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4 珍しい組み合わせ

 行方不明として捜索願の出されていた市内に住む高校二年生、山崎努十六歳。

 夜になっても帰宅せず、家族によって通報。翌日に捜索願を受理。

 父、母、本人、妹の四人家族。

 通学で使用していた自転車は自宅にあり、一度帰宅してから外出したと思われるが、他の家族は不在中であり、確認はとれていない。

 真面目で成績優秀。友達も少なく、塾などにも通っていない。夜遅くに帰宅するようなこともなく、どこへ出かけたのかは不明。

 遺体は死後七日ほど経過している。行方不明の時に死亡したものとみられていた。

 頸部圧迫による死亡。他に外傷はなし。司法解剖の結果はまだ出ていないが、首吊り自殺として不審な点はない。

 第一発見者は近所の住人。腐敗臭に気付て、遺体を見てしまった。


 他の捜査官が現場付近の聞き込みをしている中、奈美の命令で被害者の通う高校に来ていた。さっそくの言葉通り、新人女刑事とコンビでだった。

 校門を抜けると、運動部員が校庭で動き回っている姿が見えた。掛け声や土を蹴る音、ボールをはじく音に混ざり、笑い声も聞こえてくる。

 あの凄惨な遺体の姿が、頭に浮かんだ。

 胸糞が悪い。

 ここの生徒の一人が孤独に腐肉へと変わっていった。

 それをこいつらは知らない。

 知ろうともしない。

「南条さんは高校では何部でした?」

「……」

「高校では何部でした?」

「聞こえている。二回も言うな」

「聞こえてないのかと思いまして……」

 小首傾げて近づいて来る。

 距離をとる。

「あまり近づくな」

 奈美に臭いと言われたばかりだ。これでも少しは気にしている。

「南条さんはパーソナルスペースが広いんですね。私もそうなんです」

 なぜ、ほほ笑む?

「そうか? そういう風には見えないが……」

 割と最初から馴れ馴れしい。社会人としての距離感を越えて来るように感じる。

 最近の若い女性は、こんなものなのか?

「南条さんはいい人だからかな? 近くにいても平気みたいです」

 歩きながら近づいて来て、西森の肩が俺の腕に触れた。

 こいつわざとやってるな。

 年下に舐められるのも癪にさわる。もう知らん。

「それで、部活はなにを?」

「なぜ、聞く? 捜査に関係ない」

 別に隠すようなことでもないが、素直に答える気にならない。

「関係ありますよ。相棒のことをよく知ることは、大事なことです。神崎課長も言ってました」

 奈美の奴……なに言ってんだ?

「相棒って、テレビドラマじゃないんだから……」

 警察の捜査は、言わばチーム戦だ。コンビを組むにしても同じ相手ばかりでもない。それほど仲良くなる必要性などない。

 覗き込む西森の顔がうっとうしい。催促するんじゃない。

「わかった。面倒くさいから言う。柔道部だ」

「やっぱりそうですよね。そうだと思いました。私も柔道部入りたかったんですけど、女子柔道部が高校になかったんですよ。だから、柔道教室に通ったんです。小学生とかに投げられたりして辛かったんですけど、やっぱり警察官になるには柔道くらい習っておかないとと思って……」

 ああ、面倒くさい。

「おまえ、歳いくつだ?」

「25です」

 意外といってるんだな。

「俺と初対面ではないと言っていたな? どこで会った?」

「フフフフ……」

 なぜ笑う?

 こいつ絶対、舐めてるよな、俺のこと。


 応対してくれたのは、教頭と担任。校長もいるが、挨拶だけして自分の席に座って項垂れているだけで、会話に参加しようとしてこない。

「うちの学校に、イジメなんて、そんな……」

 教頭が大袈裟に否定のしぐさをする。

 別にイジメが原因だという情報などない。学生の自殺の原因など十中八九、それに決まっている。

 山崎努は誰かにイジメられていた。だから、自殺した。

 よく言うよと思う。

 学校に限ったことではない。人が集団になれば何かしらの差別や迫害など起こるに決まっている。大きいか小さいかの差があるだけだ。

 そんなことは誰でも知っている。

 こちらはそんな大義名分を聞きたいわけではない。

「担任の先生は? クラスのイジメ、どこまで把握してます?」

 さすがに担任の若い男性教諭は青い顔をしていた。責任問題でも気にしているのだろう。

 知ったこっちゃない。

「うちのクラスに……イジメは……ありません」

 言いながら、教頭の顔をチラチラと確認している。そういうように言えと指示されているのかもしれない。

「そういうのはいい。誰が山崎努をイジメていた?」

「ちょっと待ってください。イジメがある前提で話を進めないでもらえますか」

 教頭が割って入る。

 まあ、どうせ生徒間のトラブルなど知りもしないし、興味もないのだろう。

 無駄な時間だ。

 適当にクラスの生徒をつかまえて、聞き込みしたほうがましだ。

「山崎君はどんな生徒でしたか?」

 沈黙をしていた西森が発言する。

「真面目で、成績もいい。少しおとなしい生徒です」

「仲の良かった生徒は?」

「さあ……あまり親しい友人などはいなかったように思います」

「一人もですか? よく一緒にいるな、とか、休み時間に誰かと話しているのを見た、とか、なんでもいいんですけど?」

「えっと……仲がいいかどうかはわかりませんが、小松勇斗とはよく一緒にいるかもしれません。珍しい組み合わせだなと思ったことで覚えています」

 おいおい、なんか俺との会話の時と違うんじゃないか? この担任教師。

 普通にしゃべっている。

「珍しい組み合わせ?」

「ちょっと先生、小松ってあの小松か?」

 教頭の言葉に、しまったというような顔をする担任教師。

「はい」

「小松勇斗君というのは?」

「素行が悪いといいますか……」

「具体的には?」

「服装の乱れ、乱暴な言葉……態度。無断欠席も多かった。父親が亡くなったのが原因ではないかと」

 いわゆる不良だったということだ。

「小松君の交友関係は?」

「さあ? クラスで浮いている感じです。山崎以外で誰かと話しているのも見ません」

 これはもう、決まりだろ。

 小松勇斗は山崎努をイジメていた。そして、自殺。

 自転車問題は確かに引っかかるが、それは後に解明されることだろう。

 となりの女刑事を見る。

 特に気落ちしている様子もないようだった。


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