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美女に子種をせがまれて  作者: ぬ~ぶ
13/46

#13 因縁すぎる再会


「さて、どうしたものでしょうか」


 サリーを手早く身にまといながら、アーシャが独りごつように言った。


 すると、ヤスが台所の電気をつけて、


「実は、死んだじっちゃんが言ってたんスけどね……」


 そこで言葉を切って、ストロボライトやCDプレーヤーの片付けに取りかからんとする。


「何だよ、勿体ぶんな」


 ポマード頭を指で()きながらマサが促した。


「いやね、チンチンに触れることなく射精させる方法があるとかないとか……」


「どっちなんだよ」


「へへ……あるんでやす」


 ヤスの言っているのは、いわゆる“トコロテン射精”のことである。


 前立腺を刺激してやることで、精のうも刺激され射精に至るというものだ。


 この方法ならペニスに触れなくていいし、何より短時間で強制発射させることが可能となる。


「悪くないですね。プランCに相応しいかも」


 と、思わず膝を打つアーシャ。


「だがよぉ、ケツの穴に指突っ込むんだろ? 手袋してたってヤだぜ、俺は」


「あっしだってお断りでやす」


 そう言って義兄弟はアーシャに熱視線を送る。


「な、何ですかッ、あなたたち、その目は。私だってお断りですよ、そんなの。お嫁に行けなくなりますわ」


 ビラビラまで見せといて、よく言う。


「んじゃ、ここは公平にジャンケンで決めやしょうよ」


「ダメだ。俺は昔からジャンケンよえんだよ。あみだくじにしようぜ。姫もそれでいいでしょ?」


「ち、ちょっと、何で私も入ってるんですかッ。私はあなたたちのボスですよ。お二人のどちらかで決めてくださいな」


「そんなのズルいッスよぉ~。姫も参加しないと不公平ッスよぉ~」


「だな。よぉし、決まった。おいヤス、紙とペン持って来い」


「へいへい♪」


「あ、ちょっと、私 まだやると決めた訳では……」


 とまぁ、こんな調子で3バカトリオがプランCの準備に取りかかっていると、


“ピンポーン”


 不意に玄関チャイムが鳴った。


 時刻は、ちょうど6時半に差し掛かるところ。


「どうせ、セールスか何かでしょう。ヤスさん、ちゃちゃっと追い払ってきてください」


「がってんだッ」


 ヤスは小走りに玄関へ向かい、ドアを開けた。


「今 取り込み中なんでよぉ、わりぃけど……あーッ!?」


 ヤスが喫驚するのとほぼ同時に、


「んあーッ!? お前はッ!!」


 制服姿の雑賀千寿留も驚きの声を張り上げた。


 嗚呼 神のイタズラか、それとも単なる偶然か、いずれにせよ因縁の……いや、因縁すぎる再会であった(その因縁とやらを知りたい方は【 それでも続くよ人生は 】の1~6話をご一読あれ)。


「そ、その節はどうも……ってか、何であんたがここに?」


「それはこっちの台詞だぁ! おーい、兄者ッ。いるのかーッ?」


 と、ヤスを押しのけて玄関に入る千寿留、

「一体全体、どういう……ぬあーッ!?」


 ダイニングルームで椅子に縛り付けられ ぐったりしている兄を認めて、さらに仰天。


 そばにいるマサと見知らぬ女の姿も確認した千寿留は、震える手でスマートフォンを取り出した。


「通報する気だッ。させるな、ヤス!」


 慌てて声を荒げるマサ。


「……へ、へい!」


 棒立ちだったヤスが、弾かれたように千寿留につかみかかった。


「わぁ~ッ!? 何すんだ、てめぇ……」

「それをこっちへよこすでやす……」


 スマホをめぐって組んず解れつする二人。


 だが、やはり力の差は歴然で ヤスに軍配が上がる。


「へへ。わりぃけど、これは預からせてもらいやす」


 と、千寿留のスマホをズボンのポケットにねじ込むヤス。


 するとマサが、


「おい、ついでに手足も縛っとけ」


 と、ビニールテープをヤスに投げ渡した。


 だが、勝ち気で不遜な千寿留が 縛られるのをじっとおとなしく待っているはずがない。


 彼女はスラリと伸びた脚の片っぽを持ち上げると、そのテッカテカのエナメルローファーで ヤスの足を力いっぱい踏ん付けた。


「ぎゃあ」と悲鳴を上げ、よろめくヤス。


 その隙に、千寿留は外へ飛び出した。


「バカッ、何やってんだ」


 ヤスを掻きのけ、急いで千寿留の後を追うマサ。


 千寿留は共用廊下を中央部へ向かって駆けている。


「待てぇ~、じゃりん子ッ」


 靴下のまま、全力で追いかけるマサ。

 片足を引きずりながら、ヤスも後に続いた。


 千寿留は今にも迫り来るチンピラ義兄弟を背中に感じながら、壁に設置してある消火器を手に取った。


「えっとえっと、確か、この黄色いピンを……」


 千寿留は わななく手で上部の安全栓を引き抜いた。


 そして右手にレバーを、左手にホースを持ったところで、背後から肩先をつかまれた。


「部屋に戻りやがれッ、このクソガキ」


 と、つかんだ手をグイと引き寄せるマサ。

 その勢いに任せて振り返った千寿留は、ノズルをマサに向け レバーを力強く握りしめた。


 途端に粉末状の消火剤が一気に飛び出し空中に拡散、煙幕のように辺り一面を白く覆った。


 30秒ほどで噴射は止まり、千寿留は咳込みながら消火器を手放した。


 やがて視界が晴れてきて、片膝をついたマサの姿が露わとなった。


「……ゴホッ、ゲホッ、グへッ」


 咳する度に口から白い粉を放っている。

 頭の先から足の先まで全身ムラなく真っ白で、何だか『山海塾』みたいだった。


「兄貴ぃ~、大丈夫ですかぃ?」


 遅ればせながらヤスが駆けつけた。

 足を痛めたのが幸いして、消火剤を浴びずに済んだ形だ。


 ヤスは、マサの顔を覗き込むようにして、


「しっかりしてくださいッ。何とか言ってくださいよッ」


 すると、マサは相変わらず白い粉を吐き出しながら、


「とっととゴホッ、このじゃりをゲホッ、縛り上げろグへッ……」


「がってんだッ」


 威勢よく発して鼻をすすりあげるヤス。

 しかめっ面で千寿留に迫る。


 けれど、千寿留は後退しない。

 それどころかニヤリと笑んでみせる。


 人差し指をサッと上げ、それを壁面へ持っていったのだ。


「あ、やめろ……」


 だが、千寿留はやめなかった。

 火災報知器のボタンを強く押し込んだのである。


“ジリリリリーッ!!”


 非常ベルが けたたましく鳴り始めた。


「何だ、何だ、何事だべさ」


 ステテコ姿のハゲおやじが205号室から飛び出してきたのを皮切りに、ポツポツと他の住人たちも玄関ドアから姿を現す。


 やがて、付近の住民や通行人までもが集まりだした。


「さぁ、どうするよ? 変態キモキモブラザーズ」


 ふてぶてしく言い放って腕組みする千寿留。


「兄貴、どうしやす?」


「んなもんゴホッ、ずらかるにゲホッ、決まってんだろグへッ……」


「がってんだッ」


 返事だけはいいヤス。

 マサを背中に担ぐと、階段目指して歩きだす。


 だがすぐに立ち止まって、(きびす)を返し戻ってきた。


 ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、千寿留に返却。


「あ、どうも」


 思わずペコリと頭を下げてしまった千寿留。


「ほんじゃ、また……」


 と、まるで何事もなかったかのように会釈して、マサをおぶったヤスは足早に立ち去った。


「また」って何だよ。「また」なんてあるかよ、と思ったけれど……


 どこか憎めない奴、とも思ってしまう千寿留であった。


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