99話 また一つ、みんなのことを知ることが出来ました
衝撃的な自己紹介を終えて、私は今椅子に座らされている。
これは、いったいどういう状況かな?
対面には、アルバートさんが真剣な顔をして私を見てきた。
「チヒロ、落ち着いて聞いてくれ」
あまりの深刻そうな顔に私は、何を言われるのだろうと身構える。
「人族ではなくても、別に急に襲ってきたりとかしないから、安心してくれていい。」
……。
へ?
何の話だろう?
「人族と魔族の関わりもぎこちないものではなく、ちゃんと交流をするようになり、お互いを尊重するようになっている。」
はぁ…?
だから、なんでしょうか?
「魔族は怖い存在じゃないぞ」
アルバートさんは、真剣な目で私に訴えてきた。
えっと。
「別に、怖がってないですが?」
私がそう言うと、企画宣伝課の部屋の中の空気が緩んだ。
「確かに驚きはしましたけど、それは、見たことがなかったからですし。」
「カインやリリスが自己紹介した時、俺らの方を見ただろう?てっきりチヒロは、魔族が怖いのかと。」
「いやいや、本当なのか確かめるために、見ただけですって。」
それなのに、あちゃーって…
どんな顔なのかと思いきや、怖がらせた、まずい。という顔だったわけね。
「ミシュティでも、魔物を見ましたし、獣人も見ましたけど。」
「一緒に働くとなると、怖いのかと。」
なんか、誤解させてしまったようだし。
「すみません。吸血鬼も、サキュバスも地球では聞いたことのある名前だったので。実際こういう人たちなんだと、嬉しさと驚きが混じって、思わずアルバートさん達の方を見てしまったんですよね。」
「一緒に働くのが嫌だと言われたら、どうしようかと。」
そこまで、思いつめさせたの?
マジで、ごめんなさい。
「リリスさん、カイン君も嫌な思いさせていたら、すみません。一緒に働けるの、嬉しいです。」
「別に、気にしてないけど」
「俺らも驚かせたな、ごめんな。」
リリスさんは、相変わらずツンとしてるけど、これで二人への誤解は解けたかな?
「それにしても、この機会に言っておかなくていいの?またタイミング逃すんじゃない?」
ん?
リリスさんの思わせぶりなセリフ。
もしかして、まだなんかあるの?
「あのね」
「はい」
リリスさんの言葉に、フェリシアさんが口を開いた。
まぁ、話の流れ的に、何となく予想はついたけどね。
「課長以外、魔族と言ったら怒るかしら?」
「いや、怒りませんけど?」
「でも、騙していたみたいになっているし。」
「そもそも、ほんとのことを言われていなかっただけで、嘘言われたわけじゃないですし。それに、パーソナルカードに種族という欄があったということは、個人情報ですよね。初対面の人に、べらべら言わないですって。」
それにしても、アルバートさんは人族なのか。
人族で、コスモス一の魔法師って、すごくないか?
私の師匠すごすぎでは?
「チヒロ、怒ってない?」
「嫌いにならないで、チヒロ」
アンジュ君とアンヘル君がそっと私の方にきて、ピトッとくっ付いてきた。
申し訳ないけど、シュンとした双子もかわいいですね。
「怒ってないし、嫌いにならないって。」
二人をよしよしして、なだめながらふと気になることが出てきた。
私は、アルバートさんの方に行き、耳打ちをする。
「なんの種族かというのは、聞いていいものですか?」
「人にもよるけど、いいんじゃないかな」
アルバートさんは、笑って答えてくれた。
じゃあ、思い切って聞いてみよう。
気になるし。
「フェリシアさん達の種族って聞いてもいいんですか?」
「私は、アラクネという種族よ。」
アラクネ…アラクネ!?
アラクネって、蜘蛛じゃなかったっけ?
そう思い、フェリシアさんを見る。
確かに、髪の色とか少し毒々しいけど、きれいなお姉さんだよね。
「フェリシアは、昔やんちゃだったよね」
「課長、昔の話を持ってこないでいただいても?」
やんちゃって?
肉食お姉さんだったってこと?
今からは、想像できないな。
「僕達は、エンジェルという種族だよ。」
なんと!
天使だと思っていた双子は、ほんとうに天使だったってこと?
やっぱり天使じゃん。
え、もしかして私は、既に二人の天使さを見抜いていたっていうこと?
私って、天才だったのかもしれない。
私は思わず無言で二人を抱きしめた。
腕の中で戸惑っている二人がいるけど、今の私は天才だから。
自分でも何を言っているか分からないほど、大興奮だった。
「じゃあ、ネロは…」
私は、ネロにも聞こうとしたけど、ネロはさ…
「猫か。」
「…虎だ!」
「どう見ても、猫じゃん。」
「見た目が人でも、種族は違うという話を今までしてきただろうが」
「えぇーでもさ。」
「まったく。」
普段のやり取り。
ネロがどこかほっとしたように見えたのは、気のせいだったかな。
企画宣伝課の人たちの新たな部分を知って、なんだか嬉しくなった。
よし、今日も頑張るぞと私は、気合を入れる。
そして、私は、朝の失態をすっかり忘れているのだった。
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