12話 生存確認は割と大切
「おい。お前。あの機械出せ。」
「え?機械ってスマホのこと?」
ネロに強くいわれ、ポケットから取り出すと腕を結構な力で引かれる。
その小さい体のどこにそんな力を隠し持っているんですか、ネロさん…。
「ティエラのこと思い浮かべて、これに触れろ」
そういいながら、ネロは私の手とスマホに触れた。
ネロから、何か温かいものが流れてくるような気がする。
驚いてネロのほうを見ると、真剣に私の手とスマホを見つめていた。
「ティエラ自体、どこにあるか分からないが、お前の思念と異世界の狭間に漂う残留、それからいくつかの国を経由していけば、連絡くらいは通るはずだ。場所が分からないから、あくまで一時的だけどな。」
ネロのその言葉にキョトンと首をかしげると、フェリシアさんが耳打ちしてくれる。
「その機械開いてみて」
スマホを開いてみると、さっきと違って微々たるものだが、アンテナが立っている。
急いで、トークアプリを開くとちゃんと起動していて、思わずウルっと来た。
「一時的だって言ったよな?泣いてる暇あるならさっさとしろ。」
もちろんトークアプリに送る場所は、家族トーク。
なんて打とうか…。
というか、何て打てば問題にならないか考えるべきでは?
帰れないならしょうがないかとか思っていたが、地球の方で考えると、この状況、結構大問題なのではなかろうか?
…よし。
千紘
“千紘はちゃんと生きてます。
偶然、異世界行きのチケットを手に入れたので、ちょっくら異世界へ旅行してくるわ。
連絡なくても心配しないでね。
生きてるから。
地球に帰るときは、お土産ちゃんと持って帰るから楽しみにしてて。
あとこのことは、内密によろ。
企業秘密です。
ちなみに、千紘は頭がおかしくなったわけではありません。”
そう文章を打ち込み送信、しれっと異世界の写真を何枚かと撮って添付する。
元気でいるという証拠と、まぁ、異世界らしきもの空飛ぶ猫ネロ、そして一緒にいる人たちを送れば、心配はするかもだけど、最悪の事態は免れると思った。
例えば、警察とかに行方不明届けとか出されるとか。
彼氏と別れたばかりで、人間関係うまくいかなかった人が、急に連絡つかなくなったらまぁ、そうなるわ。
生きているアピールと楽しくやりますアピールでもしとけば、ギリギリセーフでしょ。
あとは、マイペースな我が血筋を信じるしかない。
どうか、大事にしないで下さいと。
打ち終わりネロのほうを見るとだるそうに見えた。
「ネロ、大丈夫?終わったよ。ありがとう」
そう告げると、ネロの力がふっと抜けて、空飛ぶ猫が地面に向かって落ちる。
「ネロ!?」
地面に落ちる前にアンヘル君がネロをキャッチしてくれた。
それを見て、心臓がバクバクしている。
「ネロ大丈夫ですか?」
「連絡をつなぐために、ネロの魔力を使ったのよ。それで、ちょっと疲れちゃったみたいね。少し休めば大丈夫。」
フェリシアさんの言葉に安心すると、急に体の力が抜け座り込んでしまった。
「あらあら。ネロのこと、心配してくれてありがとね」
「いえ、何も知らずに助けられて、それに対して、お礼も言えないなんて、寝覚め悪いですから」
クスクスと、からかうように笑うフェリシアさんに苦笑しながら、ネロのほうを見る。
アンヘル君は、それに気づき、ネロを私に手渡してきた。
戸惑ったが、小さい猫を起こさないように、そっと抱っこした。
目はしっかり閉じられていて、見えない夜の色。
体を見ると、上下にちゃんと動いており、しっかりと呼吸をしているのが分かる。
ほんとに良かった。
「時間取らせてしまい、すみませんでした。しかも仕事の話の途中で、腰を折ってしまい。」
「やっぱり疲れていると思うし、明日にしましょ。今日はもう休んで。お部屋に案内するわ。」
「部屋?」
「サポートは充実しているって言ったでしょ?」
企画宣伝課の部屋を出て、再び円の中へ促される。
さっきはよく分からなかったけど、これは転送システムの一種ってことなんだろうな。
光ると円の中に文様が浮かび上がる。
魔法陣みたい。
転送が終わると、マンションの廊下のような場所に出た。
私のイメージは、完全にタワマン。
エントランスホールとかにコンシェルジュとか居て、24時間サポート完備のやつ。
廊下を見渡すと、均一に扉が設置してある。
その一番左側の扉で立ち止まる。
「ここがチヒロちゃんの部屋ね。全部チヒロちゃんのものだから、中に入って適当にいじってみて。分からなかったら、部屋の内線とか利用して聞いて。1001これ私の部屋の番号。あと会社用の通信機の番号でもあるから」
「ありがとうございます。」
何から何までやってくれるフェリシアさんにお礼を言い、頭を下げる。
「いーえ。じゃあ、ネロも部屋に届けてこようかしら」
「えっ、あ、そうですよね!容体、急変したら大変ですものね。」
「寝てるだけだから、預かってくれるならそれでも大丈夫なんだけど…」
「ほんとですか!」
驚いた顔のフェリシアさんに、食い気味で詰め寄ると、引き気味に答えられた。
私の勢いにフェリシアさんは、苦笑いである。
だって、やっぱり、一人寂しいし、アニマルセラピーってあるし、落ち着くだろうし、それに目を覚ますか心配だし…
ネロが、ちゃんと目を開くのか、自分で見たかったのである。
「ええ。じゃあ、お願いするわ」
フェリシアさんは手を振り、自分の部屋には帰らず転送システムのほうに歩いて行った。
また職場に行ったのかな。
フェリシアさんが見えなくなるまで見送り、いざ自分の部屋の扉を開ける。
おおぉぉぉぉぉ!
ひっろっ!家具も完備。
電化製品も完備。一人暮らしするには全く困らない装備が整っていた。
部屋は2DK。
お風呂とトイレはちゃんと別で、お風呂もちゃんと足を延ばしては入れるくらいの広さがある。
なおかつ独立洗面台が付いている。
キッチンは一人暮らしするのに使う?というくらいの大きさのシステムキッチンである。
部屋二部屋も、一部屋目がリビングっぽい雰囲気でテレビや机、ソファが置かれていた。
もう一部屋が寝室でダブルサイズのベットに、おしゃれな間接照明が置かれていた。
ちなみに2DKなのだが、物置が一部屋くらいに広い。
…一人暮らしになれた私には持て余す広さじゃないか??
お部屋探索を済ませ、ベットにネロを寝かせる。
その横に、寝転んでネロを抱きしめると、ポカポカして温かい。
世界をまたぐという大きい出来事により、疲れていた私は、ネロの温かさを感じながら眠ってしまったのである。
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