#33 大メインクライマックス
「やい、チューリップ。ここで会ったが百年目じゃ!」
赤毛女の背後へ忍び寄ってから、出し抜けに声を張り上げてやった。
「……」
ところが、赤毛の奴 シカトを決め込みよる。
ならば、と わしはさらにボリュームを上げて、
「おい、コラッ、聞いとんのかぁーッ!!」
そしたら、ようやくこっちを振り返って、
「えっ、なに? もしかして、あたいに言ってるの?」
なんて、とぼけたこと抜かしやがる。
「お前以外に誰がおるというんじゃ、チューリップよ」
「チューリップ? いえ、あたいはただのOLだけど?」
「ウソをつけッ。お前、チューリップじゃろ。わしの目はごまかせんぞ」
「ちょっと やめてよ、おじいさん。一体、何を根拠にそんなこと言っちゃってるわけ?」
「背丈じゃ」
「せたけ?」
「お前、軽く3メートルはあるじゃないか。そんなデカいOLがおるか」
これが、わしが奴をチューリップと確信した理由じゃ。
どうやら、化けることはできても身長までは変えれんらしい。
「デカいだなんて酷い、酷いわッ。あたいが一番気にしてることを……」
赤毛女はその場にしゃがみ込むと、目頭を押さえた。
「びえ~ん、びえ~ん……」
「なーにが、びえ~んじゃ。どうせウソ泣きじゃろ」
わしは奴の顔を覗き込んでみた。
と、次の瞬間、
「フンッ」
いきなり鼻穴から幾本もの毛針を飛ばしてきよった。
じゃが、奴が卑怯な手を使うことは梨佐さんの話で知っとったからな、
「おっと。その手は桑名のセクシャルバイオレットじゃ」
とっさに盾を出して毛針を防いだんじゃ。
そしたら、赤毛の奴 いささか驚き気味に、
「あたいの鼻毛針をかわすとは……あんた、何者だい?」
わしゃ、胸を張って答えたね。
「人呼んで、ハゲの勇者」
「なんそれ、ダッサ」
「だまらっしゃいッ。ええから早う正体を現せ」
すると、奴は不敵に笑んで 帽子とコートを取っ払った。
途端に赤毛美女が、おかっぱ頭の唇オバケに変わり果てよった。
「此奴がチューリップか……」
わしは、初遭遇となるチューリップに好奇の視線を上下させた。
目のやり場に困る へそ出しボンデージファッション。
腰の穴あきベルトからぶら下がっとるのは、バラ鞭とひょうたんか?
膝まであるエナメルブーツにはなんと、生きたヘビが絡みついとる。
しかし、こいつ 縦だけじゃなく横にもデカいのう。
昔“人間山脈”と異名されたプロレスラーがおったが、あれの女版じゃな。
正直、気圧されてしまいそうじゃ……。
「どうした、はげちゃびん。怖気づいたのかい?」
くそぉ、わしの腹を見透かしたような言い草しよって。
じゃが、わしは敢えて余裕綽々に言い返してやった。
「いやいや。お前さんがあまりにスリムなボディしとるんでな、見とれてしまっとったんじゃよ」
そしたら、チューリップの顔からスッと笑みが消えた。
「ぜってぇ殺す……」
奴は腰元のバラ鞭を抜き取ると 臨戦態勢に入った。
わしも呼応して 剣と盾を構える。
「いざ、尋常に勝負じゃ!」
ここで、戦闘画面が立ち上がった。
わしはすぐさま、奴のステイタスを確認した。
――――チューリップ――――
レベル: 46
HP :505
МP : 0
こうげき力:385
しゅび力 :317
力づよさ :291
すばやさ :265
ぶき :よこしまなバラムチ
たて :なし
よろい:ほんがわのふく
どうぐ:のろいのひょうたん
でんせつのこけし
きわどいビニぼん
まほう:なし
おかね :218840
けいけんち:162459
――――――――――――――
「ちょ、ちょと待てッ、レベル46って何じゃ!? マックス30とちゃうんかいなッ」
話が違うぞ。
こんなん勝てる訳ないじゃろが(汗)。
……どうする?
とんずら するか?
……いや、ならん。
敵前逃亡するくらいなら、玉砕した方がマシじゃ。
わしは“たたかう”コマンドを選択し、実行した。
<ゆうしゃの こうげき… スカッ>
<こうげきは かわされてしまった>
「なぬッ、ウルティモの剣がかわされたじゃとぉ~!?」
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
「ギャ! 痛ぁーいッ」
きょ、きょ、強烈じゃのう……さすがはラスボスじゃ。
さぁ、次はどうする?
剣がダメなら、魔法でも食らわしてやるか。
わしは“じゅもん”→“チベター”と選択し、実行した。
<ゆうしゃは チベターのじゅもんを となえた!>
<ビュ~~~~~ッ!>
<しかし チューリップは ダメージを うけなかった>
「なにぃ~!? これも通用せんのか」
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
「ギャ! 痛ぁーいッ」
くそッ、また同じとこを……。
よぉし、ならば雷電攻撃じゃ。
<ゆうしゃは ゴロピカのじゅもんを となえた!>
<ゴロゴロォ~~~ピカッ!>
<しかし チューリップは ダメージを うけなかった>
「なぜじゃ!? なぜ効かん……」
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
「ギャ! 痛ぁーいッ」
畜生めッ、同じ箇所ばっか攻めやがって……。
「あっ、やばい。HPが残り40しかないぞ」
わしは慌てて“アイテム”→“やわだのあおじる”と選択し、実行した。
<ゆうしゃは やわだのあおじるを のんだ…>
<ゴクゴクゴクゴク!>
<ゆうしゃの HPが さいだいまで かいふくした!>
「ふぅ~、やれやれ……」
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
「ギャ! 痛ぁーいッ」
と、と、とにかく、奴の動きを止めんといかんな。
わしは“アイテム”→“あのこのたてぶえ”と選択し、実行した。
<ゆうしゃは あのこのたてぶえを ふいた…>
<ピーヒャラピーヒャラピーヒャララ♪>
<しかし チューリップは ねむらなかった>
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
<ゆうしゃは あのこのせいすいを あびせた…>
<ピシャピシャピシャピシャ!>
<しかし チューリップは 凹まなかった>
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
<ゆうしゃは やわだのあおじるを のんだ…>
<ゴクゴクゴクゴク!>
<ゆうしゃの HPが さいだいまで かいふくした!>
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
<ゆうしゃは アチャーのじゅもんを となえた!>
<ボォ~~~~~ッ!>
<しかし チューリップは ダメージを うけなかった>
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
<ゆうしゃの こうげき… スカッ>
<こうげきは かわされてしまった>
<チューリップの こうげき… ビシッ!>
<ゆうしゃは 75ポイントのダメージを うけた!>
<ゆうしゃは やわだのあおじるを のんだ…>
<ゴクゴクゴクゴク!>
<ゆうしゃの HPが さいだいまで かいふくした!>
<チューリップの こうげき… ビシビシッ!! げきれつないちげき!!>
<ゆうしゃは 240ポイントのダメージを うけた!>
「ヴギャーッ!! 痛ッ痛ッ痛ッ痛ッ……」
しゃ、しゃ、洒落ならん……これは洒落ならんぞッ。
残りHPは、わずか25じゃ。
やわだのあおじるも、もうない。
回復魔法を使ったところで55にしかならん。
次の攻撃を食ろうたら即アウトじゃ。
あぁ、やはり無理じゃった。
わしみたいな老いぼれに、こんな規格外の怪物を倒せる訳なかったんじゃ。
もう、ダメじゃ。
おしまいじゃ……ジエンドじゃ……劇終じゃ……。
わしはすべてを諦めて、散華を覚悟した。
じゃが、その刹那、
『爺さん、ダジャレだッ。ダジャレを使え!!』
馴染みある声が耳朶を震わせた。
「……オウム? お前なのか?」
いや、そんなはずない。
きっと幻聴じゃろう。
けど、わしはその声に懸けてみたくなった。
懸けるべきだと直感したんじゃ。
どうせ、万策尽きとるしな。
もう、どうにでもなれじゃ。
わしは“アイテム”→“じょうしのダジャレ”と選択し、実行した。