#20 NO牧場の戦闘
ん~、言われてみれば確かにそうじゃな。
わしは平静さを取り戻すと、
「もうええから店主よ、ちょいと商品を見せてくれんかのう?」
「へい、かしこまり」
魚屋のように威勢よく発すると、店主は壁や棚、ショーケースなんかに陳列されとる武器・防具を順に紹介してくれた。
まとめると、こうなる。
◆この上ない剣・盾・鎧(鋼鉄製)…………各20万М(3点セット 50万М)
◆素晴らしい剣・盾・鎧(青銅製)…………各15万М(3点セット 40万М)
◆上出来の剣・盾・鎧(鉛製)………………各10万М(3点セット 25万М)
◆悪くない剣・盾・鎧(岩石製)……………各 8万М(3点セット 20万М)
◆それなりの剣・盾・鎧(ガラス製)………各 4万М(3点セット 10万М)
◆気休めの剣・盾・鎧(ベニヤ製)…………各 2万М(3点セット 5万М)
◆頼りない剣・盾・鎧(プラスチック製)…各 1万М(3点セット2.5万М)
「剣・盾・鎧は、違う種類でも組み合わせて装備することが可能ですよ」
「ん~、どれも結構な値段じゃな」
「へへ。まぁ、バラで買うとそうですがね。3点セットなら、かなりお得かと……」
「それにグレードアップする際は、不要になった武器・防具を買い取ってくれるんだぜ」
口添えするようにオウムが言った。
「ほぉ、そうなんか……ではまずは、頼りない剣・盾・鎧の3点セット購入を目指すとするか。店主よ、邪魔したな。金が貯まったらまた来るよ」
「へい、待っとります」
肉屋のように威勢よく発して、店主はわしらを見送った。
「さて、いよいよレベル上げじゃな。おい、オウムよ。雑魚のモンスターとやらはどこにおる?」
「町を出りゃどこにでもいるよ。けど、爺さんはまだレベル1の初期装備だからなぁ……とりあえず『NO牧場』辺りがいいんじゃないか?」
「NO牧場?」
「雑魚モンの中でも最弱と言われてるカンテーンが多く生息してる牧場だ」
「カンテーンか。確かに弱そうな響きじゃのう。よし、ではそこへ行ってみよう」
NO牧場はコンババタウンの南西約2キロ地点にあった。
わしの足でも30分とかからんかった。
「おぉ、なんと長閑な光景じゃ……」
抜けるような真っ青の空。
緑の絨毯を敷き詰めたような野芝の平地。
それらが地平を境に見渡す限り続いておる。
「ほら見てみぃ、あの雲。まるで綿飴をちぎって浮かべたみたいじゃ」
横木柵を越えてしばらく歩を進めると、赤い三角屋根の母屋が見えてきた。
その後方には厩舎や風車やサイロの姿も目につく。
じゃが、肝心の牛が見当たらん。
馬も羊もじゃ。
それをわしが口にすると、
「カンテーンの奴らが脅かすからだよ。馬は食欲なくして痩せこけるし、牛は乳を出さなくなるし、羊は脱毛症になっちまった。それで酪農家たちはこの土地を捨てたんだ」
遠い目で母屋を眺めながらオウムが答えた。
「なるほど、そういう訳か。じゃが、そのカンテーンとやらも見当たらんではないか。一体、どこにおる?」
と、言ってるそばから現れよった!
野芝の根元からヌルッとな。
雫の形をしたゼリー状の化け物じゃ。
わしの膝小僧くらいの背丈があった。
♪ディロリロリィ~ン ディ~ン ディ~ン ディロ~ン ディロ~ン……
突如、おどろおどろしい音楽が流れだした。
そして目の前の空間に、光を帯びた文字列が浮かび上がる。
SF映画なんかでよく目にする立体画像――ホログラムとかいうやつじゃ――に似ておった。
「おい、何じゃこりゃ!?」
するとオウムが、
「戦闘画面が立ち上がったんだよ。左右にステイタスが表示されてるだろ? 左側があんたので、右側が敵のだ」
左側? ……おぉ、これか。
これが、わしの現状か。
――――――ゆうしゃ――――――
レベル: 1
HP :40
МP : 0
こうげき力:5
しゅび力 :5
力づよさ :3
すばやさ :3
ぶき :ダンボールのつるぎ
たて :ダンボールのたて
よろい:ダンボールのよろい
どうぐ:ネカマのコンタクト
じょうしのダジャレ
なまいきなオウム
まほう:なし
おかね :0
けいけんち:0
――――――――――――――――
で、右のこれが、奴のじゃな。
――――カンテーン――――
レベル: 1
HP :10
МP : 0
こうげき力:3
しゅび力 :3
力づよさ :2
すばやさ :2
ぶき :なし
たて :なし
よろい:なし
どうぐ:なし
まほう:なし
おかね :30
けいけんち: 4
―――――――――――――
「では、下の方に表示されとる これは何じゃ?」
――――――
たたかう
じゅもん
アイテム
とんずら
――――――
「それはコマンドだ。その中から一つ選んで実行すりゃ戦闘が始まるのさ」
「ほほぉ、そういう仕組みか。まるでゲームじゃな」
そういや昔、せがれが部屋でピコピコやっとったのう。
え~と、確か……『デブゴンクエスト』じゃったか。
「なーにが面白いんじゃ?」と思いながら眺めとったもんじゃが……。
「爺さん、何ぼやぼやしてんだ? まさか怖気づいたんじゃねぇだろうなぁ」
「バカ言えッ。見とれよ……」
わしは手始めに“たたかう”を選択し、実行した。
<ゆうしゃの こうげき… スバッ!>
<カンテーンに 5ポイントのダメージを あたえた!>
「ははっ、よし。ええぞ」
<カンテーンの こうげき… スバッ!>
<ゆうしゃは 2ポイントのダメージを うけた!>
「イタタッ……おのれ、畜生め」
今度はこれじゃ。
わしは“じゅもん”を選択し、実行した。
<ゆうしゃは まだ まほうを おぼえていない>
「あっ、しまった! そうじゃったわ」
<カンテーンの こうげき… スバッ!>
<ゆうしゃは 2ポイントのダメージを うけた!>
「イタタッ……またやられたわい」
ならばお次はダジャレ攻撃じゃ。
わしは“アイテム”→“じょうしのダジャレ”と選択し、実行した。
<ゆうしゃは ダジャレを とばした…>
<このブドウ 一粒どう?>
<しかし カンテーンは わらわなかった>
「な、なぜじゃ!? なぜ効かん」
<カンテーンの こうげき… スバッ!>
<ゆうしゃは 2ポイントのダメージを うけた!>
「イタタッ……くっそぉ、やりおるのう」
やはり、ここは初心に返るべきかな。
わしは“たたかう”を選択し、実行した。
<ゆうしゃの こうげき… スババッ!! つうかいないちげき!!>
<カンテーンに 15ポイントのダメージを あたえた!>
<カンテーンを たおした!>
<けいけんち1ポイント かくとく 30マドカを てにいれた!>
「あははっ、やったぞ! 見たか、オウム」
「あぁ、見てたよ。危なっかしい戦いぶりだったがな……まぁ、とりあえずはよくやった」
こうして、わしはデビュー戦を勝利で飾ったんじゃ。
「よし。この調子でガンガン行くぞい」
わしらは牧場内を散策しながらレベル上げ作業に勤しんだ。
そして、7匹目のカンテーンを倒した時じゃ。
♪パララ ラッパッパッパァー
ファンファーレみたいな音が鳴り響いて……
<ゆうしゃは レベルが あがった!>
「おぉ、レベル2になったぞッ」
<HPが 5ポイント あがった!>
<МPが 5ポイント あがった!>
<こうげき力が 2ポイント あがった!>
<しゅび力が 2ポイント あがった!>
<力づよさが 1ポイント あがった!>
<すばやさが 1ポイント あがった!>
何だか全身がカッと熱くなってきた。
まるで血潮がたぎっているかのようじゃ。