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美女に子種をせがまれて  作者: ぬ~ぶ
32/46

#32 人事を尽くしてテメエを待つ


 宿へ帰ると、梨佐さんが「冒険は順調?」と訊いてきた。


 わしは「すこぶる順調じゃ」と笑顔で答えた。


 ったく、なーにが順調じゃ。


 ケントのマントを灰にしてしもうたんじゃぞ。

 お先真っ暗ではないか。


「しかし、明日っからどうしよう……」


 ケントのマントがなきゃ、雲上の城へ行けん。

 雲上の城へ行けなきゃ、チューリップを倒せん。


 飛行機かヘリコプターでもあればな、と思う。

 じゃが、この世界ではまだ自動車すら発明されとらん。


 なら、気球はどうじゃ?


 いや、ダメじゃ。

 たとえあったとしても、目当ての雲にうまく到着できるとは思えん。


 わしは苛立ちにハゲ頭を掻きむしると、蒸留酒を呷った。


 テーブルにタンッと置いたグラスにボトルの口を寄せ、傾ける。


「ありゃ、もう(から)じゃ……」


 酒が底をついてしもうた。


 半目で窓の外を見やる。


 まだ、宵の口じゃった。


「ちと面倒じゃが、買いに出るとするか……」


 そうして おもむろに腰を上げた時、わしゃ ふと思った。


 そういや確か、チューリップも飲兵衛(のんべえ)じゃったよな。


 手元の酒を飲み尽くしたら、奴はどうする?


 そりゃ……調達に出かけるじゃろな。


 どこへ?


 そりゃ……酒屋じゃろが。


「あッ!!」


 わしゃ、卒然と色めき立った。


 雲の上に酒屋はない。


 てことは……


「奴ぁ、必ず町の酒屋に現れるッ。地上に降りてくるってことじゃ!!」


 酔いなんて吹っ飛んだ。


 わしは大急ぎで武器と防具と道具を身に着けた。

 そして、チャンリンシャンと全財産を巾着に詰め込み 自室を飛び出した。


 フロントで接客中の梨佐さんに、


「しばらく帰らんが心配無用じゃぞ」


 それだけ言い残して、宿屋を後にしたんじゃ。


 息せき切ってわしが向かった先は、酒屋ではなかった。


 道具屋じゃ。


 ウルティモの剣があるとはいえ、わしのレベルは21ぽっち。


 こんなんでチューリップと対峙する訳にゃいかん。


 きんのカプセルでレベルを上げるんじゃ。


 有り金は、ざっと150万マドカ。

 これで買えるだけ買って、上げれるだけ上げてやる。


 じゃが、そんなわしの気勢をそぐようなことをバゴンちゃんは言いよった。


「確か、最大レベルは30だったはずよ」


「ええっ……そうなんか?」


「うん。何したって それ以上にはならないわ」


 この子の言う通りじゃった。


 レベル30以後は、カプセルを何粒飲んでも上がりゃせんかった。


 しかし、レベル30といえば メタルカンテーンと同等じゃないか。

 そんなんで果たして勝てるのか? チューリップに……。


「ところで、オウムは? 一緒じゃないの?」


 つぶらな瞳に疑問の色を浮かべてバゴンちゃん。


「あぁ。奴とはな、別々の道を歩むことにしたんじゃ」


「えっ、何でぇ?」


「んまぁ、一言でいえば、方向性の違いかな」


「何それ。落ち目バンドの解散理由みたい」


 ははっ。

 この子、梨佐さんと同じ台詞を吐きよったわ。


 じゃが、これ以上 詮索されても困る。


「すまん、ちょいと急ぎの用があるんでな。もう行くよ」


 早々に辞去したんじゃ。


 道具屋を出たわしは、その足で行きつけの酒屋『アリババ酒店』へ向かった。


 この店は品揃えが乏しい上に値段も割高じゃった。


 けど、店主がな……なかなかのボインなんじゃよ。


 四十過ぎの、小股の切れ上がった女将じゃ。

 昔、餅のCMに出とった演歌歌手によう似とる。


 で、この女将な。

 酒を買う時にチップを弾んでやると、裏手の倉庫でハプハプしてくれるんじゃよ。


 ハプハプじゃぞぉ~。


 あのな、もうこの際だから白状するが、わしゃボインが大好物なんじゃ♪


 ボインは わしをハッピーにしてくれる。


 いや、わしだけじゃあない。

 ボインは世界をハッピーにしてくれるんじゃ。


 もし世の女たちが みーんなボインだったらな、

 戦争も飢餓もなくなると思うんじゃよ、マジで。


 いや、まぁ、それはさておき……


 わしはこの女将にな、協力を仰いだんじゃ。


「あ~ら、ハゲの勇者様じゃないの。いらっしゃ~い……ヒック」


「何じゃ、また飲んどるんか。仕事中じゃろが」


「あ~ら、ご挨拶ねぇ。酒屋の人間が酒飲んで、なーにが悪いのよぉ……ヒック」


 この女将、アル中気味なんが玉に(きず)じゃ。


 けどまぁ、無理もない。

 内縁の夫がチューリップにやられてしもうたんじゃからな。


 酒に逃げる気持ちも分からんではない。


「ときに、女将よ。一つ頼みたいことがある」


「あ~ら、何よ。言ってみそ……ヒック」


「酒の半額セールをやってほしいんじゃ」


「あ~ら、そんなことしたら うちが損するじゃないの……ヒック」


「いやいや、損害はもちろん このわしが持つつもりじゃ」


「つもり? つもりぃ~!? つもりじゃダメなんだよッ、このハゲ……ヒック」


「あー、もぉ 分かった分かった。なら、これでどうじゃ」


 わしは巾着からまとまった金を取り出し カウンターに置いた。


 そしたら女将の奴、一転 上機嫌になってな、


「あ~ら、さすがは勇者様、有言実行ね。これはご褒美よ……ヒック」


 と、カウンター越しにハプハプしてくれたんじゃよ、むふふ(照)。


 ――ともあれじゃ。


 酒屋の協力は取り付けた。


 あとは告知するだけなんじゃがのう。

 普通の看板を掲げたところで、雲の上からじゃ よう見えんじゃろう。


 そこで、わしは横断幕を作って 酒屋の屋根に設置することにした。


 まず、手芸店で綿生地を大量に()うてきてな、

 近所の主婦連中に集まってもろうて 縫い合わせてもろうたんじゃ。


 次に、筆と塗料とロープを雑貨屋から調達してきてな、

『酒類全品半額!!』と、ババロアー語で手書きしたんじゃ。

(この時ばかりは達筆魔法のマウジーが役に立ったぞい)


 あとは、四隅に穴を空けてロープを通すだけ。


 屋根上への据え付けは ちと骨が折れたがな、

 まぁ、何とか無事に済ますことができた。


 そうして、アリババ酒店の半額セールが幕を開けたんじゃ。


 わしは酒屋の真向かいの住人に頼み込んで、2階の一室を貸してもろうた。


 酒屋の出入り口がよう見える窓辺にべったり張り付いてな、奴の出現を待ち構えたんじゃ。


 セールが始まって(はや)3日が過ぎた。


 連日のように行列ができるものの、怪しき姿は皆無じゃった。


 ちなみに、女将との取り決めは10日間。


 それ以上となると、こっちの金が持たん。

 なんせ、セール期間中の売り上げと同額を このわしが負担せにゃならんのじゃからな。


 それに10日やって現れんのなら、30日やっても 60日やっても きっと現れん。

 どこかよそに行きつけがあって、そこ以外は利用せんということなんじゃろう。


 セール開始から4日目が過ぎた。


 この日は終日 雨じゃった。

 横断幕の字が滲んでなきゃええが……。


 そして、5日目が過ぎ……6日目が過ぎ……


 さすがに「もうダメか」と諦めかけた7日目のことじゃった。


 それは奇しくも逢魔(おうま)(とき)(夕暮れ時)。


 行列も途切れた店先に、ロングコートの女がふらりと現れよった。


 リボンの巻かれた中折れ帽を目深にかぶり、腰まで伸びた長髪は ウェーブのかかった赤毛じゃった。

 目元は見えんが、鼻と口と頬のラインを見る限り なかなかの美形と思われる。


 じゃが、わしは一目見て 奴だと確信した。


 すぐさま巾着から最後の1本となるチャンリンシャンを取り出し、尻たぶに打ち込む。


 そして景気づけに酒を1杯呷ってから、剣と盾を握りしめ 出陣したんじゃ。


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