を黙って見ていた。
私の髪は、肩くらいのウェーブがかかったミディアムヘアなんだけど、サイドは編み込まれ、一つに束ねハーフアップに。
この猫、編み込みできるのかい…
いや…私も編み込みはできるけどね。
ネロの器用さに女として負けたくないと思った私は、心の中でネロにマウントを取ろうとする。
「出来たぞ」
ネロは優しく微笑み、完成を告げる。
いや、うん。
凄すぎて…。
「なんだよ。不服か?」
「ううん。すごくかわいい…」
「当たり前だろ。俺がやったんだから。」
そして、最後にどや顔をいただきました。
こやつ、もしや手馴れておる?
「準備できたなら、早くいくぞ。」
私の頭の中に出てきた疑問は、ネロの急かしによって一瞬で消えたんだけど。
「ちょっと待って?どうやって行くの?」
虹の街アルカンシェルから、パーティが行われるセレーネギアはすぐ隣の地区なんだけど、移動はもちろん舟でしょ?
この格好で、舟移動は危険じゃないか?
「歩くか。」
私、すこし高めのヒールなんですけど…
徒歩移動なのかい。
ちなみに、靴はドレスとおそろいの水色のヒール。
靴に罪はないからね。
ネロは、私の足元を見て、すこし考えた様子を見せると、部屋から出ていった。
え?
置いてかれたんだけど…
ついて来いってこと?
どういうことだ?
すると、ドアが再び開き、ネロが帰ってきた。
「なにやっているんだ?」
「あ、ネロ。置いて行かれたのかと。」
「そんなわけあるか。下で、水馬車というものを用意してもらうことにした。」
水馬車?
「水路を走る、馬車。そのままの意味だな。」
そんなものがあるのか。
というか、気遣い満点だな。
衣装といい、髪といい、移動手段といい。
なにからなにまでやって貰った気分だ。
悔しい。
今度お返ししよ。
私は、パーティのことを頭の端に追いやり、いかにしてネロにお返しをするのかを考えるのだった。
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