97話 親から最初に貰ったもの
「今日は、ここまでにしようか。チヒロも疲れが出ているしね。」
「すみません。」
「僕は、戻るとするよ。あまりここにいると、フェリシアが怒ってしまうからね。」
私も、修羅場部屋に戻って仕事を…
「チヒロは、しばらくここにいるといいさ。ネロ、チヒロのことを頼んだよ」
「なんで俺が」
「マナ・ストーンを体験した時なんか、いいコンビだったじゃないか。その調子で頼むね」
そういって、アルバートさんは会議室から去っていった。
私は、もう一度椅子に座り机の上に突っ伏した。
疲れた…
「大丈夫なのか?」
「うん。平気。それにしても、アルバートさん教えるのうまかったな。それにすごかったし。」
先生とか絶対向いてるって。
「アルバートが教えるのがうまいかどうかはともかく、あいつは一応すごい奴だぞ?」
ん?
アルバートさんが、すごいのは分かったけど…
「ほんとに分かっているか怪しいな。」
「だから、何がすごいの?」
「アルバートは、コスモスで認められた苗字持ちだ。」
苗字…
そういえば、企画宣伝課の人たちはないけど、アルバートさんはあった気がする。
確か…
「アルバート・ファウスト」
「そうだ。」
今まで、全然違和感がなかったけど、コスモスでは苗字ってない物なんだ。
「コスモスで苗字を名乗っているのは、コスモスに認められた人のみ。いわば称号みたいなものなんだよ。」
そうなの?
私、普通に名乗ってしまっていたけど。
「お前のこと、誰も苗字で呼んでないだろ?」
「確かに…」
「コスモスでは、苗字をあまり使われていない。それくらい、苗字持ちはコスモスでは、偉大らしいぞ。」
「アルバートさんは、何で認められている人なの?」
「あいつは、コスモス内一の魔法師で、コスモスの魔法技術の権威だ。」
そうなの?
確かに、魔法の技術すごそうだったけど、コスモス一とは…。
「そんな人が、なんで課長?」
「国からある程度好き勝手することを許されている。それで、今の立場に落ち着いている。本当は、上に引っ張っていきたい奴らもいるらしいけどな。」
アルバートさんは、自由な環境の方が似合っているもんな。
「アルバート自身、魔力の量も災害級で、頭もよく働くから、うまくかわしてはいるみたいだけどな。」
ここに来たとき、上層部に話をしに行った課長と聞いたから、アルバートさんを見てイメージと違い驚いたけど、なんか今の話を聞いて納得かも。
しっかりと、オラついてる感じがあったね。
「それにしても、チヒロ。お前大変だな。」
「なんで?」
「コスモス内一の魔法師が、師匠になったんだぞ。」
…確かに。
魔法を教えてもらっている立場だから、私、アルバートさんに弟子入りしたのも同然だ。
「まぁ、頑張れよ。」
それ応援してます?
内心、鼻で笑ってます?
どっちかな?
にやりと笑うネロを、ジトっと見返してやった。
「そういえば、アスガルさんも苗字あったよね。」
「あぁ。」
「アスガルさんも、国から称号を貰ったということだよね」
ネロは、私の言葉に頷いた。
そっか、苗字は称号なのか…
「私も次から名乗るとき気を付けた方がいいのかな。」
「どっちでもいいんじゃないか?」
ん?
なんで?
「チヒロにとって大事なものなら、気にする必要はないと思うが?それに、コスモス以外の出身で、苗字を大事にしている奴は、苗字も名乗っている。規則があるわけではないから。」
ふーん…
有間千紘…
家族とのつながりという意味では、大事なものだけど。
有間という苗字に思い入れがあるというよりは、千紘という名前の方が大事だから、割とどっちでもいいかもな。
「私は、どっちでもいいかな。」
「そうなのか?」
ネロは、怪訝そうな顔で私を見てきた。
「そう。私が親からもらったものは、千紘という名前。この名前があれば大丈夫なの。有間になったのは、私にとってはあくまで流れだし。だから、私はちゃんと家族とのつながりを大事にしているよ。」
ネロは、驚いた顔をしていたけど、私にとって大事なものは、ちゃんとみんなに呼んでもらえている。
私は、それで満足なのだ。
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