117話 噂にはひれが付くもの?
企画宣伝課の人たちと、お使いミッションという名のご飯タイムを楽しんでいると、オフィスに人が入ってくる。
「おや、なんだか楽しそうなことをしているね。」
「アスガルさん」
オフィスに入ってきたのは、微笑みを浮かべたアスガルさん。
「久しぶりだね、チヒロ。それにしても、何をやっているんだい?」
「私がお使いを頼まれてまして、頼まれていたものを渡しているところでした。」
私の返答にアスガルさんは、首をかしげる。
「食事をしているようにしか見えないんだけど…?」
「カイン君とネロに頼まれていたものが、料理のお使いだったので、それでみんなで食べることにしたんです。」
「そうなんだ」
アスガルさんは、机の上に並んでいる料理に顔を向けるとじっくりと観察するように見た。
「これは、フライドポテトで、こっちはトーストかな。他の二つは見たことないな。生の野菜ということは分かるけど。」
「これが、野菜スティックで、こっちがピクルスと言います。」
私が指をさしながら説明すると、アスガルさんは再び料理の方に目を向けた。
「アスガル。これは、チヒロがミシュティで作った料理らしいよ」
「これが?噂の箸休め料理というやつかい?」
アルバートさんも言っていたんだけど、どの噂なのだろうか。
「この前、ミシュティの箸休め料理が人気だと言っただろう?その話がいろんな異世界に広まっているんだよ。ミシュティに行って、帰ってきた人たちが広めているんだろうね。」
「それなら、俺も聞いたことあるな。目が飛び出るほど美しいって。」
「俺も聞いた。舌が落ちるほどおいしいって。」
「僕も聞いた。ミシュティの幻の料理だって。」
アスガルさんの言葉に、カイン君、アンジュ君、アンヘル君も食いついた。
ちょっと待って。
目が飛び出るほど美しいって、どうしてそうなったの?
フライドポテト…
じゃがバター…
ピクルス…多少の色合いあり。
どこを見て、そういう話になった?
もしかして、盛り付け工夫してるのかな…?
それに舌は落ちないって。
どういう状況なの、料理を食べて舌が落ちる場面って。
そのまま聞くと、普通にホラーじゃない?
怖くない…?
誉め言葉なのかな…
舌を巻きたかったの?
それとも、頬が落ちたの?
ま、幻の…
普通にミシュティに行けば、食べられると思うし、むしろミシュティに行かなくても、食材そろえて作れば食べられるけど。
ミシュティの食材の甘味という観点では、幻と言っても過言ではないけど。
それでも、ミシュティに行けば、食べ歩きできるレベルの物じゃないの?
どうしよう。
噂に尾ひれ背びれがついて、よく分からないことになっている。
盛られすぎて、逆に悪影響では?
不安になってきたんだけど。
「どんな豪華なものが出てくるのかと思っていたけど、案外素朴な感じだね。」
箸休めなんだから、箸を休ませなさいよ。
あくまでメインは、スイーツやお菓子なの。
豪華じゃなくていいの。
素朴が一番なの。
「あくまでメインは、ミシュティのスイーツたちなので。そんなに目立つ予定ではなかったんですけど…」
「甘いものを多く食べるための、魔法アイテムとまで言われているらしいけど。」
甘いもの食べて、しょっぱいもの食べたら、甘いものが食べたくなるだけ。
気持ち的にそうしたくなるだけだよ。
「食べてみてもいいかい?」
「…どうぞ。」
ここまで、実際の物と違う感じで広まった噂を聞いた人に、食べてもらうのは、なんか嫌だぁ。
アスガルさんは、野菜スティックのきゅうりを一本取って、ミソマヨに付けて、口に運ぶ
ハードル上がりすぎてるんだよな。
どうかな…
「うん…、おいしい。」
きゅうり一本を食べ終えて、アスガルさんは優しく微笑んでくれた。
「優しいしょっぱさだね。これは、なんだい?」
「味噌とマヨネーズです。」
「ミソ?」
「そのまま食べると、割としょっぱいんですけど、コクのあるしょっぱさというか。マヨネーズと混ぜると、優しいしょっぱさになりますね。」
私が味噌について解説すると、アスガルさんが料理の方を見て、もう一度私の方を見た。
な、なんだろう。
「もう少し食べてもいいかい?」
あ、そういう…
「ぜひ、食べてください。」
私は、料理をアスガルさんに薦めた。
そういえばアスガルさん。
ここに何しに来たんだろう…。
私の疑問は、宙に消えていくのだった。
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