#21 初魔法シャキリ
「あと13匹倒せばレベル3だ。頑張れ、爺さん」
少し離れた木の枝からエールを送るオウム。
「頑張らいでかッ」
レベルアップ後の戦闘は幾分楽になった。
受けるダメージが半減したし、たまにじゃが攻撃をかわすこともできた。
2匹同時に現れることもあったが、痛快な一撃が出てくれたおかげで難なく乗り切れた。
で、計20匹倒してレベル3になった時じゃ。
<ゆうしゃは シャキリのまほうを おぼえた!>
「おぉ、ついに魔法を覚えたぞッ。おい、オウム。これは何の魔法じゃ?」
「それは体力回復の魔法だ。HPが30ポイント回復するんだぜ」
「なにっ、30もか? そりゃええな」
「だが、1回使用する度にМPが2ポイント消費されるってことを忘れちゃいけないぜ」
「そうか、魔法は使い放題って訳でもないんじゃな」
わしのМPはこの時5じゃったから、2回使えるってことか。
さっそく、わしはシャキリの呪文を唱えてみた。
「うおぉ~。こりゃ何とも心地ええ……」
それは、まるで全身にメントールでも塗られたかのような爽快感じゃった。
その名にたがわずシャキリと元気になった。
7まで減っとったわしのHPが37に回復したんじゃ。
オウムによれば、宿屋で1泊するとHP МP共に全回復するらしい。
また、温泉につかったり、立ちんぼにハプハプしてもらうことでも回復可能なんだとか。
ちなみに、魔法は全部で11種類あるという。
以下が、そのラインナップじゃ。
▼シャキリ 体力回復 習得レベル 3 消費МP 2
▼アチャー 火炎攻撃 習得レベル 5 消費МP 3
▼マキロソ 怪我治癒 習得レベル 7 消費МP 3
▼チベター 氷雪攻撃 習得レベル 9 消費МP 5
▼マウジー 達筆になる 習得レベル12 消費МP 5
▼ヤラセン 魔法封じ 習得レベル15 消費МP 6
▼ゴロピカ 雷電攻撃 習得レベル18 消費МP 4
▼トコトコ 水上歩行 習得レベル21 消費МP 8
▼イネコラ 強敵回避 習得レベル24 消費МP 7
▼ビンビン 勃起力向上 習得レベル27 消費МP12
▼アマタツ 天候操作 習得レベル30 消費МP10
中には、明らかに冒険と関係ないもんも交じっとるが……まぁ 別に害はないんじゃし、良しとしておこう。
「おい、爺さん。今日は初日なんだし、これくらいでいいんじゃねぇか?」
オウムが飛んで来て、ホバリングしながら言った。
「ふぅ~、確かにそうじゃな。これ以上やると“年寄りの冷や水”になりかねん」
日暮れまでにはまだ だいぶあったが、ここらで打ち止めとすることにした。
結局、この日倒したカンテーンの数は24匹。
獲得した金は720マドカ。
覚えた魔法は1個。
そして、レベルは3じゃ。
わしらはNO牧場を後にしてコンババタウンへ戻った。
「まぁ、綺麗な鳥ね。インコかしら?」
「失礼な女だな。頭をよく見ろよ。ちゃんと冠羽があるだろが」
「あら、ごめんなさい。じゃあ、オウムさんね。私は梨佐。どうぞよろしく」
「はいはい、しくよろ。それよりさ、おいら腹減ってんだよ。何か食わせてくれねぇか?」
「コラッ、お前。梨佐さんに何て口の利き方じゃ」
「いいのよ、勇さん。私、こういうキャラ 嫌いじゃないから」
「え、そうなんか? んじゃ、こいつもここに厄介になってもええんじゃろか?」
「もちろん。大歓迎よ」
「おぉ、なんと寛容な……聞いたかッ、オウム。梨佐さんにちゃんと礼を言うんじゃ」
「その前に飯だ。ちゃんと腹いっぱい食わせてくれたら、礼でも世辞でもいくらでも言ってやるよ」
「ふふ、分かったわ。すぐ用意するわね――」
その夜、わしとオウムと梨佐さんは同じ食卓を囲んで賑やかに飲み食いした。
梨佐さんは、勇者になった祝いとしてオープンフェイスの懐中時計をプレゼントしてくれた。
その上、酒まで振る舞ってくれたよ。
といっても、ホワイトスピリッツ(無色の蒸留酒)じゃがな。
まぁ、糖質を考えてのことじゃろうが……わしゃ、やっぱビールかワインが飲みたかったのう(苦笑)。
オウムの奴は、果実やナッツにとどまらず パンも魚もシチューも食っとった。
おまけに酒まで飲みやがった。
しかも、これが結構いける口じゃ。
けど、典型的な絡み酒でな、質が悪い。
馴れ馴れしく肩を組んできたかと思えば、日頃の不満をぶちまけたり、説教を始めたり。
しまいにゃ、わしら人間相手に飲み比べ対決を挑んで、ぶっ倒れる始末。
そのまま高いびきで眠ってしまいやがった。
やれやれ、先が思いやられる。
じゃが、梨佐さんはオウムの醜態を面白がっておったな。
さすがというか、やっぱ度量が大きい。
わしも見習わなきゃいかん……。
◇
翌日からは、またNO牧場通い。
カンテーン相手にレベル上げに精を出した。
梨佐さんが栄養満点の弁当を持たせてくれたこともあって、気力・体力 共に充実。
作業は思いのほか、はかどった。
で、レベルが6になった時じゃ。
オウムがこんな提案をしてきた。
「なぁ、爺さん。もう少し強い奴と戦ってみないか?」
「ん、なぜじゃ?」
「次のレベル7までには、経験値を230ポイントも稼がなきゃなんねぇからだよ」
つまり、オウムが言いたいのはこういうことじゃ。
カンテーンを1匹倒して得られる経験値はたったの1ポイント。
だから、230匹も倒さにゃならん。
常勝には違いないが、かなり時間を食う。
それに対して、例えば1匹倒して5ポイントの経験値が得られるモンスターならどうじゃ?
苦戦を強いられるかもしれんが、わずか46匹で済む。
しかも、得られる金もカンテーンの比じゃない。
「決めるのはあんただ。さぁ、どうする?」
「愚問はよしてくれ。その強いモンスターとやらがおる場所へ早う案内せぇ」
ちゅうことで案内された先が、NO牧場の真南に位置する『ネコババビレッジ』。
十数年前に起きた自然災害により過疎化が進んだ結果、廃村となってしまったエリアじゃ。
荒れ果てた民家に始まり、倉庫、店舗、役場、水車、橋……と、何から何までツタの巻きひげが容赦なく隙間なく覆い尽くしとる。
言うなれば“緑に侵された村”じゃ。
その様は、ため息が出るほど圧倒的じゃった。
アーティスティックでさえあった。
「こりゃ凄い。甲子園なんか目じゃないのう」
「コーシエン? 何だよ、それ……」
もはや地図にも載っとらんこの一帯に住み着いたモンスターどもは、皆 かなり好戦的じゃった。
しかもグロテスク。
ピラニアのような顔をした奴やら、カマキリのような手をした奴やら、カモシカのような足をした奴やら……。
1匹倒せば4~6の経験値を得られるというだけあって、容易には勝たせてくれんかった。
時には“とんずら”コマンドを実行して敵前逃亡せにゃならん場面もあった。
じゃが、体力回復の魔法 シャキリに加え、火炎攻撃のアチャーもあったから(ダジャレは相変わらず効果なし)殺られてしまうなんてことにはならんかった。
わしはここでレベルを10にまで上げてみせた。
経験値の累計は軽く2000を超えておった。
気づけば、所持金も2万2080マドカ。
新たに習得した魔法は2個。
マキロソ(怪我治癒)と チベター(氷雪攻撃)じゃ。
ちなみに、この地ではアイテムを入手することができた。
『なもなきやくそう』を3個と『なもなきこうそう』を2個拾ったんじゃ。
薬草の方はHPが、香草の方はМPが、それぞれ10回復するらしい。
わずか10じゃが、ようけ集めりゃ じゅうぶん役に立つ。
あと、薬草にそっくりな『なもなきどくそう』というのもあって、こいつを使うと丸一日ダミ声になってしまうんだとか。
間違って拾わんよう注意せにゃいかん。