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美女に子種をせがまれて  作者: ぬ~ぶ
28/46

#28 ハゲの勇者の病み上がり


 で、ようやくレベルが11になったのが、ちょうど3日後(美術商との約束の日)じゃった。


 わしらは再び画廊を訪れた。


 美術商の奴は揉み手をしながら待ち受けておった。

 ほこりっぽいカウンターには札束が4つ積まれとる。


「おい、本当にあんなもんが400万で売れたんか?」


 じゃが、美術商はニヤニヤしとるだけで答えやせん。


 わしは札束を巾着に詰め込むと早々に店を出た。

 

「あいつ、少なくとも500万以上で売ってるぜ」


 オウムの奴が利いた風な口をききよった。


 じゃが、さっきのあのにやけ顔から察すると、オウムの読みも満更外れてはなさそうじゃ。


「まぁ、ええじゃないか。ともあれ、わしらは400万マドカを手に入れたんじゃ」


「三久法師がこれを知ったら、半分よこせと言うだろうな」


「ははっ、かもしれんな」


 大金を得たわしらは、まず武器防具を最高ランクにした。

 鋼鉄製の『この上ない剣』『この上ない盾』『この上ない鎧』じゃ。


 それから、バゴンちゃんの道具屋で大人買いしてやった。


 攻撃力が上昇する『ツチノコのしっぽ』に、守備力が上昇する『ユニコーンのツノ』じゃろ。

 敵を凹ませる『あのこのせいすい』も買ったし、敵を眠らせる『あのこのたてぶえ』も買った。


 1度訪れた場所なら念じるだけで瞬間移動できるっちゅう『キャプテンのツバサ』なんか20万もしたけどな、ポンと買ってやったぞ。


 他にもいろいろ()うたけど……やっぱ、極め付きは『きんのカプセル』じゃ。

 1粒飲むだけでレベルが3も上がるんじゃから、こんな楽なこたぁない。


 おかげで、今やレベル20じゃ!


 やっぱ、世の中 カネじゃな。

 カネに勝るものないわ……。


「おい、オウムよ。どうじゃ、今日はもう休みにせんか?」


「そうだな。たまには息抜きも必要だからな」


「よし、そうと決まったらここで解散じゃ。お前、これで何でも好きなもん飲み食いしてこい」


 そう言って、わしはオウムに紙幣を10枚ほどくわえさせてやった。


 オウムは嬉々として羽ばたくと、さっそく盛り場の方へ飛び去っていった。


「さ・て・と……」


 お邪魔虫ならぬ お邪魔鳥の排除に成功したわしは、町の中心部より西に外れた場所にある高台へと足を運んだ。


 この一帯は権力者や富裕層が住む一等地でな、高級店や小洒落た店なんかがちらほらあった。


 まず わしは服屋へ行って、一番高い銀鼠(ぎんねず)のスーツ(吊るしじゃがな)を買って着替えた。

 次に レストランへ行って、一番眺めのええ席を予約した。

 それから 花屋へ行って、一番人気の花を束ねてもろうたんじゃ。


 わしは意気揚々とコンババインへ向かったよ。

 その足取りは、(はた)から見りゃ弾むように軽やかじゃったろう。


「梨佐さーん……どこじゃ?」


 平素なら、この時間はフロントにおるはず。

 じゃが、見当たらん。


 自室にもおらんし調理場にもおらんかった。


 客室の清掃でもしとるんじゃろか?

 それとも貯蔵庫で検品作業中かな?


 わしは狭い廊下を行き来して、部屋という部屋を片っ端から覗いて回った。


 そしたら、


「あ、いたいた……」


 小窓が一つの薄暗いリネン室に彼女はおった。

 替えのシーツかタオルでも取りに来たんじゃろう。


 けど、何かおかしい。

 ずっと棒立ちで動きゃせん。


 そのうち 気配に気づいたのか、わしの方へ振り返った。


「な、何じゃ、どうした!?」


 わしは慌てて駆け寄った。


 梨佐さんの目に涙が溢れておったからじゃ。


 彼女は手早く涙を(ぬぐ)うと、無理やり笑顔をこしらえた。


「何で泣いておったんじゃ?」


 わしが優しく訊ねると、


「夫と子供が恋しくて……」


 その一言に、わしは愕然とした。


 まるで脳天に(くさび)を打ち込まれたかのような衝撃を受けたんじゃ。


 梨佐さんは既婚者で、子供までおった……。


「まさか」と思ったが、同時に「だろうな」とも思った。


 そりゃ、そうじゃ。

 こんな美形で気立てのええ女、世の男共が放っとくはずないわ。


 なのに このわしときたら、一張羅(いっちょうら)着て花束まで抱えてディナーのお誘いってか?

 ったく、一人相撲もええとこじゃ。


 何だか急に、自分が惨めなピエロに思えてきた。


「あれ、どうしたの? 勇さん」


「……え?」


「そんな めかし込んで、花束まで」


「いや、これはじゃな……つまり、その……」


「あ、デートでしょ」


「えっ、いや……あぁ、まぁ、そんなとこじゃ」


「やっぱモテるのね、勇者ともなれば」


「ははっ……ま、まぁな」


 しめた。

 体裁のええように誤解してくれたわい。


 なら、ついでにちょいと ええかっこさせてもらうか。

「あ、そうじゃ……」


 わしは上着の内ポケットから札束を一つ取り出すと、


「これまでの宿賃と治療代、それに迷惑料じゃ」


 梨佐さんの両手に握らせた。


 そしたら彼女は、


「えぇ!? こ、こんなに……ダメよ、多すぎるわ」


 と、わしの手に戻してきよった。


 じゃが、それをまた強引に押し返す。


「んなこたぁない、むしろ少ないぐらいじゃ。ええから取っておけ、勇者に恥をかかすな」


 すると今度は、


「……ありがとう、勇者様」


 素直に受け取ってくれた。


「ほんじゃ、わしゃ もう行くわ。待ち合わせに遅れちまう」


「行ってらっしゃい。楽しんできてね……」


 わしは宿屋を出ると、路地裏のゴミ箱に花束を捨てた。

 そして、高台の高級レストランへ向かった。


 夜景の美美(びび)しい最良席で2人前のフルコースをやけ食いし、我慢しとったビールやワインも やけ飲みしたんじゃ。


 おかげで血糖値が跳ね上がってのう、また寝込む羽目になってしもうた。



 丸一日の昏睡を経てようやく起き上がったわしは、梨佐さんが止めるのも聞かず町へ出かけた。


 途中 目がかすんでどうしようもなくなったがな、チャンリンシャンを立て続けに3本打ってやったらクリアになった。


 じゃが、手足のしびれは取れやせん。


 わしは酔いどれみたく頼りない足取りで盛り場を歩き回った。


 ったくオウムの奴、どこへ行きよった。

 まさか、あの金くわえたまま とんずらしたんじゃなかろうな。

 

 わしは目につく飲み屋すべてを覗いて回った。

 じゃが、オウムを見つけることはできんかった。


 そのうち、また目がかすんできて気分が悪うなってきた。


 わしは この雑然とした盛り場から離れることにした。


 シラフなのに千鳥足で歩みを進めておると、やがて人気(ひとけ)のない空き地へ至った。


 そこでへたり込んだわしは、ついに嘔吐してしもうた。


「大丈夫かい?」


 口元を(ぬぐ)って、声した方へ顔を向けてみる。


 ござの上でカップ酒を飲んどる男の姿が視界に入った。


 よれよれのTシャツに、つぎはぎだらけのスラックス。

 垢のせいか日焼けのせいか、顔も首も腕も(すす)けたように黒い。


 20代にも40代にも見える年齢不詳な感があった。


「せっかくの酒をまずくして申し訳ない」


 わしは男の元へにじり寄ると、紙幣を1枚くれてやった。


「おっ、気前がいいねぇ。さすがはハゲの勇者様だ」


「ハゲの、じゃとぉ? あんた、どこでその呼び名を?」


「どこで、っていうか……もう町中の人間がそう呼んでるぜ。あんた ババヌキタウンで、燃え盛る家の中から100人の赤ん坊を救ったんだってな。マジすげぇよ」


「ひゃ、100人じゃとぉ?」


 噂話にゃ尾ひれがつくもんじゃが、どんだけデカい尾ひれなんじゃ、まったく……。


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