127話 ドレスコードは事前の確認を
宿泊先へ帰宅。
「お前、ほんとに忘れているのか?」
「だから何を。」
「次の予定。」
あぁ、それなら覚えてるよ?
だって、それはある意味仕事でしょ?
忘れないって。
「パーティに行くんでしょ?」
「なんだ、覚えてたのか。」
「馬鹿にしてます?」
「してない。ただ、何も準備しようとしないから、魔水魚やウォーターフルーツに頭を持ってかれていたのかと。」
ん?
準備?
準備!?
「ちょっと待って。準備って何?」
「は?パーティに行く準備だよ。当たり前だろ。」
「そんな当たり前知らないし。え?何すればいいの?」
「ちょっと待て。そのまま行く気だったのか。」
ネロは、私の服を凝視しながら言った。
…私も自分の恰好を見る。
ダボっとした黒のトレーナーパーカーにジーンズのショートパンツ。
足元は、赤のハイカットスニーカー。
全然気にしてなかったけど、確かに、パーティに行く格好ではないな。
でもでも、トレーナーのサイドはスリットが入っていて、下の部分をリボンで結ぶオシャレトレーナーなのだ。
可愛いパーカーなんだからな。
ネロの方に視線を戻すと、ネロは、正気か?という目で私を見ていた。
「分かったって。私が間違ってました。」
「分かればいい。」
「でもさ、そんなにきっちりとしたパーティだと思わなかったから、なにも用意して来てないんだけど。」
「逆に、その格好で出ていいパーティってどんなパーティなんだ。」
そんなに言うか。
確かに、ダボっとしているけど、ミシュティのお菓子パーティみたいな感じかもしれないじゃん。
「あんなにきっちりとした招待状が届いたのに、フランクなパーティな訳なくないか?」
…言われてみれば、そうだわ。
そもそも招待された立場、しかも一応コスモスの代表がこの格好はないな。
でも、持ってきてないし、そもそも持ってすらいない。
んー。
「今から、ドレスを買いに行く?」
「馬鹿なのか?招待された世界のドレスで行ったら、普通にばれるだろう。量産型のドレスを買うわけじゃないんだぞ。それに、そんなにすぐに出来るわけがないだろ」
「言ってみただけじゃん。」
「うるさい。」
じゃあ、どうしろと。
バックレるしないか…
私の思考は、パーティに行かないという選択肢を考え始めたんだけど。
「ちょっと待ってろ。」
ネロは、私にそう声をかけると、カバンをごそごそと探り出す。
何やっているのだろう。
どんなに探しても、持って来てないものはないと思うんだけど。
ゴソゴソ
ゴソゴソ
ゴソゴソ
「ちょっと…」
私が声をかけようとしたタイミングで、ネロはカバンから手を引っこ抜いた。
その手には何もない。
何も…?
いや、ビー玉だな。
あのビー玉って、確かアスガルさんから貰ったやつじゃなかったっけ。
そのビー玉を取り出してどうするのだろうか。
「その玉なに?」
ネロは、私の問いに視線だけ向け、すぐにビー玉へと視線を戻す。
だから、何なのさ?
「いいから見てろ。」
ネロは、そのビー玉を器用に両前足で包み、目を閉じる。
何を…あ、もしかしてビー玉に魔力を流そうとしている?
私は、それを確認するため、自分でもゆっくりとだが気を練り上げて、目に集中する。
すると、ネロの両前足というか、ビー玉に気が一気に流れる。
おぉ、ちゃんと見える。
最近は、気を視認するくらいなら、意識すればできるようになった。
そして、ビー玉にキラキラとした光が流れ込む。
気が魔力に変化した証拠。
ちゃんと、何気ないときに意識しているんだから。
それにしても何を…
そう思ったとき、ビー玉が一気に膨れてボフンと音を立てた。
私は、思わず目を閉じる。
な、なに?
恐る恐る目を開けると、そこにあったのは、ドレスだった。
すごくきれいなドレス。
ホルターネックのAラインワンピースのドレス。
色は、水色でふんわりとしたシフォン生地。
ドレスの丈は、前はひざ下で、後ろの方が前よりも丈が長くなっている。
フィッシュテイルというものだったはず。
え…可愛い。
え?
可愛いんだけど、これはどこから?
「アスガルからの差し入れ。ドレスは、アスガルが圧縮して、あの球体にしたんだ。持ち運び便利な、圧縮魔法だな。」
な、なんと便利な。
荷物要らないじゃん。
「慣れてないやつがやると、しわになるけどな。」
…しわ一つないドレスをまじまじと見てしまう。
やっぱ、アスガルさんもすごいんだな。
「感心しているところ悪いがさっさと着替えろ。招待されてる身で、遅刻なんかできないだろ。」
もっと、このドレスや、その魔法について触れたかったのに。
私は、ネロに促されしぶしぶ、ドレスに着替えることにした。
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