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美女に子種をせがまれて  作者: ぬ~ぶ
16/46

#16 穢れた社会


「またのご利用お待ちしております。では、失礼します……」


 入浴を終え体を拭いていると、配達員らしき声が聞こえた。


 メガネをかけ、タオルで下半身を覆い、6畳間へと戻る武留。


 それを待ち構えていた千寿留が、


「ほれ」


 と、着替えを差し出す。


 武留は少し驚いたような目顔で、


「何だ、珍しく気が利くじゃないか」


 すると、千寿留はいかにも面映(おもは)ゆいといった感で、


「珍しく、は余計なんだよ……」


 玄関の下駄箱の上には、今しがた届いた品々が所狭しと並んでいる。


 それらを手に持ち、6畳間の折りたたみ式ローテーブルへと運ぶ千寿留。


 せわしなく行き来する度にスカートが揺れ、パンツが見えた。


 武留はちょっと思惑(おもまど)ったけれど、


「さっきから気になってたんだがな……お前、そのスカート短すぎやしねぇか?」


 どう見ても学校標準とは思えないライトグレーの制服スカートを指差して言った。


「そうか? いやぁ、こんなもんだろ」


「ちょっと動くだけでチラチラ見えるぞ、パンツが」


「いいんだよ。これ、見せパンだから」


 とスカートをまくり上げ、白のラインが入ったサイド部分を見せる千寿留。


「いや、でも……ぱっと見は、生パンだぜ」


「うっせぇなー、別にいいじゃん」


「お前なぁ、ワカメちゃんじゃないんだからさぁ……そんなパンツ見せて、俺は兄として情けねぇよ」


「あー、わかったわかった。じゃあ、スパッツでもはいてやるよ。それで文句ないだろ?」


「んまぁ、スパッツなら特に問題ないか……」


 武留はちょっぴり安堵した。


 本来――母親じゃあるまいし――服装なんかに口を出したくはなかった。


 だが、ここで看過(かんか)したことにより、その後「性犯罪の被害者になっちゃった」なんてことになったら洒落にならない。一生後悔することになるだろう。


 だから、主義に反しはするが苦言を呈した訳だ。


「兄者もコーラ飲むか?」

 

 と、食器棚から2個のグラスを取り出す千寿留。


「うん、飲むぞ」


 着替えを終えた武留は畳の上に胡坐(あぐら)をかいた。


 氷の入ったグラスに缶コーラが静かに注がれる。


「はい、お疲れー♪」

「おぅ、お疲れ……」


 照れ気味に乾杯した兄妹(けいまい)は「いただきます」の合唱を怠ることなく夕食に取りかかった。


 ピザもチキンも脂っこくて味も濃かったが、そう悪くもなかった。

 千寿留も珍しく舌を鳴らして食べていた。


 最初のうちは、あーだこーだ言い合って賑やかな食卓であった。


 が、そのうち だんだん会話も途切れがちになってきて、沈黙が度々顔を出すようになったので、テレビをつけることにした。


 雑学クイズに、カラオケ選手権、絶品グルメ紹介……と、また相も変わらず同じような面子(めんつ)で同じような企画をやっている。


 N●Kでは、先日発生した一家4人殺害事件を特集していた。


 8歳と5歳の子供まで刺殺された惨状を深刻に報じるキャスターだったが……

 それが終わるや一転、


『次はスポーツです。坂本選手がやってくれましたぁ♪』


 と、満面の笑みである。


 ついさっきまでのあの沈痛な――涙でもこぼすんじゃないかくらいの――面持ちは何だったのか?


 演技じゃん。上辺(うわべ)だけじゃん。


 それは、テレビという媒体の偽善が(うかが)える瞬間だった。


「おい、コロコロ チャンネル替えんなよ」


 そう言って、リモコンを取り上げる武留。


 千寿留は、ぷうと膨れて、


「だってぇ……」


 ザッピングは千寿留の悪い癖だった。

 見ていると、こっちまでイライラしてくる。


 実家にいた頃からちょくちょく注意はしていたが、未だに直ってない。

 集中力がないのか、それとも飽きっぽいのか……まぁ、その両方なのだろうが。

 

「あー、早くあたしも飲めるようになりたいなー」


 ビールのCMを観ながら、千寿留が言った。

 すると、武留が間髪を入れずに、


「酒なんて不味いし、臭いし、高いし、顔赤くなるし、頭痛くなるし、ろくなもんじゃねぇよ」

 

「んー、下戸の兄者に言われてもなぁ……説得力ないよ」


 一笑に付す千寿留。


 そして、鼻の下にビールの泡をつけて『プハァ~ッ』とやってる女優を指差して、

「これで、いくら貰ってんだろ?」


「さぁな。知りたくもねぇよ……」


 ぷいと視線を逸らす武留。


 世の中には、カメラの前で酒を呷って「うまい!」と言うだけで何千万も貰える者もいれば、生理用品すら買えずにトイレットペーパーで代用している者もいる。


 成功者だけが優雅に空を舞い、そうでない者はひたすら地べたを這いつくばる。

 そんな不平等極まりない世界に、我々は今 生存している。


「あれ? こいつ……飲酒運転で捕まった奴だよね」


 CM明けに登場したゲストを観て、千寿留が言った。


 それは、2年ほど前に酒気帯び運転で人身事故を起こし現場から逃走した、若手俳優だった。


『ちょっとちょっと勘弁してくださいよぉ~。もう、そんなこと言うんなら、はねちゃいますよ♪』


 なんと不謹慎なことに、自身の不祥事をネタにして笑いをとっている。


 手を叩いて笑う客も客なら、こんなのを放送するテレビ局もテレビ局だ。

 皆が皆、良識の欠片もないことに驚かされてしまう。


 だが、売春あっせんの前科を持つ芸人がブレイクするご時世である。

 そう驚くことでもないのかもしれない。


『実は僕ねぇ、去年、万馬券当てちゃったんですよぉ~!』


 自慢げに話を振る若手俳優。


 すると、司会の関西芸人が、


『おいおい、君ぃ、謹慎中に競馬なんかしとったんかいな。全然反省してへんがなぁ!』


『もぉ、またそんな意地悪言う~。はねちゃうぞぉ♪』


 また、一笑いとる若手俳優。


 ここで、千寿留が独りごつように口を開いた。


「競馬って、最悪だよな」


「え、何でだ?」


 と、応答する武留。


「だって、鞭で叩いて競争させて、それを賭けの対象にしてんだぞ。最悪じゃん」


「んー、言われてみれば確かにそうだな」


「っていうかさー、そもそも乗り物じゃあないからねッ、馬は。みんな当ったり前のように乗ってるけど」


「だよな。もう、バイク代わりに乗り回してるもんなぁ」


 で、転んで骨折でもしようものなら即、屠殺場(とさつば)行きだ。

 薬殺なので馬刺しにはならないが、ペットフードくらいにはなるだろう。


 馬が好きと言いながら馬券を買うのは、環境汚染を嘆きながらゴミをポイ捨てするようなもんで、矛盾撞着以外の何ものでもない。


 乗馬をたしなむセレブ連中も含めて恥を知るべきである。



       【 ちずまよ放談 】


千寿留「おい、万世。今 競馬界で、年間 何頭の子馬が生まれてると思う?」


万 世「えー、分かんないよ。100頭とか?」


千寿留「バカッ、7000頭だ」


万 世「へー、そんなにぃ?」


千寿留「うむ。で、そのうちの大半がだな……

    わずか4歳ほどで殺処分されてるんだ」


万 世「やだ、ひどいッ。あんな優しい目をした おとなしい生き物を……」


千寿留「この悲劇を終わらせる方法はただ一つ。馬券を買わないことだ」


万 世「そっかぁ。誰も馬券を買わなきゃ 競馬なんてなくなるもんね」


千寿留「うむ。だから、もし今 これを読んでる中に競馬ファンがいたら、

    この際 競輪か競艇に鞍替えしてほしい」


万 世「あ、ちずちゃん、うまい!」


千寿留「えっ、何が?」


万 世「だって、ホラ。馬だけに鞍替え……でしょ?」


千寿留「お……おぅ。まぁな」


万 世「という訳で、次話もお楽しみにね♪」


千寿留「ぜってぇ読んでくれよな!」



      ※鞍替えの語源に 馬は関係ないそうです


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