#34 新たなる旅立ち
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<ようかんは よう噛んで食べろ>
<チューリップは わらいころげた!>
「……えっ?」
<チューリップの こうげき…>
<しかし まだ わらいころげている>
うおぉ~、マジかッ!?
これまでの、どのモンスターにも1ミリも効かんかったダジャレが、まさかこいつに……。
しかし、そうと分かればこっちのもんじゃ。
よぉし、連発でお見舞いしてやるッ。
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<靴下を 発掘した>
<チューリップは わらいころげた!>
<チューリップの こうげき…>
<しかし まだ わらいころげている>
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<内臓が どこにも無いぞう>
<チューリップは わらいころげた!>
<チューリップの こうげき…>
<しかし まだ わらいころげている>
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<クレヨンを 貸してくれよん>
<チューリップは わらいころげた!>
<チューリップの こうげき…>
<しかし まだ わらいころげている>
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<コーディネートは こうでねぇと>
<チューリップは わらいころげた!>
<チューリップの こうげき…>
<しかし まだ わらいころげている>
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<教師が 今日 死んだ>
<チューリップは わらいころげた!>
<チューリップの こうげき…>
<しかし まだ わらいころげている>
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<紅葉を 見に行こうよー>
<チューリップは わらいころげた!>
<チューリップの おなかが よじれた!>
<チューリップを たおした!>
「きゃははっ、やったぁ♪ ついにやったぞぉ~ッ!!」
こうして、わしは 大メインクライマックスの激闘を制したんじゃ。
「これはお前の手柄じゃぞ、オウム……」
夕闇に染まる天空を仰ぎ見て、わしは呟いた。
嗚呼、願わくば今一度 奴と酒を酌み交わしたかった。
じゃが、まぁ これも運命か……。
わしは静かに目を閉じ、手を重ね合わせた。
「心から礼を言うぞ。もう安心して 安らかに眠れ――」
「……ん?」
ふと気づくと、わしは女・子供・年寄り連中に取り囲まれておった。
「ありがとう! ハゲの勇者……」
「感謝しますわ! ハゲの勇者様……」
「信じておったぞ! ハゲの勇者殿……」
皆、口々にねぎらいの言葉をかけてくれる。
そのうち、感極まった幾人かに体を横にされ、投げ上げられてしもうた。
「ワーッショイ♪ ワーッショイ♪ ワーッショイ♪ ……」
胴上げされるなんて、大学受験の合格発表の時以来じゃよ、まったく。
やがて、
「おーい」
男たちがベタに手を振りながら戻って来よった。
無論、ゾンビ化が解けた青年~壮年期の男たちじゃ。
そしたら、場が一層賑わい 活気づいた。
「ははっ、帰還兵の出迎えさながらじゃな。あっちこっちでチュッチュやっとるわ」
その中には酒屋の女将の姿もあった。
盛り上がりすぎてハプハプやりださなきゃええが(苦笑)。
「……おや、あれは?」
チューリップの死体のそばで、何かが飛び跳ねとる。
わしは剣を構えてゆっくりと近づいた。
「あっ」
それは、魔札の貼られたひょうたんじゃった。
「いかん、すっかり忘れとったわ」
わしはすぐさまひょうたんを拾い上げると魔札をはがした。
すると、栓がポーンと抜け飛んで、中から白煙が噴き出した。
煙は見る間に人の形に変わって、そのまま実体化した。
「あー、やっと出れた。めっちゃキツかったわ……」
初めて目にする女神様じゃった。
やはりというか さすがというか 貫禄たっぷりのお方じゃ。
サラッサラのブロンドも、光沢を放つドレスも、凛と広げた白翼も、すべてがゴージャスこの上ない。
チューリップの奴はブス呼ばわりしたそうじゃが、全然そんなこたぁなかった。
ちょっとばかし目が垂れとって、ちょっとばかし鼻が上を向いとって、ちょっとばかし歯茎が長いだけじゃ。
「これはこれは女神様、お会いできて光栄です」
わしは片膝をつき、首を垂れた。
そしたら、女神様は わしに目をくれて、
「あっ、自分(あんた)がハゲの勇者やな。いや、ホンマ助かったわ。おおきに」
「いえいえ、わしゃ ただ当然のことをしたまでです」
「おっ、その謙虚さ、ええやん。素敵やん。よしゃ、褒美に何か一つ望み叶えたろ」
「えッ、本当ですかぁ!?」
「ホンマや。女神に二言はない。金でも女でも髪の毛でも、何でも欲しいもん言うてみ」
思わぬ展開に わしは大いに面食らった、色めき立った。
こんな機会はまたとないぞ。
わしは大急ぎで脳みそをフル回転させた。
結果、出てきた答えがこれじゃ。
「わしの望みは……元いた世界に戻ることです」
そしたら、女神様は何とも涼しい顔で、
「なんや、そんなんでええんかいな。お安い御用やで」
「えっ、本当に?」
「楽勝やがな。けど自分 その歳で戻っても、またすぐに天に召されるんちゃうかー。あははー♪」
パツキンの毛先をつまぐりながら能天気に笑う女神様。
「いや、まぁ、それは……確かに」
わしはちょっぴり凹んでしもうた。
じゃがそれを見て 悪いと思ったのか、
「よしゃ、分かった。今回は特別にオマケ付けたるわ」
「オマケ?」
「いくらか若返らしたるっちゅーてんねん」
「えぇーッ!? そ、そんなことができるんですかぁ?」
「できるできる、余裕やがな」
「おぉ。では、是非ともお願いします」
「よしゃ、分かった。ほな、さっそく行こか」
「はい。けど、どこへ?」
「『やさぐれ山』へや」
「やさぐれ山?」
「せや。ここから1000キロほど北へ行ったとこや。そこに若返りの実があるねん」
「せ、1000キロですか」
「せや。今すぐ出発したら、明日の夕方までには到着できるわ。さ、行くで」
「あ、ちょっと待ってください」
わしは無礼にも女神様を引き止めた。
そして、無遠慮にもこんな要望を付け加えてみたんじゃ。
「実は、宿屋の店主もわしと同じ境遇でして……日本へ戻りたいと切に願っております。連れて来てええでしょうか?」
そしたら女神様は、
「んー、気持ちは分かるけどな……それは無理やわ」
と、顔を曇らせた。
「望みは一つだけって言うたやろ? しかも特別にオマケも付けたるのに、その上もう一人っちゅーのはちょっと欲張りすぎちゃうか、自分」
「は、はい、確かに……おっしゃる通りです。あの、今 言うたことは忘れてください」
すると女神様は、
「うん、忘れよう」
それから5秒ほど目を閉じたのち、
「はい、もう忘れた」
そう言ってニコッと笑ってくださった。
「とにかく、はよ行くで。うち、これからやることぎょうさんあるんやから」
「は、はい。すいません……」
そういや、梨佐さんも言ってたっけ。
『守護神の職は激務なのよ。まず治安維持でしょ、それに環境保全。この二つだけでも凄い大変なのに、その上 人間を始めとする生きとし生けるものすべての陳情に耳を傾ける活動までしてるんだから……ホント寝る間もないんじゃないかしら』
にもかかわらず、こんなわしの褒美のために時間を割いてくださるんじゃからな。
なんと懇篤なお方よ、女神様は。
「ほな 空飛んでくからな、うちの前においでーや」
「えっ、あ、はい……」
わしはすぐさま剣と盾を捨て、鎧を脱いだ。
そして、女神様をすぐ背にして立った。
恐れ多くも女神様の懐に入った形じゃ。
彼女の細く滑らかな両腕が後ろから伸びてくる。
それは わしの胴にスッと巻かれた。
「よしゃ、出発や。ジタバタしたらアカンで。体の力抜いてな、身を委ねるんや。ええかー?」
「は、はい……」
バッサバッサと羽音がしたかと思ったら、次の瞬間にはもう町を見下ろしておった。
慣れ親しんだコンババタウンが箱庭みたいに小さく映る。
そのうち、鐘の音が聞こえてきた。
寺院からか? 盛大で、やかましいくらいじゃ。
おそらく祝いの鐘なんじゃろう。
そして、広場らしき場所から花火が打ち上がった。
次々に多彩な大輪を咲かせよる。
じゃが、それらもわしらの遥か下。
よほど上空を飛んどるらしい。
女神様はというと、ずっと鼻歌交じりで飛んでなさる。
久しぶりの飛行が、さぞ嬉しいんじゃろうなぁ……。
やがて、町は見えなくなった。
正直、後ろ髪――そんなもん ありゃせんが――を引かれる思いじゃった。
わしは 心の中で訥々と呟く。
許せ、梨佐さん。
わしゃ、あんたに権利を譲るほど善人でもお人好しでもないんじゃ。
さよならも告げずに酷いと思うじゃろうが、このまま行かせてもらうよ……。
かくして、わしらは やさぐれ山へと向かったんじゃ。