100話 この笑顔の裏には何かある気がする
「やあ、チヒロ。元気にしているかい?」
私が朝、オフィスに着くと、緩く足を組み、ティーカップを持ちながら、優雅にお茶を楽しんでいるアスガルさんがいた。
その横には、全く目が笑っていない笑顔でアスガルさんを見ているフェリシアさんがいる。
朝から、空気が悪い…。
今日も気持ちのいい朝で、寝坊せずにオフィスに来たのになぜ…。
…帰りたい。
私は、オフィスに来て、早急に自分の部屋に帰りたくなった。
だって、この状況、絶対何かに巻き込まれる。
「やあ、チヒロ。」
返事をしたくないんですけど…
「チヒロ?」
……。
「おはようございます、アスガルさん」
結局、この人に勝てるはずがないので、おとなしく降参した。
アスガルさんは、笑顔で私を見つめてくる。
「…、今日はどうかされたんですか?」
「いい質問だね。」
アスガルさんは、私の問いにとぼけたように返してきた。
絶対に、質問待ちしてたよね。
質問しなかったら、私だけが気まずい空間が出来てたよね。
「この前、ここに来た時、言っただろう?」
この前…
アスガルさんが、ここに来たのって、いろいろ話が合って、その後に私がお土産を渡したときでしょ。
何か言っていたっけ。
確かお土産を渡して…。
ニコニコ
メルたちの話になって…。
ニコニコニコニコ
あ…
なんか仕事がどうとか言っていたような。
ニコニコニコニコニコニコ
私は、グラースさんの方をちらりと見る。
思い出したので、その顔をやめてください。
「仕事が…みたいな話でしたよね」
「正解だ。すごいじゃないか。」
いやいや、思い出せっていう顔だったよね。
思い出すまで、俺は待つよ(早くしろよ)みたいな顔でしたよね。
「よく覚えていたね。チヒロは、とても仕事熱心だと見える。」
「はぁ…」
「そんな君に仕事を振ろうと思う。」
アスガルさんが持ってくる話って、なんか怖いんだよな。
断れるものなら、絶対に断った方がいいと思う。
「まずは、これを読んで。」
アスガルさんは、机の上に一枚の紙を置いた。
私は、それを手に取って読んでみる。
「新ゲート開通についての要項…?」
「その話をするのなら、ネロも必要ね。呼んできますね。」
そういうと、フェリシアさんは、奥の修羅場部屋の方に姿を消した。
それにしても、新ゲート開通…。
この書類を見るに、新たな異世界にコスモスから行けるようになりましたよ。というお知らせみたい。
「新しい異世界に行けるようになったんですね。」
「あれ。もっと驚くかと思ったけど。」
「これでも驚いていますけど?」
「もっと顔に出した方が、可愛げがあるな」
まったく、失礼な。
「それで、この紙が何なんですか?」
私は、ムスッとして答えると、アスガルさんはクスクスと笑った。
「営業課が、新たな世界との交渉をつけて来てね。それが正式に決まったんだ。」
「おめでとうございます。コスモスにとっては、喜ばしい事ですよね。」
「もちろん。コスモスは、いろんな世界の文化を取り入れて大きくなっているからね。」
それは、分かっているんだけど、その話をなぜわざわざ私にしに来たのだろうか。
私は、アスガルさんの話を聞きながら、様子をうかがう。
「それで、新ゲート開通につき、向こうの世界を見て、向こうの世界の人たちと交流してきてもらおうと思ってね。」
へぇ、大変な仕事もあるもんだな。
「チヒロに」
ん?
私に?
私は、自分に向けて指をさし、アスガルさんの方を見て首をかしげる。
すると、アスガルさんは、にっこりと笑って頷いた。
いやいや…
「なんで、私なんですか!?」
「偶然なりにも、ミシュティとの友好関係を気づいてきたんだろう?」
「ミシュティと、というよりは、メルやグラースさん個人と、ですけど」
「聞いたよ。ミシュティの箸休めの料理だっけ?今すごく人気らしいよ。そのおかげで、甘いものもより売れているらしいし。」
そーなの?
誰が言ったの、それ。
「ミシュティからコスモス宛にお礼状が届いたって聞いたけど。」
そーなの!?
「これには、コスモス上層部も驚いて、この職員は誰なのかみたいになっているし。」
そ…、そーなの?
「そこで、今回の異世界との交流について、面白い視点を持っているかもしれないし、持ってないかもしれないというチヒロに白羽の矢が立ったというわけ。」
どっち?
「交流も何も。異世界初心者のただの人に何を期待しているでしょうか?」
「そういって、ミシュティからお礼状が届けば、ただの人ではないよね」
たまたまだったと言っているでしょうが。
それに、まだ何かある気がする。
アスガルさんの持ってきた話は、どうしても簡単に頷いてはいけない気がするのだった。
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