6 小隊長の品定め
月下の下、私は第三小隊長のアーウェンさんと中庭を歩いていた。ちなみに何故か、アズたち三兄弟もついてくる。六階建ての宿舎からはまだ灯りが漏れていた。
「アーウェン。こんな時間に女性の部屋を訪ねるなんて、どうかと思うよ」
「アーウェン! お前、アリスの寝込みでも襲うつもりだったんだろうが!」
「アーウェン兄ちゃん! アリスお姉ちゃんはボクのだから、あげないよ!」
アズ、イズ、オズが無茶苦茶なこと言っている。それにみんな小隊長相手に口の聞き方があまりに失礼なんじゃ……。
「ちょっと三人とも! 小隊長なんだよ! しゃべり方、もっと丁寧にしてよ」
私の指摘にアズたちは揃って小首を傾げる。え。何そのリアクションは。
「アリス。私達も小隊長なんだよ?」
え。ええええええええええええええっ!?
「なんだ、そういえば言ってなかった。アズは第一小隊、俺様は第五小隊、で、オズは第七小隊長。だから、アーウェンとは同じ階級だ」
イズがつまらなそうに欠伸をしながら、教えてくれた。た、確かに今世での三兄弟のポジションは聞いていなかった。
「そうだよお姉ちゃん! ボクたち、みんな中尉さんなの」
オズが愛くるしい表情でほわりと微笑む。どう見ても中尉の顔ではない。少年――それもかなり幼いさの残る顔をしているオズワルドが中尉。世の中には不思議なことが溢れていますね……。
「はい、お三方。ご説明、おおきに。んじゃ帰って帰って。邪魔だよ。じゃ・ま!」
アーウェン隊長が手をひらひらさせながら、アズたちに告げる。その辺りで私は唐突に思い出した。
アーウェン・ル・シエル……!
ガーラウドにいた時、聞いたことがあった。
皇国兵士たちに「糸目の悪魔」と恐れられていた双剣の騎士がいると。その目が見開かれた時、生きている者はいないとか……。
ごくりと喉がなる。急に底知れぬ恐怖がじわりと這い上がってきた。
「アーウェン、邪魔とは失敬だな。私達のことは気にせず、要件を言うといい。不埒なことでなければ許そう」
何故かアズワルドが腕組みをしながら、偉そうに言っていた。それに対して、アーウェン隊長は口角を上げながら嘆息する。
「あーもうわあった。わあった。いてもかまへんよ。別に。んじゃまアリスフィア」
「は、はい!」
唐突に名前を呼ばれて、声が裏返ってしまった。は、恥ずかしい。
「緊張すなって。何もとって喰おうってわけやない。入団試験は見事やった。んでな、オレも試してみとーなったんよ。あんたを、な」
「え? た、試すって、何を……?」
こちらの疑問を無視して、アーウェン隊長が腰を落とし、腰の刀に手を伸ばした。え、何故、構えるのでしょうか!?
「お、おい! 何やってんだアーウェイ! アリスは丸腰だろうが!」
イズワルドが叫ぶが、アーウェン隊長はにやりとしたまま応えない。イズの叫び声に反応したのか、宿舎の窓がいくつか開かれる。
「お! なんだなんだ。アーウェン隊長の新人狩りか!」
「毎年、毎年、アーウェンさんも懲りないねー」
「さあて、今回の新人さんは追い出されずに済むかな。お気の毒に」
な、なんでしょうか。ギャラリーとなった先輩たちが、恐ろしいことを次々と言っている。し、新人狩り!?
「ほな。行くで」
その瞬間、小隊長の糸目がかっと見開かれ、猛然とダッシュしてきた。真っ赤な瞳孔がまるで獲物を狙うドラゴンのように恐ろしい!
このままでは、やられてしまう!
私は咄嗟に精神を集中させ、詠唱をカットして聖女の力と前世の記憶を解放する。
《空間転移 ショート・カット》
《聖剣召喚 ニア・エクスカリバー》
《聖竜召喚 ニア・バハムート》
《竜魂同化 ドラグ・フュージョン》
「な、なんやと!?」
アーウェン隊長がさっきまで私がいたところをすり抜ける。私は空間転移で上空へ逃れた。そのまま魔法陣が空を染め、竜王バハムートの簡易版を召喚。その背中に乗せてもらう。次いで模造品のエクスカリバーを呼び出した。
そして、竜化と呼ばれる人と竜の一体化スキルを発動。プレートメイルと化したバハムートを纏う。背中には竜王の白翼を携え、天に踊る。
「ア、アーウェン隊長! 私はここにいたいんです! だ、だから負けるわけにいかないです!」
そう宣言すると、隊長は目を見開いたまま笑っていた。こ、こわ……。
「ふははははははっ! あんた、ええやんか! 最高や!! さあ、遊ぼうぜ!!!」
隊長が二振りの刀を抜き、頭上で交差させる。刀身がみるみるうち黒く染まっていく!
「んじゃあ、オレも行くでえええええええええええええええっ! 《竜魂同化 ドラグ・フュージョン》!!」
え!? う、うそ!
「さあ! 出番やで! 冥竜ディアボロオオオオオオオ!!」
大地に紅蓮の魔法陣が駆け巡る。漆黒のオーラが溢れ出し、小隊長が包まれていく。刹那。闇と赤が混ざり合う。視界が再び晴れると、そこに黒衣のアーウェン隊長が立っていた。東洋の着物風姿に、空中には四本の黒刀が浮遊している。
「んじゃまあ。行こうかね!」
い、いやです。来ないでくださああああああああああああい!!
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