#31 試練の3番勝負
わしはミミズ数匹を素手でつかむと、一思いに口へ押し込んだ。
生命の危機を本能的に感じとったミミズ共は、わしの口内で必死に跳ね回る。
じゃが、わしはそのささやかなる抵抗を無残にも咀嚼によって打ち砕いた。
ミミズの肉を、臓器を、モグモグ&クチャクチャ噛み潰す……。
味は酷いもんじゃった。
まず、しょっぱさが襲ってきてな、次に酸味、最後に苦みじゃ。
舌全体がピリピリしよる。
ニオイもエグかった。
土臭さや生臭さに加え、ドブの臭気までしよるんじゃから。
けど最悪なんは、こいつらが断末魔の叫びを上げることじゃ。
「ギャー!」とか「痛いッ」とか「助けてぇ~」とかな。
これじゃあ、さすがに食が進まん……。
“カァン、カァン、カァン、カァーンッ!!”
制限時間満了を告げるゴングが鳴った。
結局、わしゃ18匹しか食うことができんかった。
対するケントは24匹も食いよった。
さすがは魔物じゃ、一日の長がある。
ちゅうことで、残念ながら わしは初戦を勝利で飾れんかった。
続く第2戦目は『乳首相撲対決』じゃった。
これは負ける気がせんかった。
なんせ、わしの乳首はアバズレンの調教によって鍛え上げられとるからのう。
さっそく、子分のモグラたちが 半裸となったわしとケントの両乳首に洗濯ばさみをセットする。
双方の洗濯ばさみは紐で繋がれとってな、その状態で引っ張り合いをするんじゃ。
無論、洗濯ばさみが取れた方の負け。
“カァーンッ!”
試合開始のゴングが打ち鳴らされた。
まずは様子見じゃ。
わしは両手を広げると、左右に小刻みにステップした。
対するケントは、少し離れて少し近づくの繰り返し。
なかなか仕掛けてこん。
そのうち、わしらはクルクルと回り始めた。
一定距離を保ちつつ、円を描くようにな。
“ファイブ・ミニッツ・パースト、ファイブ・ミニッツ・パースト”
5分経過のアナウンスが響き渡る。
ついに しびれを切らしたわしは攻撃に打って出た。
後ろへ踏み込むと同時に、上体を右側へひねってやったんじゃ。
そしたら、わしの右乳首とケントの左乳首がビヨーンと伸びた。
途端にケントの顔が苦悶に歪む。
片や わしはというと、余裕のよっちゃん。
痛いどころか、ええ気持ちじゃったよ。
マゾヒズムに目覚めてしもうとるからな。
性的苦痛は皆、快感に変換されるんじゃ。
しかし ケントも見上げた奴で、左乳首が悲鳴を上げとるにもかかわらず、上体を左後ろへ持っていきよった。歯食いしばって、白目むいて、プルプル震えながらな。
まぁ、その根性は素直に認めよう。
じゃが、無駄な抵抗と言わざるを得ん。
わしゃ、ますます気持ち良うなる一方なんじゃから。
で、そのまましばらく膠着状態が続いたんじゃがな……
ついにというか、とうとうというべきか、ケントの左乳首が取れてしもうた。
“カァン、カァン、カァン、カァーンッ!!”
ここで試合終了のゴングが鳴った。
下された裁定は、ドクターストップ。
今度はわしが勝利をつかんだんじゃよ。
これで1勝1敗。
泣いても笑っても次で最後じゃ。
その雌雄を決する第3戦目は『お尻吹き矢対決』じゃった。
本来 上の口でやる吹き矢を、下の口でやろうという試みじゃ。
さっそく、家来のネズミ共が2メートルほど離れた場所に風船を設置してゆく。
その間、わしとケントにはハンドポンプが配られた。
これを使って肛門に空気を注入すれば、尻での吹き矢が可能となる。
当然、1個でも多く風船を割った方の勝ち。
ちなみに、吹けるのは5本までじゃ。
“カァーンッ!”
いよいよ、決勝戦開始のゴングが打ち鳴らされた。
先攻のわしは四つん這いになると、矢の入った竹筒を尻にあてがった。
顔を後ろへ向け、竹筒の向きを風船へと合わせる。
そして、一気に下腹に力を込めた。
と同時に 針のついた矢が勢いよく飛び出し、それは見事に風船を捉えた。
“パァン!!”
「おぉ、やった! 命中じゃ」
次はケントの番。
奴は わしとは逆で、仰向けスタイル。
開いた両脚を高く持ち上げ、左肘を床に立て、右手で竹筒を尻にあてがう。
そして慎重に風船へ狙いを定めると、高速の矢を放ちよった。
“シュン!”
じゃが軌道がわずかに逸れてしまい、的中せんかった。
続く2本目も同様となった。
わしが当ててケントが外す、という展開じゃ。
らしくないのう。
やはり、先ほどのアクシデントが尾を引いとるのかな?
そして迎えた3本目。
先攻のわしは またも風船を割り、命中率100%を維持した。
片や、もう後がないケントは必死の形相。
黙々と尻穴に空気を補充する姿には悲壮感すら漂っとった。
もし 奴がこれを外せば、その時点でわしの勝利が決定する。
ケントのマントが手に入る訳じゃ。
矢をセットした竹筒を右手に持つと、ケントは天井を仰ぎ 深呼吸した。
それから、やおら位置についたんじゃが……
奴め、ここへ来てスタイルを変えてきよった。
わしと同じ四つん這いにな。
さぁ、いよいよじゃ。
場にいる誰もが固唾を呑んで見守る中、ケントが神速の矢を放った。
“パァン!!”
くそッ、命中じゃ。
それは、敵ながらあっぱれのプレーじゃった。
“カァン、カァン、カァン、カァーンッ!!”
しかし、なぜかここで試合終了のゴングが鳴った。
下された裁定は、ケントの失格。
なんでも 矢を放つ際に息みすぎて、みが出てしまったんじゃと。
そりゃ 決して褒められたことじゃあないが、それくらいで失格になるんかいな。
えらい厳しい競技なんじゃのう、お尻吹き矢っちゅうのは……。
じゃがまぁ、失格であれ 何であれ 勝ちは勝ちじゃ。
わしはケントと握手を交わし、奴からマントを譲り受けた。
「ははっ、ついに手に入れたぞぉ~」
最後の重要アイテム ケントのマントを獲得したわしは、さっそく羽織ってみた。
すると、どうじゃ。
ちょいと伸び上がるだけで体が宙に浮かびよる。
あとは行きたい方向へ重心を移動させるだけでよかった。
「おぉ、こりゃ最高じゃ! スーパーマンになった気分じゃ」
わしは30畳の部屋内を自由自在に飛び回った。
けど 天井が高くないんでな、すぐに頭打ちとなってしまう。
「早うこれで空高くへ舞い上がってみたいもんじゃのう……」
わしは ケントとその手下・子分・家来らに別れを告げて部屋を出た。
そして、キャプテンのツバサでファストトラベルを試みる。
じゃが、コンババタウンへのジャンプはかなわんかった。
どうやら これ、地上でないと使えんらしい。
「致し方ない。来た道を後戻りするか」
生ぬるい風がヒュルリヒュルリと吹き抜ける真っ暗闇の洞窟で、わしは ゆうさくライターを点火させた。
即座に火柱が立ちのぼり 周囲を明るく照らし出す。
わしは地上への出口目指して歩き始めた。
ところが、その瞬間 突起した岩につまずいてな、よろけてしもうた。
思わず地面に手をつかんとしたため、ライターを手放してしもうたんじゃ。
落下したライターは地面でバウンドし、その拍子に火柱をこちらへ向けてきよった。
それがあろうことか、マントの裾に触れてしもうてな。
一瞬じゃった。
まるで手品で使う綿みたく燃え尽きてしもうたんじゃよ、ケントのマントが。
まさか、最後の最後でこんなポカをやらかすとは……。
わしはすぐさまケントの部屋へ戻ると、
「あのマント、もう1枚ないかのう?」
ダメ元で奴に訊いてみた。
そしたら、
「あるわけねーだろッ、ふざけんな!」
と、キレられてしもうた。
ケントに部屋を追い出されてしまったわしは、もはや帰る以外なかった。
失意と後悔の念に苛まれながら帰路に就いたんじゃ。