10話 異世界転生は割と大変である
現在私は、改めて契約書を読み直している。
今度こそ読み飛ばして、自分の首を絞めつけないように。
ここで気になったことが出てきて、作業中のフェリシアさんに声をかけた。
「あの、気になった点があるんですが。行先自由って書いてあるんですが、行ける場所に制限があるとも書かれてますよね。これってどういうことですか?」
「それは、旅行者ステータスによるものね。」
フェリシアさんは先ほどまでのお客様対応から一転、敬語もすっかり取れ、対応もある程度雑になっていた。
切り替えはやいな。
「旅行者ステータス?」
「旅行するためには、ライセンスというものが必要なん
だけど、その中に旅行者ステータスというものがある
の。ステータスが上がると特典が付いたり、行ける場所
が増えたりするのよ。
観光部の場合、旅行に触れる機会が多いから、必須でラ
イセンスを取らされるの。観光部の職員も旅行者ステー
タスは基本的に順守だから、最初は行ける範囲が限られ
ているってこと。」
「異世界には何があるか分からないから、順序踏んでいく方がいい」
「異世界について、反対活動している世界とかもあるし、魔物が多く存在する国とかもあるから、そんな所になにも経験したことない人が放り込まれたら、死ぬだけじゃ済まない」
「聖女信仰している所や、異世界転移を神聖視している所は、そういうの厳しいからな」
フェリシアさんの説明に割と物騒な説明を補足していく、アンジュ君アンヘル君。
淡々と無表情に語るから怖いんだよなぁ。
確かに、異世界から転生してきた=神が導いてくれた聖女という世界にとっては、
転移が簡単にできてしまう異世界旅行って、都合が悪いんだろうな。
昔読んでた転生物とかも、異世界に聖女を召還することで、話が始まるわけだし。
そう思い、異世界転生物の小説に、異世界旅行しに行く自分を思い浮かべてみる。
やっぱりおかしいし、ちょっと間が抜けている作品になりそう。
そして、それよりも気になったのが、
「魔物とかってやっぱいるんだ。」
日本では、あまり馴染みのない存在に、ちゃんと実在するんだと思った。
「いる世界もあるよ、スライムとかオークとか」
「珍しいのだと幻獣とか神獣とか。そういえば、チヒロの国にはそういうのは居ないの?」
「想像上の生物だと思われてたかも。」
私の話にあまり表情筋が動かない二人が心なしかキラキラしているように見える。
別の世界の話って、やっぱり興味あるもんなんだな。
ん?でもそうやって聞くってことはもしかして…
「もしかして、私の住む世界につながるゲートってないんですか?」
「え?帰る気?」
私の決意の質問により、今度はフェリシアさんの表情筋がごっそり消えた。
えぇーちょっと待って。
フェリシアさんこわいよ。
しかも反応するのそこ。
そういう反応が返ってくるとは、思わなかったんだけど。
どんだけ、労働力を手放したくないのさ。
え?待って…今思うと、あのお客様対応、めちゃめちゃ怖いじゃん。
「いえ…ただゲートがあるのであれば、荷物とかを少々」
「確か、チヒロの国はティエラだったよね」
ティエラ…地球のことかな?
結構きれいな響きでいいね!
「ティエラとの異世界のゲートは繋がってないよ」
「え??でも私、この世界に来れてるんだけど?」
「そうなのよね。書類見たときティエラ出身って書いてあって、驚いたのよ」
「じゃあ、どっちにしても、帰れなかったってことですね。」
その事実を知り、がっくりと肩を落とす。
知り合いに会わなくていいようにと、旅行を決行したが、帰れなくなったとなると、話は別である。
こういうのは、自分でやってやったぞ!というのがいいのであって、状況に流され仕方なくというのは、なんかモチベーションが違うのである。
逃避行にもモチベーションは必要なのだ。
「まぁまぁ、調査課と営業課の人たちが頑張ればゲート繋げるかもしれないし」
「地球って、まだ見つかってない世界なんですか?」
「ティエラのものが、異世界で出回ったことがあるとは聞いた。そういう世界があるという認識は、してるんじゃないか?」
「へぇ、地球って珍しいんだ。」
今までいた地球から異世界に来て、改めて自分は地球にいないことを実感する。
何だか、寂しい気持ち……には全然ならないが、状況が状況なだけに。
でもやっぱり、家族は元気なのかなと思う。
私は、人間関係大変なことになってはいたが、家族関係は良好だったからだ。
大学に入ってからは、サークルにのめりこんでいたため、実家には帰っていなかったが、頻繁に連絡は取っていた。
パパもママも連絡が途切れたら心配するのかな。
そう考えると不安である。
ボーッと考え事をしていると話を切り変えるようにフェリシアさんが手を叩く。
「ライセンスと旅行者ステータスについては、取得時に説明するとして、他には何か気になるところある?」
「あと、100個ほどあるんですけど、いいですか。」
まじめな顔をして質問個数を言うと、ぎょっとした顔で見られた。
でも、もう知らないまま流されて、大変なことになるのは嫌だし、ここは付き合ってもらおうと絶対に譲らない。譲ってはダメなのだ。
10話をお読みいただきありがとうございました。
もしよろしければ、コメント、ブックマーク、していただけると嬉しいです(*^^*)
よろしくお願いします!