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美女に子種をせがまれて  作者: ぬ~ぶ
25/46

#25 勇者の慈悲


「お前、これをどこで見つけた?」


「ヴヴッ……場所は覚えとらん。木の枝に引っ掛かっとったんじゃ」


 もりんばは、このアイテムが何なのか知らんかった。

 ただ、光を放つことに魅力を感じ 我が物にしたのだという。


 もりんばは、このサングラスを狩りの道具として用いておった。


 サングラスをかけ 草むらに寝転がっておると、その不思議な光に誘われて 好奇心旺盛な小動物が近寄ってくるんじゃと。


 それを捕食して何とかこれまで生き延びてきた、ということじゃった。


「すまんがそのサングラス、譲ってはくれんかのう?」


 わしはダメ元で訊いてみた。


 すると、もりんばはこう答えた。


「ヴヴッ……あぁ、ええとも。おらの頼みをきいてくれるならな」


「頼み? 何じゃ、その頼みとは」


 そしたら、もりんばは わしの剣を指差して、


「そいつで、おらに とどめを刺してくれ」


「な、何じゃとぉ!?」


「ヴヴッ……おら、もう疲れた。精根尽き果てたんじゃ」


「……」


「もし、お前に慈悲の心があるなら 頼む。今すぐ殺してくれ」


「いや、そう言われてもじゃな……」


「これが欲しくないのか? 今 この手で粉々にしたってええんじゃぞ」


「ま、待てッ。それは困る」


「なら、やってくれ。頼む」


「んん~ ……分かった」


 わしは盾を地面に置き、たいまつを岩の隙間に挿し込んだ。

 空いた両手で剣を握りしめ、もりんばの頭上に構える。


 もりんばは胡坐(あぐら)の状態で背筋を伸ばし、静かに目を閉じた。


「何か言い残すことはないか?」


 わしがそう訊くと、もりんばは瞑目したまま口を開いた。


「ヴヴッ……おらはこれまで(いたずら)に人間を食ろうてきた。今となっては後悔しとるし、こんな最期を迎える羽目になったのも自業自得じゃ。もし今度生まれ変わるとしたら、人畜無害な草食動物がええな……ふふっ」


 それを受けてオウムが、


「フンッ、何をほざいてやがる。さぁ、爺さん。早いとこ()っちまいなよ」


 じゃが、わしは剣を鞘に戻した。


 そして、試しにマキロソ(怪我治癒)の呪文を唱えてみた。


 すると、どうじゃろう。


 もりんばの胸の傷がウソみたいに綺麗に完治しよった。


 それに伴い、風貌の方もずいぶんと変化を遂げた。


 まず、青白く萎びとった皮膚は色艶を取り戻したじゃろ。

 それに、干からびとったざんばら髪も刺々(とげとげ)しく逆立った。


 目玉なんか、新品の電球の如く爛々(らんらん)と輝きだしたし……

 だらしなく垂れ下がっとった口角も、今や耳まで吊り上がっとるじゃないか。


 しかし、何より体全体がじゃな、一回りデカくなったように感ぜられる。


 つまり、これが奴の健常時の姿っちゅうことか。


「あぁッ!? な、何で……」


 思わず立ち上がったもりんばは、大そう驚き 戸惑いよった。


 てっきり わしに叩っ斬られると思っとったからな、無理もない。


「まぁ、あれじゃ。罪を憎んで人を憎まずってやつじゃ。お前は人じゃないけどな、はっはっはっ」


 すると、もりんばはその大きな体を折りたたんで、わしの前にひれ伏した。


「何と礼を申し上げてよいのやら……」


「いや、礼など言わんでええ。その代わり一つ約束してくれ。もう、人間を食ったりせんとな」


「承知しました。今ここに誓います」


「それと、あれじゃ……例の菓子の家な。早々に取り壊すんじゃぞ」


「はい。仰せの通りに」


 そして、わしらが立ち去ろうとすると、


「お待ちください。これをお忘れです」


 そう言って、やからのグラサンを差し出した。


「おぉ、そうじゃった。すっかり忘れとったわ」


 そしたらオウムの奴が、


「しっかりしろよ、爺さん。()けてんのかぁ?」


 と、憎まれ口を叩きよった。


「なーにを言うかッ。そういうお前だって忘れとったくせにぃ……」


 わしはもりんばからサングラスを受け取ると、


「じゃが確か、殺す約束じゃったよな? 殺しとらんけどええんかのう、貰っても」


 と、ジョークを飛ばしてやった。

 もりんばの奴はきまり悪そうに笑んでおったな。


 その後、わしらはもりんばの厚意で町の手前まで送ってもらった。


 オウムがわしの背中にしがみつき、わしがもりんばの背中にしがみついてな。

 それで全力疾走するんじゃが……これがまた、速いのなんのって。


 人の足で半日がかりの距離を、ものの30分かそこらで走破しよったんじゃから。


 おかげで時間と労力を大幅に節約できたわい。


「おい、オウムよ。次はどこへ行けばいい?」


「次は『もうもくの砂漠』だ」


「盲目の砂漠?」


「透明のモンスターがいるから そう呼ばれてるんだよ」


「透明なら見えんじゃないか。危険じゃろ」


「何言ってんだよ、爺さん。そのために今日 手に入れたんじゃないか、やからのグラサンを」


「あぁ、そっか。こいつをかければ見えるようになるって話じゃったな。めんごめんご……」



 翌朝、わしらはコンババから南へ10キロ離れた場所にある もうもくの砂漠へと足を運んだ。


 なんせ、歩きで10キロじゃから2時間もかかってしもうたわ。


 梨佐さんが渇きを案じて水筒を4つも持たせてくれたんじゃがな。

 砂漠に着くまでに2つも飲み干してしもうた。


「爺さん、抜かるなよ」

「あぁ、分かっとる……」


 わしは やからのグラサンを装着し、もうもくの砂漠へ踏み入った。


 炎天の下、黄色い大地が 時に緩やかに時に激しく高低を繰り返しながら延々と続いておる。


 途方もない砂礫(されき)の量じゃ。

 草木1本見当たらん。


 しかし、熱気が半端ないな。

 まるでレンジでチンされてるようじゃわ。


 汗だくになって歩みを進めておると、早くもモンスターがちらほら視界に入ってきた。

 見るからに猛毒を持ってそうなヘビやサソリで、いずれも常識外れのデカさじゃ。

 

 試しにサングラスをずらし裸眼にしてみたら、やはり見えんかった。


「おい、こいつら相手にちょいとレベル上げしておこうか?」


 じゃが、オウムはかぶりを振った。


「水が残り少ない。アイテムGETを優先すべきだ」


「それもそうか。……で そのアイテムじゃが、何だったかのう?」


「もう、忘れたのかよ。ったく、これだから年寄りは……『スケバンのマスク』だよッ」

 

「あぁ、そうじゃったそうじゃった」


 わしはオウムの助言通り、雑魚モンを避けながら突き進むことにした。


 かなりデタラメというか縦横無尽な探索じゃったが、ドエスのほねがあるんじゃし 特に不安は感じんかった。

 

 そのうち、大地が丘のように大きく盛り上がっとる箇所に行き着いてな。

 これはもしや と直感したわしは、すぐさまてっぺんまで登ってみた。


 そしたらなんと、宝箱が見つかった!


 いかにも古めかしい木の箱でな、縁に金具が施されておる。

 映画『パイオーツ・オブ・カリビアン』に出てきそうな代物(しろもの)じゃ。


 けど、あいにく鍵がかかっとって中身を拝めんのじゃよ。


 なら、剣で叩き壊そうかと提案したがオウムに却下された。

 勢い余って中の品まで破壊してしもうたら洒落にならん、とな。


 それで、どうしたもんかと汗でも(ぬぐ)いながら佇んでおったら、突如 目の前にどでかいラクダが現れよった。


 目がえらい血走っとって、黄ばんだ歯をむき出しにしとる。

 背中のみならず頭にまでコブを持っとった。


♪ディロリロリィ~ン ディ~ン ディ~ン ディロ~ン ディロ~ン……


 戦闘画面が立ち上がった。


 オウムが羽ばたき 上空へ避難する。


 わしは敵のステイタスを確認した。


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