119話 何事にも最後の悪あがきは必要なのです
「おつかれ様、チヒロ」
お使いを終えて、アスガルさんから招待状を受け取り、明日には次の旅行先だからと言われ、やっと、就業時間になった。
「おつかれ様です。」
フェリシアさんに返事をして、その後辺りを見回す。
私は、カバンに荷物を詰めながら、ターゲットを探す。
いた。
目が留まった先にいるのは、空飛ぶ猫ちゃん。
私は、ネロに近づいてにっこりと笑いながら声をかける。
「ねーろー。」
私の声に怪訝そうな顔をしながら振り返る。
「なんだ」
「いや、今日暇かなと思って」
私がそう言うと、ネロは、何かをひらめいたのか、私を見つめながら少しずつ後ずさり、タイミングを見計らっている。
そして、勢いをつけて逃げ出そうとしたところで、私はネロを捕獲した。
「お前、俺を捕まえる時だけ、動きが違わないか…」
「こういうのは、相性じゃない?」
「捕獲される相性なんて絶対にイヤだ。」
ネロは、諦めたのか大人しくなったが、ぶつぶつと文句は続く。
いいの、ネロを捕獲することが第一目標だったわけだし。
「それで、用があるんだろ?」
「そうそう、明日の旅行先について、これから調べないといけないわけじゃん。私一人でやるのは寂しいから、ネロもどうかなと思って。」
「俺は別に」
「ネロ?どうかなって思って。」
「だから俺は…」
「なに?」
「………」
私は、満面の笑みを浮かべてネロに言った。
もしかして、目は笑っていなかったかもしれないけど。
「行けばいいんだろ」
「さすがネロ!」
私は、ネロとカバンを持ち、オフィス内の人たちに挨拶をして、自分の部屋に向かう。
ネロは大人しく、私の腕に抱かれていた。
「ただいまー」
「…誰もいないが?」
「誰もいないけど、この部屋に私が帰ってきたことを宣言するの。音がしない部屋に帰ってくるのって、結構怖いんだから。」
「そういうものか?」
「そういうもの。」
私は、ネロをシャワー室に連れていき、ネロをわしゃわしゃと洗い、きれいに拭いた。
ネロは大暴れでした。
その後、私もシャワーを済ませ、着替えてベッドにダイブする。
布団に寝転ぶと、体がふわふわとしてくるんだよね。
「やるんじゃなかったのか?」
「…やる」
「まったく。起きろ」
「いたぁ…痛いよ」
ネロは、私の頬を引っ張って、私を起こそうとする。
「俺を連れてきて、お前が寝るな」
「…確かに。その通りです。」
「分かればよろしい。」
ネロが澄ました様に言うので、笑ってしまいそうなのを堪える。
猫のお澄まし、なんか可愛いんだけど。
怒られてるのに、頭は違う方に行くよね、この顔は。
「それで?」
私の邪心の心を見抜かれたのか、ネロは目を鋭くし、思いっきり睨んできた。
その顔も可愛いと言えばかわいいけど、これ以上ふざけると、ネロの機嫌を損ねてしまうので、本題に移ることにした。
「お互い、知っておいた方がいい事とかあるでしょ?」
「俺は、アスガルからすでに資料を貰っていたけどな。チヒロが貰っていないと思わなかったし、今日まで知らないとも思わなかった。」
なんて?
ネロは、明日、コスモスを発つことを知っていたというのか。
「ずいぶんのんきだと思っていたが、知らなかったんだな。アスガルから伝えると言っていたから、俺から言わなかったが。」
「言ってよ!」
「知ってると思ったんだよ。それに、俺も知ったのは昨日だから、大して変わらないだろ。」
「もしかして、今日の用事って…」
「あぁ、明日の準備だな。」
ちょっと…。
お使いはアンジュ君やアンヘル君と一緒で楽しかったけど、ほんとにのんきにしている場合じゃなかった。
そもそも、お使いは私のペナルティの一環だったし…
くそぉ…
「タイミングが悪かったんじゃないか?」
「そうだね…」
その通り過ぎて、返す言葉もないよ…
寝坊が悪かった、すべて。
「終わったこと言っても仕方ないだろ、明日には行かないといけないんだから。」
「分かってるって」
「じゃあ、やるぞ。」
え?
ここまで連れて来てなんだけど、付き合ってくれるの?
「お前が最低限の知識を頭に入れてないと、不具合が出た時、俺が困るだろ。」
「…頑張ります」
こうして、私とネロの一夜漬けが始まった。
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