目覚め
不快感でエルフリーデは飛び起きた。
全身にびっしりと玉のような汗が浮かんでいる。
浅く荒い呼吸を繰り返しながら胸元をはだけてみると、そこには傷一つないつるりとした肌がある。
ぶるりと身を震わせる。
夢で済ませるには余りにも感覚が生々しかった。
この後王城で殺される……?
胸元だけ整えると母のいる食堂へ駆け出した。
「おは……あら、どうしたの?」
寝巻き姿のまま汗だくで駆け込んできた娘にテレーザは目を丸くする。
「お母様、わ、私」
「はい、お水、飲んで」
「あ、ありがとう」
ゆっくりと噛んで含めるような母の言葉に少し落ち着きを取り戻す。
「何があったの?」
「この後王城で殺される夢を見ました。でも飲んでいたワインの味も短剣が刺さる痛みも現実みたいに生々しくって」
「夢とは思えないのね、未来視の魔眼、かしら」
「未来視の……」
この村では大多数が魔眼を持っている。だからそれ自体は珍しものではない。
ただそんな中でも未来視は数十年に一度と言われる珍しさだ。今この村に他の未来視はいない。
「さすがは俺の娘だ、未来視が居なくなって10年くらいか、天気予測の精度が上がって皆喜ぶぞ」
とは言え珍しい魔眼だろうとここではこのくらいの価値しか持たない。無くても困らない、あったら便利、そのくらいの認識だ。
「お父様!おはようございます」
「おはよう、食事を済ませたらマーフレット爺さんの所に行こう。あの人は過去視だが何かの参考にはなるだろ」
未来視は最も起こりうる未来を見るが、過去視は起こった過去だけではなくその次に起こりえた過去も見ることが出来る。
過去の転換点を知れば未来の転換点の手がかりを得られるかもしれない。
気持ちが前を向いたエルフリーデは空腹感を思い出した。
「今朝はグリューネゾーセですよね」
「それは明日ね、そう言えばさっきこの後王宮でって言ったけど、王宮に行くのも明日よ」
未来視って結構細かく見えるのねと笑いながら出された大皿にはソーセージ、ハムにチーズ、ライ麦パンとトマト、レタスが載っている。
あぁあの冷製スープの気分だったと思いつつパンを切り開いて具を挟む。
チーズの塩気とトマトの酸味が食欲をそそる。一口、二口と食べ進める毎に笑顔になっていき、食事が終わる時にはいつものエルフリーデに戻っていた。